伯爵令嬢ですが、電話交換手をやってます。目標はバリキャリなのに、溺愛されちゃいました

yukiwa

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第三章 副局長になっちゃいました

16.気が変わったのですか? *

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 着心地のいい木綿の夜着は、いつも同じ型のものだ。前立てヨークで切り替えてギャザーを寄せた、ゆったりしたタイプ。袖口と襟のリボンの色だけは、それぞれ違うものにしていたけど。
 嫁入りが決まった時、アンバーが自分で揃えた。同じ型にしたのは、その方が安かったから。他のタイプ、たとえば色っぽい妖艶なタイプのナイトドレスも店員にしつこく勧められたけれど、「必要ならまた後で用意する」と断った。
 
(あんなひらひらしたもの、私みたいな地味な容姿じゃとても着こなせないわ)

 当時そう思ったことは、今でも変わらない。
 子作りに妖艶さは直接必要ないのだし、実用的な夜着で十分だ。


 湯上りにいつもの夜着をすぽりと頭からかぶって、アンバーはローリーに明日の予定を確認した。
 
「明日は朝早いの。八時には職場に入りたいわ。だから朝食は六時でお願いね」
「はい、奥様。ご入浴は五時でよろしいですか?」

 ローリーはごく当然のことを確認しただけだ。けれど朝の入浴と聞いて、アンバーの頬はかあっと熱くなる。
 それはアンバーが嫁いでからずっと、毎朝の入浴が必要だった理由を思い出したからで。ローリーにその理由を知られていると気づいたからでもある。

「そう……ね。五時でお願い。もう今夜は下がっていいわ。おやすみなさい、ローリー」

 ローリーが頭を下げて退出した後、アンバーは夫婦の寝室へ続く扉に鍵をかけた。
 明日は出勤初日だ。
 王都からの移動の疲れを残したくない。だから今夜はアンバー専用の寝室でゆっくり休むつもりだったし、それは昨晩のうちにユーインにも話してあった。
 鍵をかけたのは念のため。

(たぶん必要ないでしょうけどね)

 ユーインも「わかった」と了承してくれている。
 別にがっかりした様子もなかったし、そもそもがっかりするほどアンバーに執着はないはずだ。妻が一人で休むというのなら、これ幸いと愛人のもとへ行くだろう。
 エイミーの部屋は、本館から少し離れた東の館にある。
 たぶん今夜はそこだろう。
 午後十時少し前、アンバーは寝台に横たわり、久しぶりに誰の目も気にせずゆっくり休むことにした。

 がちゃり……。
 鍵の開く音がする。
 うつらうつらし始めたアンバーのぼんやりした視界に、ナイトガウンを羽織ったユーインが映る。

(え……。どうして? 鍵かけてあったはず……)

「なにか……?」

 はっきりと覚醒しないまま、掠れた声でアンバーは聞いた。
 つかつかと大きなストライドで近づいてくるユーインは、よくわからないけれど怒っているように見えた。

「ユーイン様?」

 左腕を支えに身を起こしたアンバーを、ユーインは無言のままぐいっと横抱きに抱え上げる。
 そのまま扉の向こう、夫婦の寝室へ運んで行く。

(いや、ちょっと待って。昨夜「わかった」って言ったよね?)

 ユーインの気が変わったのだとしても、眠りについたアンバーを無言でいきなり連れ出すのはひどい。
 明日は初出勤だし、一刻も早く眠りたいのだ。
 言い合いをするエネルギーも惜しい。

「気が変わった」

 夫婦の寝台へアンバーを下ろしてから、ユーインは少し性急に覆いかぶさって来る。
 アンバーの喉元へ、唇をつけた。

「明日は早いので、今夜は一人で休むと申し上げましたが……」

 このまま始められてはたまらないと、アンバーは本気で焦った。
 初夜こそ一度で済ませてくれたが、それ以降はその……少なくとも三度は必ずだ。あの調子で今夜も励まれては、明日に響くの確定だ。

(仕事が始まったら、閨の頻度について一度話し合わなきゃいけないみたい)

 とりあえず先のことより、今現在のことだ。
 どうしてユーインの気が変わったのかはわからないけれど、今夜はあきらめてもらわなくては。

「手加減する。……できるかぎり」

 ユーインは、苦し気に、泣きそうな表情かおをしている。
 エイミーに拒まれたのだろうか。
 エイミーにしてみれば、子作りのためとはいえ、愛する男が別の女を抱く毎日が面白いはずはない。
 アンバーやマクレーン家の名誉を傷つけたことで、ユーインからかなり叱られただろうし、それにもへそを曲げているのかもしれない。
 ユーインもさっさと子供を作って、アンバーとは別れたいのだろう。

(仕方ない。契約を果たさなければ、私も自由にはなれないのだし)

 アンバーは折れることにした。
 手加減してくれるというし、それがせめてもの救いだ。
 返事の代わりにアンバーは、ユーインの首に両手を回して、伸びあがるように唇を重ねた。

 一瞬、切れ長の薄青の目が見開かれる。
 びくんと広い肩から続く背中が硬直して、そのすぐ後、アンバーの背を抱きしめてアンバーの口内に深く侵し入る。角度を変えながら深く深く、ぐちゃぐちゃと淫らな音をたてて、何度も繰り返し。
 性急な指がアンバーの夜着にかかり、手慣れた風にするりと引き下ろす。ふるんとこぼれた乳房を、ユーインは愛し気に持ち上げ、撫で、頂を口に含んだ。
 ちりっと、アンバーの背に憶えのあるわずかな痛みと快感が走る。
 胸元からだんだんに降りて行く指は、既に潤み始めたアンバーの身体の芯へ到達して、触れるか触れぬかという際どい動きでじりじりとアンバーを焦らしている。
 ユーインの唇と舌で甚振られた胸の頂は、すでにはしたないほど固く尖っていて、ほんの少しの刺激でも声が漏れそうだ。

「う……く……」

 爪先に力を入れて、アンバーは快感に耐えた。背中を大きく弓なりに反らし、唇を強く噛んで。

「噛むな。傷がつく」

 長い指でそっとアンバーの唇を撫でた後、ユーインは唇を優しく重ねた。

「声を抑えるな。誰も聞いてはいない。俺以外は」

 甘い艶のあるテノールが、あやしく色っぽく、アンバーの耳を犯した。
 声だけで酔っぱらいそうだと、アンバーは目を閉じる。

「俺は知っている……」

 急に低くなったテノールに、「何を?」とアンバーが問い返そうとした瞬間、ずしんっと重い衝撃がアンバーの下腹を貫いた。
 ぱんぱんと乾いた音とともに、激しく揺さぶられる。
 容赦なく最奥を穿たれて、激しい律動ははてもなく続く。

「俺の妻だ」

 うめくように漏らして、ユーインは果てた。

 事後のけだるい浮揚感の中、アンバーは不思議に思う。
 ユーインと身体を交えてまだそれほど長くはないけれど、今夜の彼は少し違っていた。
 まるで性急で、自分の欲にだけ支配されているようで。
 なにかに怯えているようにも見えた。

(本当になにかあったのかしら?)

 ぼんやりした頭で考えたのはそれが最後。
 すうっと訪れた睡魔に、アンバーは思考のエリアを明け渡した。
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