723 / 747
第六百七十六話 からあげと手羽先
しおりを挟む
今日は、いつもよりは遅いとはいえ、ちゃんと朝に起きた。ばあちゃんの作ったおにぎりの残りがあったから、起きられたともいえる。
出汁を少しだけ作って、おにぎりにかける。ねぎも散らす。
「いただきます」
最近録画していたものの、全然見られていなかった番組を再生する。最近、漫画の試し読みをして面白いと思ったもので、アニメは四月からだから……中途半端な話数なんだよなあ。まあ、でも、それでも大丈夫。今やってるとこまでは、試し読みで履修済みだ。
いつかは見たいものだけどな。
さて、飯だ飯。
温かい出汁におにぎりが沈んでいる。ふふ、なんか不思議な感じ。箸でほぐし、口に入れる。
じゅわあっとうま味が口いっぱいに広がっていく。おにぎりだけでも十分うまかったが、出汁が合わさることによってうま味が倍増したようだ。
口の中でほろほろとほどける感じがまたいい。
ねぎのさわやかな風味と、シャキッとした食感。これがあるのとないのとじゃ、まったく味わいが変わってくる。
「は~……うまい」
出汁の風味って、どうしてこんなにほっとするんだろう。舌になじむうま味、おにぎりの味わいを包み込む温かさ、お茶漬けとはまた違う。コクが増すようである。
「ごちそうさまでした」
山盛りのおにぎりも完食。満足だ。
「さて、どうすっかね」
特に予定もないし、テレビ見るか。それとも本屋に行くか……面白いんだよな、このアニメ。漫画、買っちゃえ。
うーん、でもいったんのんびりして……いやいや、のんびりしたら動くのが面倒に……
「わふっ」
「ん? どうした、うめず」
なんだかうめずがそわそわしている。どうしたんだろう。何か嫌な雰囲気でも察知したか? いや、違う。この様子は、もしかして……
「ただいまー」
やっぱり、帰って来た。あれ、連絡あったっけ。なかったよなあ。
「おかえり、父さん、母さん」
「いや~、帰れないかと思ったけど、何とか二日、休みをもぎ取って来たよ~」
と、してやったり、という表情の母さん。
「急に帰ってくるから、びっくりした」
「サプラ~イズ」
「でも、その割には驚いた様子でもないけど?」
父さんが笑ってそう言う。
「うめずが気付いたから」
「なるほどね。あ、はい、お土産」
「ありがとう」
お、ちまきと柏餅。そうか、今日は子どもの日だ。
「どうしても帰ってこなきゃって思ってね」
「子どもの日だから、甘やかしてやるぞー」
二人がそろって、頭をガシガシと撫でてくる。撫でるというより、もみくちゃだ。崩れて困るような髪はしていないが、遠慮がなさすぎだ。
「じゃあ、これ、食べていい?」
「いいよ~。あ、お茶を入れてあげようね!」
「いや、座ってて。俺が入れるから」
疲れて帰って来たばっかりの親を働かせるわけにはいかんだろう。しかし、父さんも母さんも俺をソファに押しやる。
「いいから、私がしてあげたいの」
「そうそう。甘えとけ」
「お父さんは手伝って」
「はい」
……そこまで言うなら、甘えさせてもらおう。
「……でもさ、俺が出かけてたらどうするつもりだったの」
「え? 春都なら家にいるかなと思って」
さすが、俺のことをよく分かっているようで。当然のことのように言う。
まあいいや、お土産、食べよう。
「どっちから食うかな~」
よし、ちまき。葉っぱから剥がすの、ちょっと大変。もちーっと、とろーっとした感じ。自分じゃ買わないもんなあ。
ほんのり甘い。そして、笹の風味。この独特の感じ、ちまきでしか味わえない。
柏餅は歯切れがいいな。中のあんこはこしあんか。なめらかな口当たりと素朴な甘さ、そしてやっぱり、葉っぱの風味。
「はい、緑茶」
「ありがとう」
あんこや餅の甘さには、緑茶の風味やほろ苦さが合う。甘さを引き立てつつ、すっきりとする。
