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第四章 ヴァスキアの再興
41.自尊心の在処
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国王暗殺の現行犯で捕らえられたウラリーは、王城地下の牢にいる。
未練がましい命乞いはしていない。自分の意思でやったことだと自白している。
その彼女がたったひとつだけこだわっているのが、国王が絶命したか否かだという。
エカルトが目覚めた翌日、ラウラは彼女に会うために王城の北の塔、地下牢へ向かった。
地下へ下りる階段にはところどころに丸い凹みがあって、そこに獣の脂を使った灯りが点いている。安く手に入れやすいがひどい臭いがするので、普通は室内では使わない。入口からそう距離はないというのに、むうっと獣臭いにおいが充満していて胸が悪くなるようだった。
延々と続く螺旋階段を、どのくらい下りただろうか。
ようやく最下段に着くと、一人用の寝台の幅くらいの通路があった。その脇に鉄格子のはまった木製の扉が五つ。
「足下に気をつけてください。濡れてますから滑りやすいですよ」
さすがに一人では心細くて、テオバルトに護衛を頼んだ。
先ぶれをしておいたので、牢番が膝をついて迎えてくれている。
「一番奥でございます」
頷いて、ラウラは最奥の扉前に立つ。テオバルトが鉄格子の小窓から、冷たい声をかけた。
「王妃陛下である」
「どう? おまえの大切な夫は無事に旅立ったの?」
くくっと喉を鳴らして女は笑った。楽しくて仕方ないようだ。
扉の鉄格子を挟んだすぐそこから、激しい憎悪をぶつけてくる。
口を挟まないようにと、ここへ来るまでにテオバルトには命じてあった。悪口雑言を浴びせかけてくるのは予想できたし、護衛騎士ならそれを放っておけないだろうから。
だからテオバルトは口を真一文字に結んで牢内を睨みつけているだけだ。
「バケモノのおまえには毒は効かないんですってね。でもその方がいい。大切なものを奪われて、いまどんな気分?」
ぶつけられる激しい憎しみを前に、ラウラは無表情を守った。
「自分を大切にしてくれない男が、そんなに大事ですか?」
「シメオンはっ! シメオンはわたくしを愛してくれていたわ。おまえさえ邪魔しなければ、今もずっと側にいてくれたはずよ」
この女がエカルトにしたことを許すつもりはない。王妃としてはもちろんだが、ラウラ個人としてもそうだ。
これまでは正直なところ、どうでも良い存在だった。
元夫とは政略結婚であったから、というよりもラウラが彼を愛していなかったから、その不実にさして傷つかなかった。だから夫の愛妾になど、そもそも興味がない。勝手に競争心を抱いていやがらせをしてくるのは面倒だったが、夏のハエのようなものだ。除虫草を焚けば良い。ハエについて真剣に考えたりはしなかったし、これからもないと思っていた。
けれど今回は違う。
この煩いハエを、ラウラは本気で潰すと決めている。
このハエがなぜラウラを敵視するのか。この牢にくるまでの間、ラウラは考えた。
「あの女が望んだものを、そなたは皆持っているではないか。身の程知らずの卑しい女が妬まずにいられようか? 妬みは時として理性より強く人を動かすのだ」
かつての義母ウルリカは言った。
つまりラウラの存在が、彼女の劣等感を刺激するということだ。
自尊心を傷つける存在だから、あれほどラウラを憎む。
自尊心のために、自分の命さえ投げ出してラウラを苦しめようとする。つまり彼女にとって、自尊心こそがこの世で一番大切なもの。
それなら……。
「わかった。ではおまえをあの男の元へ送ってもらえるように、わたくしからマラークの国王陛下にお願いしてみましょう」
「え……?」
処刑されない、それどころかシメオンの元へ行けると聞いて、さすがに驚いたようだ。
疑り深くラウラを見る目に、隠しきれない期待がちらちらと見える。
「どういうつもり?」
「大切なものを失くさずに済んだから、その恩情とでもお思いなさい」
「助かった? 嘘だわ。あの毒で助かるなんて、そんなこと」
しくじったと知って、女はがくりと肩を落とした。
野心家のそれなりに賢い女なのに、どうしてこんなに愚かになれるのか。あんな男、自分から棄てることだってできたはずなのに。そうすれば彼女の自尊心が、これほど傷つけられることもなかったはずだ。
ラウラは冷たい視線を送って、くるりと踵を返す。
もう用はない。
後はこの愚かな女に、あの時処刑されていればよかったと思わせる舞台を用意してやるだけだ。
王妃の執務室へ戻ったラウラは、すぐにマラークの新国王に手紙を書いた。
ウラリー・ド・ベキュのしでかした事件のあらましと、その処罰をマラークに任せたいこと。
処罰には条件をつけた。
彼女には元国王シメオンの身の周りの世話をさせること。彼女は使用人として扱い、化粧や贅沢な衣装で着飾ることは許さないこと。
その彼女とは別に、見目うるわしく芸術的感覚に優れた貴婦人を話し相手としてつけること。
この話し相手の貴婦人たちには、けしてシメオンの閨の相手をさせないこと。そのために、数年ごとに人員を交替させること。
最後に付け加えた。
「願わくば、王妃ウルリカ様にもできるだけ頻繁にシメオン様を慰問していただけますと幸いです。国王陛下の寛大なお心におすがりいたします」
シメオンはみすぼらしいウラリーに失望するだろう。そして見目うるわしい貴婦人との語らいに夢中になって、すぐに恋をするにちがいない。けれど閨は共にできない。
シメオンが本能に負けてウラリーを抱くのに、そんなに時間は必要ないはずだ。
そこで彼女は聞かされるのだ。
見目うるわしい貴婦人への憧れや、恋しいと焦がれる感傷的な思いを。
美しく装うことのできないウラリーに、シメオンは優しくない。彼はなによりも綺麗なものが好きだから。
そうなると乳母であった、シメオンを育てたという情だけが、ウラリーの頼みの綱になるだろう。
その最後の綱も絶つ。
生母ウルリカにはかつての贖罪もかねて、シメオンに優しくしてもらおう。美しく優しい生母とみすぼらしい乳母。どちらにシメオンの愛情が向かうか、考えるまでもない。
ウラリーは肉欲をはかせる道具としてだけ、側にいることを許されるのだ。
かつてシメオンの寵姫であった自負があれば、それは耐えがたい屈辱だろう。
新国王オリヴィエ・ド・マラーク、元のアングラード侯爵であれば、ラウラの狙いはきっと正確に理解してくれる。
思惑どおりの返書をもらって、ラウラはすぐにかつての愛妾ウラリーをマラークへ送った。
生きている方が辛い人生を、しっかり味わわせてやるために。
未練がましい命乞いはしていない。自分の意思でやったことだと自白している。
その彼女がたったひとつだけこだわっているのが、国王が絶命したか否かだという。
エカルトが目覚めた翌日、ラウラは彼女に会うために王城の北の塔、地下牢へ向かった。
地下へ下りる階段にはところどころに丸い凹みがあって、そこに獣の脂を使った灯りが点いている。安く手に入れやすいがひどい臭いがするので、普通は室内では使わない。入口からそう距離はないというのに、むうっと獣臭いにおいが充満していて胸が悪くなるようだった。
延々と続く螺旋階段を、どのくらい下りただろうか。
ようやく最下段に着くと、一人用の寝台の幅くらいの通路があった。その脇に鉄格子のはまった木製の扉が五つ。
「足下に気をつけてください。濡れてますから滑りやすいですよ」
さすがに一人では心細くて、テオバルトに護衛を頼んだ。
先ぶれをしておいたので、牢番が膝をついて迎えてくれている。
「一番奥でございます」
頷いて、ラウラは最奥の扉前に立つ。テオバルトが鉄格子の小窓から、冷たい声をかけた。
「王妃陛下である」
「どう? おまえの大切な夫は無事に旅立ったの?」
くくっと喉を鳴らして女は笑った。楽しくて仕方ないようだ。
扉の鉄格子を挟んだすぐそこから、激しい憎悪をぶつけてくる。
口を挟まないようにと、ここへ来るまでにテオバルトには命じてあった。悪口雑言を浴びせかけてくるのは予想できたし、護衛騎士ならそれを放っておけないだろうから。
だからテオバルトは口を真一文字に結んで牢内を睨みつけているだけだ。
「バケモノのおまえには毒は効かないんですってね。でもその方がいい。大切なものを奪われて、いまどんな気分?」
ぶつけられる激しい憎しみを前に、ラウラは無表情を守った。
「自分を大切にしてくれない男が、そんなに大事ですか?」
「シメオンはっ! シメオンはわたくしを愛してくれていたわ。おまえさえ邪魔しなければ、今もずっと側にいてくれたはずよ」
この女がエカルトにしたことを許すつもりはない。王妃としてはもちろんだが、ラウラ個人としてもそうだ。
これまでは正直なところ、どうでも良い存在だった。
元夫とは政略結婚であったから、というよりもラウラが彼を愛していなかったから、その不実にさして傷つかなかった。だから夫の愛妾になど、そもそも興味がない。勝手に競争心を抱いていやがらせをしてくるのは面倒だったが、夏のハエのようなものだ。除虫草を焚けば良い。ハエについて真剣に考えたりはしなかったし、これからもないと思っていた。
けれど今回は違う。
この煩いハエを、ラウラは本気で潰すと決めている。
このハエがなぜラウラを敵視するのか。この牢にくるまでの間、ラウラは考えた。
「あの女が望んだものを、そなたは皆持っているではないか。身の程知らずの卑しい女が妬まずにいられようか? 妬みは時として理性より強く人を動かすのだ」
かつての義母ウルリカは言った。
つまりラウラの存在が、彼女の劣等感を刺激するということだ。
自尊心を傷つける存在だから、あれほどラウラを憎む。
自尊心のために、自分の命さえ投げ出してラウラを苦しめようとする。つまり彼女にとって、自尊心こそがこの世で一番大切なもの。
それなら……。
「わかった。ではおまえをあの男の元へ送ってもらえるように、わたくしからマラークの国王陛下にお願いしてみましょう」
「え……?」
処刑されない、それどころかシメオンの元へ行けると聞いて、さすがに驚いたようだ。
疑り深くラウラを見る目に、隠しきれない期待がちらちらと見える。
「どういうつもり?」
「大切なものを失くさずに済んだから、その恩情とでもお思いなさい」
「助かった? 嘘だわ。あの毒で助かるなんて、そんなこと」
しくじったと知って、女はがくりと肩を落とした。
野心家のそれなりに賢い女なのに、どうしてこんなに愚かになれるのか。あんな男、自分から棄てることだってできたはずなのに。そうすれば彼女の自尊心が、これほど傷つけられることもなかったはずだ。
ラウラは冷たい視線を送って、くるりと踵を返す。
もう用はない。
後はこの愚かな女に、あの時処刑されていればよかったと思わせる舞台を用意してやるだけだ。
王妃の執務室へ戻ったラウラは、すぐにマラークの新国王に手紙を書いた。
ウラリー・ド・ベキュのしでかした事件のあらましと、その処罰をマラークに任せたいこと。
処罰には条件をつけた。
彼女には元国王シメオンの身の周りの世話をさせること。彼女は使用人として扱い、化粧や贅沢な衣装で着飾ることは許さないこと。
その彼女とは別に、見目うるわしく芸術的感覚に優れた貴婦人を話し相手としてつけること。
この話し相手の貴婦人たちには、けしてシメオンの閨の相手をさせないこと。そのために、数年ごとに人員を交替させること。
最後に付け加えた。
「願わくば、王妃ウルリカ様にもできるだけ頻繁にシメオン様を慰問していただけますと幸いです。国王陛下の寛大なお心におすがりいたします」
シメオンはみすぼらしいウラリーに失望するだろう。そして見目うるわしい貴婦人との語らいに夢中になって、すぐに恋をするにちがいない。けれど閨は共にできない。
シメオンが本能に負けてウラリーを抱くのに、そんなに時間は必要ないはずだ。
そこで彼女は聞かされるのだ。
見目うるわしい貴婦人への憧れや、恋しいと焦がれる感傷的な思いを。
美しく装うことのできないウラリーに、シメオンは優しくない。彼はなによりも綺麗なものが好きだから。
そうなると乳母であった、シメオンを育てたという情だけが、ウラリーの頼みの綱になるだろう。
その最後の綱も絶つ。
生母ウルリカにはかつての贖罪もかねて、シメオンに優しくしてもらおう。美しく優しい生母とみすぼらしい乳母。どちらにシメオンの愛情が向かうか、考えるまでもない。
ウラリーは肉欲をはかせる道具としてだけ、側にいることを許されるのだ。
かつてシメオンの寵姫であった自負があれば、それは耐えがたい屈辱だろう。
新国王オリヴィエ・ド・マラーク、元のアングラード侯爵であれば、ラウラの狙いはきっと正確に理解してくれる。
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