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一、Boy(?) Meets Girl(?)
1ー2、退屈すぎて死にそうだ。
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「ん、何か表が賑やかですね」
外で珍しく女の子の声が聞こえた。しかも複数。先程の校長と話しているようである。
「社長、父上、お客でござる」
顔を少し赤らめたスポーツ少年の後ろから、
「ここが探偵?」
「違うわ。祓い屋って書いてあったでしょ」
「でも、雰囲気出てるかも」
キャイキャイと話す女子高校生三人が入ってきた。少し茶色がかかったおかっぱの子と、日本のお姫様風の髪型の小柄な子と、ポニーテールのこれまた小柄な子だ。おかっぱの子と同じ制服を着ていなければ後の二人は高校生とわからなかっただろう。この事務所の客としては珍しい身分である。
「こちらへどうぞ」
と少年がソファーを進めても、
「きゃー、社長さん可愛いー」
「どこがー。何かさえないサラリーマンって感じ」
「でもさ、すごーい優しそうじゃん」
と騒ぎは静まらない。
「おい、さっさと話をしろ」
あまりに五月蝿過ぎて起こされた孟起が不機嫌そうに出てきても、
「きゃー、こっちは凄い美形よ」
「あなたもここで働いているの?」
「もう、毎日でも通いたい」
さらにエスカレートする始末だった。
孟起の眉間にシワが深くなる。ただでさえ、寝不足で不機嫌なのだ。いつ帰れと言い出すかわからない。彼女達を連れてきた少年は慌てて話を進める。
「この人達は学校で奇妙な事件が起こっているからと相談に来たのでござるよ」
「そうそう、ここ最近学校の中が変なのよね」
話が始まったので少年は小さく安堵のため息をついた。
「ここに除霊できる人っていませんか」
「最近、学校で多くの幽霊を見るの。怪我人も死人も出たし」
「先生に言っても気のせいだとか言って全然相手にしてくれないの」
「このままじゃ怖くて授業に集中できないよ」
信じない人は誰が何と言おうと全然信じないのが、心霊現象の特徴である。
「他に気付いたことや変わってきたことはありませんか」
「う~ん、些細といえば些細なんだけど、最近男子の喧嘩も変に多いのよね。元々多い高校だって聞いてたけど、ここ最近は異常じゃないかな」
「以前は大人しかった人とかも加わってたりするもんね。あ、あたし一体多数の見たけど、なんかリンチぽくなかったのよ。複数の殴り合いが同じ場所で起きて、自分の相手わかんなくなって収集つかなくなったって感じ」
「そうそう、しかも最近ほぼ毎日だもの。幽霊を見たって噂もその頃からだから関係あるんじゃない?もしかして、幽霊が誘発してるのかも」
「てか、先生がピリピリしてるのもそのせいでしょう」
「霊ねぇ」
興味なさそうに聞いていた孟起の眼が強く光った。吸っていたタバコを灰皿でもみ消す。
「ああ、面倒で面白そうなのがいそうだな。その依頼、俺が受けてやるよ」
「本当ですか」
「うわ、ありがとう」
「ほんと、感謝です」
料金は成功報酬でいいぜと勝手に言うと彼女達はありがとうございますと声をそろえてお礼を言って出て行った。買い食いする店について話しながら事務所から離れていく。
「賑やかな連中だったな」
「だが、せめて情報を手に入れてから帰すべきだったな。どこの学校かわからなければ調べようがない」
ムクリと黒虎の剥製が動く。彼も漢蜀のメンバーで名前を雲長という。客が来る気配を察すると彼は剥製のフリをして来客を観察し、非常に備えている。そのため、面会室には彼専用の台座が備え付けられている。しかし、さすがの彼も長時間ジッとしているのは辛いらしく、大きく伸びをした。
「西華学園の生徒だと言っていたでござるよ」
少年の姿が黒猫に変わる。彼の名前はタイラ。先程まで剥製のフリをしていた黒虎、雲長の息子である。彼らは獣人族という種族で、本来は別の世界の住民なのだが、わけあって親子二人ここで働いている。