「晩ご飯は、春都の好きなものを作ろうね」
母さんが隣に座り、湯飲みを両手で包み込む。
「お、また新しいアニメだ」
と、父さんもやってくる。そしてうめずはソファに座った。
なんだか、思ってもみなかったことになっちゃったなあ。
晩飯は俺の好きなもの、そうなるとそりゃ、からあげになる。それと、手羽先。これはオーブンで焼いたやつだ。ものの見事に鶏ばっか。あ、キャベツはあるか。
「いただきます」
からあげ、揚げたてだ。
カリッとした衣は香ばしく、醤油とにんにくの風味がいい。豚の天ぷらとはまた違い、濃く、香ばしさが際立つようだ。肉と皮目の間の脂がジュワッと滲み出してたまらない。これだけでももう、飯がいくらでも食える。
肉はプリッとしてて、味がよく染みている。うちで揚げてもらったからあげって、どうしてこんなにうまいんだろう。いくらでも食えてしまう。揚げたてだから、ってだけではない。さっぱりしているわけでもない。不思議だなあ。
マヨネーズをたっぷりつけて食うと、油とまろやかさが相まって、余計に飯が進む。柚子胡椒をつけると、刺激が少し加わって、味が引き締まる。
次は手羽先。塩こしょうが少し強めで、これもまたうまい。皮がカリッカリなんだよなあ。身はほろほろとほどけ、細いところはできる限りかじる。ん~、香ばしい、うまい。
キャベツでいったんすっきりしたら、またからあげを。いくら食っても飽きないなあ。
手羽先は食っていくうちに、どんどん食うのがうまくなっていく。どうせ食うなら、食べられるところは全部食いたい。
きれいに食べられると、嬉しくなる。
「おいしいなあ」
「そうね、春都は?」
「うまい」
そんで、今、一人じゃないってこと。
おいしいと言って、笑えること。
多分、こういうのが、いつもより胃袋を底なしにさせるんだろう。そして、幸せに満たされていくんだろう。
これだけで随分、頑張れそうだ。
「ごちそうさまでした」
出汁を少しだけ作って、おにぎりにかける。ねぎも散らす。
「いただきます」
最近録画していたものの、全然見られていなかった番組を再生する。最近、漫画の試し読みをして面白いと思ったもので、アニメは四月からだから……中途半端な話数なんだよなあ。まあ、でも、それでも大丈夫。今やってるとこまでは、試し読みで履修済みだ。
いつかは見たいものだけどな。
さて、飯だ飯。
温かい出汁におにぎりが沈んでいる。ふふ、なんか不思議な感じ。箸でほぐし、口に入れる。
じゅわあっとうま味が口いっぱいに広がっていく。おにぎりだけでも十分うまかったが、出汁が合わさることによってうま味が倍増したようだ。
口の中でほろほろとほどける感じがまたいい。
ねぎのさわやかな風味と、シャキッとした食感。これがあるのとないのとじゃ、まったく味わいが変わってくる。
「は~……うまい」
出汁の風味って、どうしてこんなにほっとするんだろう。舌になじむうま味、おにぎりの味わいを包み込む温かさ、お茶漬けとはまた違う。コクが増すようである。
「ごちそうさまでした」
山盛りのおにぎりも完食。満足だ。
「さて、どうすっかね」
特に予定もないし、テレビ見るか。それとも本屋に行くか……面白いんだよな、このアニメ。漫画、買っちゃえ。
うーん、でもいったんのんびりして……いやいや、のんびりしたら動くのが面倒に……
「わふっ」
「ん? どうした、うめず」
なんだかうめずがそわそわしている。どうしたんだろう。何か嫌な雰囲気でも察知したか? いや、違う。この様子は、もしかして……
「ただいまー」
やっぱり、帰って来た。あれ、連絡あったっけ。なかったよなあ。
「おかえり、父さん、母さん」
「いや~、帰れないかと思ったけど、何とか二日、休みをもぎ取って来たよ~」
と、してやったり、という表情の母さん。
「急に帰ってくるから、びっくりした」
