伯爵令嬢ですが、電話交換手をやってます。目標はバリキャリなのに、溺愛されちゃいました

yukiwa

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第二章 戸惑いの新婚生活

11.考えるのを止めます *

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 ひやりと冷たい唇だった。微かに震えている。
 急激に心が冷えた。
 
(やっぱり嫌なんじゃない)

 それなら唇など重ねる必要はなかったのに。
 子供を作るのに、唇を重ねる必要はない。それくらいはアンバーでも知っている。

「ユーイン様、あの……。もうこの辺で」

 一度ユーインが唇を離したすきに、アンバーはふいっと顔を逸らす。
 もうこれ以上は無理しなくともいい。契約なのだから、拒んだりしない。そう伝えたかった。
 そうしたらなぜだか、ユーインの切れ長の目に長いまつ毛が伏せられる。
 
「いや……か?」

 アンバーを寝台の上に横たえた後、両腕をアンバーの頭の両脇について、薄い青の瞳がじっと見おろしてくる。
 傷ついた表情かおに見えるのは、気のせいだろうか。
 ズルいと思う。
 こんな表情かおをさせてしまってごめんなさいと、思わず謝りたくなる。
 
「いやではありません」

 嫌なのはむしろあなたでしょう。気をつかってあげただけと言いたかったけど、それを口にしたらまた悲しそうな表情かおをされそうで、止めた。
 覚悟はできているのだから、さっさとするべきことをすませてほしいだけ。多分これも言わない方がいいのだろう。
 一応は初夜だ。
 嫁いだばかりの花嫁に、たとえこの時だけとは言え、誠実な夫のフリをするのも礼儀で、ユーインはそれを十二分につくしてくれているだけだ。
 それならばアンバーも礼儀として、愛すべき妻の役を演じなければ。

(でもそれって、どうすればいいの?)

 誰かに好きだと言ってもらえたことはない。好きになる方はといえば、前世で高校の同級生に淡い想いを抱いたことはあったけど、憧れ程度のほのかなものでとても初夜の参考になるようなものじゃない。

「もうなにも考えるな」

 掠れたテノールの声が、耳元で響く。
 ぐるぐると考え事をしている間に、湿った赤毛がアンバーのすぐ側にあった。背にまわされた腕が、ぐいとアンバーを抱き寄せる。
 綺麗に鍛え上がられた胸筋が、目の前にある。
 ふわりと、甘く野性的なムスクの香りがアンバーを包む。
 ドクンドクンと煩い鼓動が、アンバーの頬を震わせて伝わってくる。

「白状するが……。俺も余裕がない」

 切れ長の目元に恥ずかし気な笑いが浮かんで、アンバーは思わず目を瞠った。
 嬉しいと、不覚にも思ってしまう。

「そんな表情かおも、なさるんですね」

 意外な思いにこぼれた言葉が、始まりの合図になった。
 再び重ねられた唇は、濡れて熱っぽく最初から獰猛だった。
 

 ぬらりと温かい舌が、アンバーの唇を舐めとってぐいと唇を割る。開いたわずかの隙間に、ユーインはするりと侵し入った。驚いて怯え、縮こまるアンバーの舌を捕らえて思う存分なぶった後で、口蓋の隅々まで丁寧に舐めあげてゆく。
 アンバーの唇の端から、どちらのものともわからぬ唾液があふれてこぼれつうと顎の先まで伝う。じっとアンバーの目を見つめたまま、そのこぼれた唾液をユーインがぺろりと舐めとった。そしてそのままアンバーの耳、その裏から首筋、鎖骨から腕の付け根へとユーインの唇は動く。

「かわいらしいリボンだな」

 言葉とは裏腹に、ユーインの口調は焦れていた。アンバーの袖口と襟元を飾るリボンをほどく時間さえ惜しいと、暗く滾った目の色が雄弁に伝えてくれていた。
 するりと下ろした夜着をはぎ取ると同時に、ユーインはアンバーの喉元に顔を埋める。そのまま唇を落として赤い痕をいくつも散らして。
 そして胸元で、停まる。
 長い指でやわやわと乳房を揉みしだいてから、すうっと撫で上げる。
 ぞくりと、アンバーの背に知らない感覚が走った。
 そうじゃない、そこじゃない。
 こんなこと初めてなのに、そう身体が叫んだ。

「あ……、ユーインさ……ま……」

 こぼれた声はアンバーの意思ではなくて、だから甘くねだるような声になったのも死にたいほど恥ずかしい。
 けれどユーインは嬉しそうに笑う。
 つんっとはしたなく尖った先端を、長い指の先でようやく触れた。
 ちりりと焼け付くような痛みに似た感覚が、アンバーの身体の中心を同時に貫いた。
 じゅん……と、そこが潤うのがわかる。
 
「まだだ……」

 抑えた声でユーインが、低く呟いた。
 胸の先、尖って震える頂をユーインの唇が含む。温かく濡れた口内に導かれ舌で思うままに弄られて、アンバーの身体の中心、下腹の芯がずくんと疼いた。
 その疼く芯を、ユーインの指が撫で上げる。
 途端、アンバーの唇から嬌声がもれる。

「ああっ……!」

 獰猛な指はさらに勢いを増して、幾度も幾度もアンバーの芯を撫でさすり、ぐちゃぐちゃと湿った淫らな音をたてる源泉にそろそろと侵し入る。

「まだ足りないようだな」

 ぐいと、ユーインはアンバーの両脚を肩の上に持ち上げる。そしてためらいもなく、アンバーの潤みに顔を埋めた。
 ぬらぬらと滑る温みがアンバーの芯を這う。
 十分に膨らんで張り切った尖端に、ユーインの舌が触れる。

「――――――――――つ!」

 先ほどまでとは桁違いのなにかが、芯から背筋、胸の頂までを貫いた。
 ぬらりぬらりと動く舌は幾度も幾度も緩やかに上下して、少しの間停まり、また動き、激しく上下する。
 もうどうなってもいいと、アンバーが思考を停止した瞬間。

「痛ければ俺を殴れ」

 ユーインがアンバーの右手を取って、胸元に引き寄せる。
 直後、焼けた杭を打ち込まれるような熱にアンバーは息を止めた。
 少し遅れて引き裂かれるような痛みが走る。身体の内側の粘膜が、引きちぎられるようだ。
 みちみちと少しずつ拡がる熱さと痛みに、アンバーは唇を噛んだ。

「すまない、アンバー。もう少し耐えてくれ」

 ぽとりと冷たい水滴が降って、反射的に見上げたアンバーの前に、眉間に皺を寄せ何かに耐えているユーインの苦し気な顔があった。
 玉のような汗が額に浮かんでいる。
 
(抑えてくれているんだわ)

 思うままに動いても良い。ユーインは夫で、その権利があるのだ。
 それでもそうしないのは、初めてのアンバーのため。
 そう思うと、心が暖かくなった。

「ユーイン様、もう大丈夫ですから」

 好きに動いてほしい。その思いは表情に出ていたようで。

「大切にする」

 そう何度も言いながら、ユーインは果てた。
 これまで知らなかった不思議な感情が、アンバーを支配していた。
 暖かく優しく、胸の奥がくすぐったい。
 思いのままに赤毛の頭をそっと撫でると、ふわりと幸せそうにユーインが笑った。

「そうしていてくれ。気持ちいい」

 きゅんと、アンバーの胸で音が鳴った。
 いじらしい?
 切ない?
 いや違う。もっと別の感情だ。
 けれどアンバーはそこで突き詰めるのを止めた。
 考えてはいけない。これは夜だけの感情で、認めてはいけないものだと思ったから。
 
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