こうしてみると漢蜀のメンバーは見た目や年齢、種族でさえ統一性のない者が集まっている。良く言えば個性豊か。彼らはそれぞれ色々な思惑があってこの仕事をしているのだ。
「そういえば、先程の校長も同じ学校でしたね」
「喧嘩に霊か。面白そうじゃねーか」
新しいタバコを咥え、孟起はライターで火をつけた。
「何かが起こっているのは確かではないでしょうか」
女子高校生たちが帰ったのを見計らい奥から出てきた文香はお茶を下げながら言った。
「あの校長、何でもするって言いましたね。この際だから二人ほど編入しますか」
「内部潜入捜査で決まりだな。人員は・・・・・」
コンコン。ドアを叩く小さな音が聞こえた。今日は千客万来のようだ。
「どうぞ」
「失礼します」
ドアを開けて入ってきたのは六歳くらいの女の子だった。ふわふわの金髪に空色の碧眼が印象的な西洋風美少女だ。ピンと尖った特徴的な耳は彼女がエルフ族であることを示している。幼稚園の制服の上から空色のローブを羽織り、大きな黒の革鞄を肩に担いでいる。
「おや、シマちゃん。今日は手紙ですか、それとも彼女たちからの伝言ですか」
寄ってきた少女の頭を優しく撫でると少女は嬉しそうに笑った。簡単な伝言や手紙配達が彼女の主な仕事である。差出人はほとんど玄劉が関係しているとある組織だ。
「こんにちは、えっと、ゲンリュウさん。今日はお手紙を持ってきました」
はい、と玄劉に手渡されたのは白い封筒だった。流暢な英語が書かれ、裁ちハサミと薔薇の花の切手が貼られている。それを見て、玄劉の額に冷や汗が流れる。急いで開くと中にはミントの香りのする紙が一枚だけ入っていた。こちらに書かれているのも流暢な英語。最初はゆっくりだった玄劉の視線が次第に速くなっていく。最後まで目を通し、紙を置くと玄劉はそのまま机の上に突っ伏した。
「兄者、何だったのだ」
「・・・すまぬ」
差し出された手紙を覗いた雲長も顔面蒼白になる。
「父上、何と書いてあるのでごさるか」
「・・・・警告」
またいつものか。孟起はため息をつく。
「兄者、また忘れていたのか・・・」
よくあることらしく、雲長も呆れはしても特に慌ててはいなかった。慌てているのは手紙を受け取った本人と事態がわかっていないタイラだった。
「ああ、綺麗サッパリ忘れていた。どうしよう、どうしよう」
「兄者、大丈夫であるか?発表日は今週の土曜日となっておるが」
予定を指折り数えていく。
「徹夜漬けで何とか間に合う」
それも今から一切他の事をしないで籠れば、と付け加える。
「社長はいったい何を慌てているのでござるか?」
「本業だろ」
窓を開けてタバコに火をつけた孟起が忙しそうに電話をかける二人に代わって答えた。
「社長はこの事務所以外にも服職人をしててな。確か、待ち針同盟だったか。加盟していれば発表の機会などで色々と特権があるらしい。世界の名のあるデザイナーは全員入っているそうだ。そして、そこで行なわれるのが、ファッションデザイナーと服職人がチームを組んで人気を競い合う大会。ファッション界の選手権ってわけだ」
「さっきの手紙はその同盟からでござるか。しかし、尚更何故二人はあんなに慌てているのでござるか?」
「同盟が年間に予定している発表会が複数あるんだと。そのうち三回にて作品を提出しないとデザイナー服職人共々降格になるわけだ。社長の作る服は人気ナンバーワンだからな。向こうも辞められたら大損だからこうやって忠告文を律儀に送ってくるんだ」
「ってことは、差出人はパートナーのデザイナーの方でござるか」
「いや、その人は副業で社長の仕事を手伝ってるだけらしい。本業は画家なんだと」
「社長といい、その人といい。何で複数の職業をしてるのでござるか。一つだけでも忙しいのに」
「さあな、昔の癖だろう。あの時は複数の職を持つのが普通だったからな」
慌しく出かける準備を始めた玄劉と雲長を二人はぼんやりと眺めた。荷物を纏め終えた玄劉が二人に封筒を渡す。先程校長が置いていった封筒だ。
「すまない。そういうわけだからこの事件は二人で頑張ってくれ」
苦笑いで資料を渡す玄劉に孟起はため息で返事をした。
あの時気軽に引き受けたのがそもそもの間違いだったのではと孟起が考え出したのは数学の呪文で脳が麻痺してきったころだった。授業中も調査といきたいところだが、先生方にも内密にと言われているためサボってウロウロするわけにもいかない。いや、別にしてもかまわないのだが、見つかった場合説教で貴重な放課後を潰されかねない。
仕方なく、授業を受けているのだが、退屈すぎて死にそうだ。一時間目始めは真面目に聞いていたが、その三十分後には机に突っ伏して寝息をたてていた。もちろん一回は叩き起こされたが、孟起が一睨みすると先生が彼をそれ以後起こすことはなかった。
続く
外で珍しく女の子の声が聞こえた。しかも複数。先程の校長と話しているようである。
「社長、父上、お客でござる」
顔を少し赤らめたスポーツ少年の後ろから、
「ここが探偵?」
「違うわ。祓い屋って書いてあったでしょ」
「でも、雰囲気出てるかも」
キャイキャイと話す女子高校生三人が入ってきた。少し茶色がかかったおかっぱの子と、日本のお姫様風の髪型の小柄な子と、ポニーテールのこれまた小柄な子だ。おかっぱの子と同じ制服を着ていなければ後の二人は高校生とわからなかっただろう。この事務所の客としては珍しい身分である。
「こちらへどうぞ」
と少年がソファーを進めても、
「きゃー、社長さん可愛いー」
「どこがー。何かさえないサラリーマンって感じ」
「でもさ、すごーい優しそうじゃん」
と騒ぎは静まらない。
「おい、さっさと話をしろ」
あまりに五月蝿過ぎて起こされた孟起が不機嫌そうに出てきても、
「きゃー、こっちは凄い美形よ」
「あなたもここで働いているの?」
「もう、毎日でも通いたい」
さらにエスカレートする始末だった。
孟起の眉間にシワが深くなる。ただでさえ、寝不足で不機嫌なのだ。いつ帰れと言い出すかわからない。彼女達を連れてきた少年は慌てて話を進める。
「この人達は学校で奇妙な事件が起こっているからと相談に来たのでござるよ」
「そうそう、ここ最近学校の中が変なのよね」
話が始まったので少年は小さく安堵のため息をついた。
「ここに除霊できる人っていませんか」
「最近、学校で多くの幽霊を見るの。怪我人も死人も出たし」
「先生に言っても気のせいだとか言って全然相手にしてくれないの」
「このままじゃ怖くて授業に集中できないよ」
信じない人は誰が何と言おうと全然信じないのが、心霊現象の特徴である。
「他に気付いたことや変わってきたことはありませんか」
「う~ん、些細といえば些細なんだけど、最近男子の喧嘩も変に多いのよね。元々多い高校だって聞いてたけど、ここ最近は異常じゃないかな」
「以前は大人しかった人とかも加わってたりするもんね。あ、あたし一体多数の見たけど、なんかリンチぽくなかったのよ。複数の殴り合いが同じ場所で起きて、自分の相手わかんなくなって収集つかなくなったって感じ」
「そうそう、しかも最近ほぼ毎日だもの。幽霊を見たって噂もその頃からだから関係あるんじゃない?もしかして、幽霊が誘発してるのかも」
「てか、先生がピリピリしてるのもそのせいでしょう」
「霊ねぇ」
興味なさそうに聞いていた孟起の眼が強く光った。吸っていたタバコを灰皿でもみ消す。
「ああ、面倒で面白そうなのがいそうだな。その依頼、俺が受けてやるよ」
「本当ですか」
「うわ、ありがとう」
「ほんと、感謝です」
料金は成功報酬でいいぜと勝手に言うと彼女達はありがとうございますと声をそろえてお礼を言って出て行った。買い食いする店について話しながら事務所から離れていく。
「賑やかな連中だったな」
「だが、せめて情報を手に入れてから帰すべきだったな。どこの学校かわからなければ調べようがない」
ムクリと黒虎の剥製が動く。彼も漢蜀のメンバーで名前を雲長という。客が来る気配を察すると彼は剥製のフリをして来客を観察し、非常に備えている。そのため、面会室には彼専用の台座が備え付けられている。しかし、さすがの彼も長時間ジッとしているのは辛いらしく、大きく伸びをした。
「西華学園の生徒だと言っていたでござるよ」
少年の姿が黒猫に変わる。彼の名前はタイラ。先程まで剥製のフリをしていた黒虎、雲長の息子である。彼らは獣人族という種族で、本来は別の世界の住民なのだが、わけあって親子二人ここで働いている。
こうしてみると漢蜀のメンバーは見た目や年齢、種族でさえ統一性のない者が集まっている。良く言えば個性豊か。彼らはそれぞれ色々な思惑があってこの仕事をしているのだ。
「そういえば、先程の校長も同じ学校でしたね」
「喧嘩に霊か。面白そうじゃねーか」
新しいタバコを咥え、孟起はライターで火をつけた。
「何かが起こっているのは確かではないでしょうか」
女子高校生たちが帰ったのを見計らい奥から出てきた文香はお茶を下げながら言った。
「あの校長、何でもするって言いましたね。この際だから二人ほど編入しますか」
「内部潜入捜査で決まりだな。人員は・・・・・」
コンコン。ドアを叩く小さな音が聞こえた。今日は千客万来のようだ。
「どうぞ」
「失礼します」
ドアを開けて入ってきたのは六歳くらいの女の子だった。ふわふわの金髪に空色の碧眼が印象的な西洋風美少女だ。ピンと尖った特徴的な耳は彼女がエルフ族であることを示している。幼稚園の制服の上から空色のローブを羽織り、大きな黒の革鞄を肩に担いでいる。
「おや、シマちゃん。今日は手紙ですか、それとも彼女たちからの伝言ですか」
寄ってきた少女の頭を優しく撫でると少女は嬉しそうに笑った。簡単な伝言や手紙配達が彼女の主な仕事である。差出人はほとんど玄劉が関係しているとある組織だ。
「こんにちは、えっと、ゲンリュウさん。今日はお手紙を持ってきました」
はい、と玄劉に手渡されたのは白い封筒だった。流暢な英語が書かれ、裁ちハサミと薔薇の花の切手が貼られている。それを見て、玄劉の額に冷や汗が流れる。急いで開くと中にはミントの香りのする紙が一枚だけ入っていた。こちらに書かれているのも流暢な英語。最初はゆっくりだった玄劉の視線が次第に速くなっていく。最後まで目を通し、紙を置くと玄劉はそのまま机の上に突っ伏した。
「兄者、何だったのだ」
「・・・すまぬ」
差し出された手紙を覗いた雲長も顔面蒼白になる。
「父上、何と書いてあるのでごさるか」
「・・・・警告」
またいつものか。孟起はため息をつく。
「兄者、また忘れていたのか・・・」
よくあることらしく、雲長も呆れはしても特に慌ててはいなかった。慌てているのは手紙を受け取った本人と事態がわかっていないタイラだった。
「ああ、綺麗サッパリ忘れていた。どうしよう、どうしよう」
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「ってことは、差出人はパートナーのデザイナーの方でござるか」
「いや、その人は副業で社長の仕事を手伝ってるだけらしい。本業は画家なんだと」
「社長といい、その人といい。何で複数の職業をしてるのでござるか。一つだけでも忙しいのに」
「さあな、昔の癖だろう。あの時は複数の職を持つのが普通だったからな」
慌しく出かける準備を始めた玄劉と雲長を二人はぼんやりと眺めた。荷物を纏め終えた玄劉が二人に封筒を渡す。先程校長が置いていった封筒だ。
「すまない。そういうわけだからこの事件は二人で頑張ってくれ」
苦笑いで資料を渡す玄劉に孟起はため息で返事をした。
あの時気軽に引き受けたのがそもそもの間違いだったのではと孟起が考え出したのは数学の呪文で脳が麻痺してきったころだった。授業中も調査といきたいところだが、先生方にも内密にと言われているためサボってウロウロするわけにもいかない。いや、別にしてもかまわないのだが、見つかった場合説教で貴重な放課後を潰されかねない。
仕方なく、授業を受けているのだが、退屈すぎて死にそうだ。一時間目始めは真面目に聞いていたが、その三十分後には机に突っ伏して寝息をたてていた。もちろん一回は叩き起こされたが、孟起が一睨みすると先生が彼をそれ以後起こすことはなかった。
続く
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