「サプラ~イズ」
「でも、その割には驚いた様子でもないけど?」
父さんが笑ってそう言う。
「うめずが気付いたから」
「なるほどね。あ、はい、お土産」
「ありがとう」
お、ちまきと柏餅。そうか、今日は子どもの日だ。
「どうしても帰ってこなきゃって思ってね」
「子どもの日だから、甘やかしてやるぞー」
二人がそろって、頭をガシガシと撫でてくる。撫でるというより、もみくちゃだ。崩れて困るような髪はしていないが、遠慮がなさすぎだ。
「じゃあ、これ、食べていい?」
「いいよ~。あ、お茶を入れてあげようね!」
「いや、座ってて。俺が入れるから」
疲れて帰って来たばっかりの親を働かせるわけにはいかんだろう。しかし、父さんも母さんも俺をソファに押しやる。
「いいから、私がしてあげたいの」
「そうそう。甘えとけ」
「お父さんは手伝って」
「はい」
……そこまで言うなら、甘えさせてもらおう。
「……でもさ、俺が出かけてたらどうするつもりだったの」
「え? 春都なら家にいるかなと思って」
さすが、俺のことをよく分かっているようで。当然のことのように言う。
まあいいや、お土産、食べよう。
「どっちから食うかな~」
よし、ちまき。葉っぱから剥がすの、ちょっと大変。もちーっと、とろーっとした感じ。自分じゃ買わないもんなあ。
ほんのり甘い。そして、笹の風味。この独特の感じ、ちまきでしか味わえない。
柏餅は歯切れがいいな。中のあんこはこしあんか。なめらかな口当たりと素朴な甘さ、そしてやっぱり、葉っぱの風味。
「はい、緑茶」
「ありがとう」
あんこや餅の甘さには、緑茶の風味やほろ苦さが合う。甘さを引き立てつつ、すっきりとする。
「晩ご飯は、春都の好きなものを作ろうね」
母さんが隣に座り、湯飲みを両手で包み込む。
「お、また新しいアニメだ」
と、父さんもやってくる。そしてうめずはソファに座った。
なんだか、思ってもみなかったことになっちゃったなあ。
晩飯は俺の好きなもの、そうなるとそりゃ、からあげになる。それと、手羽先。これはオーブンで焼いたやつだ。ものの見事に鶏ばっか。あ、キャベツはあるか。
「いただきます」
からあげ、揚げたてだ。
カリッとした衣は香ばしく、醤油とにんにくの風味がいい。豚の天ぷらとはまた違い、濃く、香ばしさが際立つようだ。肉と皮目の間の脂がジュワッと滲み出してたまらない。これだけでももう、飯がいくらでも食える。
肉はプリッとしてて、味がよく染みている。うちで揚げてもらったからあげって、どうしてこんなにうまいんだろう。いくらでも食えてしまう。揚げたてだから、ってだけではない。さっぱりしているわけでもない。不思議だなあ。
マヨネーズをたっぷりつけて食うと、油とまろやかさが相まって、余計に飯が進む。柚子胡椒をつけると、刺激が少し加わって、味が引き締まる。
次は手羽先。塩こしょうが少し強めで、これもまたうまい。皮がカリッカリなんだよなあ。身はほろほろとほどけ、細いところはできる限りかじる。ん~、香ばしい、うまい。
キャベツでいったんすっきりしたら、またからあげを。いくら食っても飽きないなあ。
手羽先は食っていくうちに、どんどん食うのがうまくなっていく。どうせ食うなら、食べられるところは全部食いたい。
きれいに食べられると、嬉しくなる。
「おいしいなあ」
「そうね、春都は?」
「うまい」
そんで、今、一人じゃないってこと。
おいしいと言って、笑えること。
多分、こういうのが、いつもより胃袋を底なしにさせるんだろう。そして、幸せに満たされていくんだろう。
これだけで随分、頑張れそうだ。
「ごちそうさまでした」
応援ありがとうございます!
23
お気に入りに追加
238
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる