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第六百七十三話 バナナジュース
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放課後も相変わらず、図書館の利用者が多い。
「みんな張り切ってんねぇ」
と、咲良がテーブルにうなだれ、だらけた様子で行った。
「春都のクラスの出し物、何になった? 文系は舞台で発表だろ?」
「劇、シンデレラ」
「マジか」
へっへっへ、と咲良は変な笑い方をする。
「咲良のとこは?」
理系は確か、舞台での発表ではなく展示系だったはずだ。
「お化け屋敷~。朝比奈んとこは何だっけ?」
少し遠くの書架にいた朝比奈に咲良が聞く。朝比奈は雑誌から視線を上げる。
「……占いの館」
「占いの館」
これはまた、予想外な。いったいどういうつもりなんだろうと思っていたら、朝比奈は説明を続けた。
「水晶みたいなの光らせたり、タロットカードに細工したり……占い重視っていうより、科学が主かな。科学を紹介する手段として、占い、みたいな」
「へー、それは面白そう」
「おつー、お待たせ~。話し合い長引いちゃって」
来た来た、百瀬。
今日はこの後、バスセンター内にあるジュース専門店に行く予定だ。ちょっとしたスペースもあるから、しゃべるのにちょうどいい。
ただ喋るのではなく、橘の友達と会うのだ。
「んじゃ、行くかあ」
咲良が言い、図書館の外に出る。
「あ、百瀬のクラスは出し物何すんの?」
「ミュージカルだよ。なんか、めっちゃはまってる子がいてね。勢いがすごくて押された」
みんないろいろやるんだなあ。これは、ずいぶんにぎやかな文化祭になりそうだ。
バスセンター内は、賑やかというほどではないが、それなりに人がいる。総菜屋や飲食店からは、良い匂いが漂っていた。楽しそうな笑い声が聞こえるのは、居酒屋だろうか。
ジュース専門店は、バスセンターに入ってすぐのところにある。外が見えるので、バスを待つ人も使いやすい。そもそも本数の少ないバス停である。一本逃せば、十分のんびりできる時間はある。
「おっ」
店の奥の席に座る橘を見つけ、咲良が手を振る。橘は元気に手を振り返し、隣に座る友人らしき少年は会釈をした。真っ黒でさらさらの髪に眼鏡といった風貌は、真面目そうに見える。二人とも注文を終えているらしい。
さて、俺たちも。
さすが専門店というべきか、メニューがたくさんある。ずらりと並んだミキサー、明るい電光掲示板、スイーツも売られているが、今日はジュースだけにする。
いつもであればオレンジジュースを頼むところだが……今は無性にバナナジュースが飲みたい。
注文を終えたら、橘たちのところへ行く。咲良は席に座りながら声をかけた。
「悪いな、待たせたか?」
「いえ! 大丈夫です!」
さっそく、橘は話し始めた。
「あ、彼も手伝ってくれるそうです。えっと」
「青井太一といいます。よろしくお願いします」
メガネの少年、青井は生真面目そうに頭を下げる。
「よろしくなー」
各々簡単に自己紹介をし、俺の番になると、青井は少し様子が変わった。なんか、もう知ってますっていうか、ああ、これがあの……って感じだ。ていうか、ちょいちょい、そういう声が漏れてる。
「なんだー、春都有名人じゃん」
咲良がからかうように言ってくると、青井はちらっと橘を見た後、また、こっちを向いた。
「お噂はかねがね」
「出どころはあえて聞かないでおくよ」
「察しがよくて助かります」
「えー、なになに、何で二人そんな分かり合ってる感じなんですか?」
と、噂の出どころ……もとい、橘が聞いてくる。
「それより、二人とも。ありがとうな」
朝比奈が話を元に戻す。百瀬は何がツボにはまったのか、ずっと笑っている。それを気にしないように、俺も言う。
「ああ、助かった。色々と大変かもしれないが、よろしくな」
「はいっ!」
「よろしくお願いします」
と、ちょうどそこでジュースが来た。
「朝比奈さー、この時期にシャインマスカットって、贅沢かよ」
「……? 井上もオレンジ丸ごとジュースで、贅沢じゃないか」
「格が違うんだよ」
「一条のバナナジュース、豆乳だっけ? いいねえ」
「百瀬はミックスジュースか。それもうまそうだ」
今度、いろいろ試してみたい。
「いただきます」
さて、バナナジュースは久しぶりだなあ。バナナの匂いは、物によっては苦手だが、果たしてこれはいかに。
あ、これうまい。すげぇうまい。
泡立ったところはふわふわのもこもこで、シュワッとしてて……何ともいえない口当たりだ。そして何より、バナナがうまい。
程よく甘く、青臭さがない。少し残った果肉が、もっちり、とろりとしていて面白い。どっちかっていうと、さらさらとした飲み口で、重すぎない。
豆乳はさっぱりと、主張が少ない。氷は少なめだろうか。冷たすぎないのでぐびぐび飲んでしまう。
へえ、バナナジュースって、こんなにうまかったんだ。
「お前らは何飲んだの?」
と、咲良が一年生二人に聞く。喜んで答えたのは橘だ。
「はい! 僕、野菜ジュースです!」
見れば、橘の前に置いてあるコップは、緑色で満たされている。これは、野菜ジュースというより……
「青汁?」
「おいしいですよ。甘くて」
「甘いのか、それ」
青井は一口飲んでから、「俺のは桃です」と言った。ああ、桃もうまそうだなあ。なんかぜいたくな感じがする。
結構贅沢なメニューが勢ぞろいだが、学生でも買いやすい値段なのがうれしい。サイズも選べるし、今度は、何を飲んでみようか。
でも、バナナジュース、うまいなあ。ちょっとハマる予感。
またこれ、頼んでしまうかもしれないなあ。
「ごちそうさまでした」
「みんな張り切ってんねぇ」
と、咲良がテーブルにうなだれ、だらけた様子で行った。
「春都のクラスの出し物、何になった? 文系は舞台で発表だろ?」
「劇、シンデレラ」
「マジか」
へっへっへ、と咲良は変な笑い方をする。
「咲良のとこは?」
理系は確か、舞台での発表ではなく展示系だったはずだ。
「お化け屋敷~。朝比奈んとこは何だっけ?」
少し遠くの書架にいた朝比奈に咲良が聞く。朝比奈は雑誌から視線を上げる。
「……占いの館」
「占いの館」
これはまた、予想外な。いったいどういうつもりなんだろうと思っていたら、朝比奈は説明を続けた。
「水晶みたいなの光らせたり、タロットカードに細工したり……占い重視っていうより、科学が主かな。科学を紹介する手段として、占い、みたいな」
「へー、それは面白そう」
「おつー、お待たせ~。話し合い長引いちゃって」
来た来た、百瀬。
今日はこの後、バスセンター内にあるジュース専門店に行く予定だ。ちょっとしたスペースもあるから、しゃべるのにちょうどいい。
ただ喋るのではなく、橘の友達と会うのだ。
「んじゃ、行くかあ」
咲良が言い、図書館の外に出る。
「あ、百瀬のクラスは出し物何すんの?」
「ミュージカルだよ。なんか、めっちゃはまってる子がいてね。勢いがすごくて押された」
みんないろいろやるんだなあ。これは、ずいぶんにぎやかな文化祭になりそうだ。
バスセンター内は、賑やかというほどではないが、それなりに人がいる。総菜屋や飲食店からは、良い匂いが漂っていた。楽しそうな笑い声が聞こえるのは、居酒屋だろうか。
ジュース専門店は、バスセンターに入ってすぐのところにある。外が見えるので、バスを待つ人も使いやすい。そもそも本数の少ないバス停である。一本逃せば、十分のんびりできる時間はある。
「おっ」
店の奥の席に座る橘を見つけ、咲良が手を振る。橘は元気に手を振り返し、隣に座る友人らしき少年は会釈をした。真っ黒でさらさらの髪に眼鏡といった風貌は、真面目そうに見える。二人とも注文を終えているらしい。
さて、俺たちも。
さすが専門店というべきか、メニューがたくさんある。ずらりと並んだミキサー、明るい電光掲示板、スイーツも売られているが、今日はジュースだけにする。
いつもであればオレンジジュースを頼むところだが……今は無性にバナナジュースが飲みたい。
注文を終えたら、橘たちのところへ行く。咲良は席に座りながら声をかけた。
「悪いな、待たせたか?」
「いえ! 大丈夫です!」
さっそく、橘は話し始めた。
「あ、彼も手伝ってくれるそうです。えっと」
「青井太一といいます。よろしくお願いします」
メガネの少年、青井は生真面目そうに頭を下げる。
「よろしくなー」
各々簡単に自己紹介をし、俺の番になると、青井は少し様子が変わった。なんか、もう知ってますっていうか、ああ、これがあの……って感じだ。ていうか、ちょいちょい、そういう声が漏れてる。
「なんだー、春都有名人じゃん」
咲良がからかうように言ってくると、青井はちらっと橘を見た後、また、こっちを向いた。
「お噂はかねがね」
「出どころはあえて聞かないでおくよ」
「察しがよくて助かります」
「えー、なになに、何で二人そんな分かり合ってる感じなんですか?」
と、噂の出どころ……もとい、橘が聞いてくる。
「それより、二人とも。ありがとうな」
朝比奈が話を元に戻す。百瀬は何がツボにはまったのか、ずっと笑っている。それを気にしないように、俺も言う。
「ああ、助かった。色々と大変かもしれないが、よろしくな」
「はいっ!」
「よろしくお願いします」
と、ちょうどそこでジュースが来た。
「朝比奈さー、この時期にシャインマスカットって、贅沢かよ」
「……? 井上もオレンジ丸ごとジュースで、贅沢じゃないか」
「格が違うんだよ」
「一条のバナナジュース、豆乳だっけ? いいねえ」
「百瀬はミックスジュースか。それもうまそうだ」
今度、いろいろ試してみたい。
「いただきます」
さて、バナナジュースは久しぶりだなあ。バナナの匂いは、物によっては苦手だが、果たしてこれはいかに。
あ、これうまい。すげぇうまい。
泡立ったところはふわふわのもこもこで、シュワッとしてて……何ともいえない口当たりだ。そして何より、バナナがうまい。
程よく甘く、青臭さがない。少し残った果肉が、もっちり、とろりとしていて面白い。どっちかっていうと、さらさらとした飲み口で、重すぎない。
豆乳はさっぱりと、主張が少ない。氷は少なめだろうか。冷たすぎないのでぐびぐび飲んでしまう。
へえ、バナナジュースって、こんなにうまかったんだ。
「お前らは何飲んだの?」
と、咲良が一年生二人に聞く。喜んで答えたのは橘だ。
「はい! 僕、野菜ジュースです!」
見れば、橘の前に置いてあるコップは、緑色で満たされている。これは、野菜ジュースというより……
「青汁?」
「おいしいですよ。甘くて」
「甘いのか、それ」
青井は一口飲んでから、「俺のは桃です」と言った。ああ、桃もうまそうだなあ。なんかぜいたくな感じがする。
結構贅沢なメニューが勢ぞろいだが、学生でも買いやすい値段なのがうれしい。サイズも選べるし、今度は、何を飲んでみようか。
でも、バナナジュース、うまいなあ。ちょっとハマる予感。
またこれ、頼んでしまうかもしれないなあ。
「ごちそうさまでした」
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