っておい

シロ

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二、違いにご用心

2ー27、よく斬れそうだ。

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 普通に見ると電子ロックされた扉。それだけで十分異常だが、魔力視すると異常なほど警戒していることが一目瞭然である。時と水と空間の属性的特徴を駆使した封印術でかなり高度で緻密な構造をしている。どれも操作困難で所持属性者が非常に少ない属性ばかりだ。それらを使用して作られた人避けも兼ねた結界。慎司の持つカードキーがなければ解除は不可能に近い。込み入った属性配合。
これを作った奴はプロだ。相性最悪の機械と魔法が完全に融合してお互いの欠点を補っている。潜在魔力が最少の人間に作れる品物ではない。
「・・・・・・魔法と機械の融合。まさか、実在するとはな」
「これ、スタートウの技術でござる」
「二人ともどうしたんだ。気分でも悪いのか?」
「生まれてから怪我はしたことあるが、体調を壊したことはない」
「拙者も同じく」
苦笑いを浮かべると、受付で貰った灰色のカードキーを溝にスライドさせた。小さな画面に緑のクリアの文字が浮かび、エアの抜ける音と共に扉が開く。

そこは白の世界だった。白い壁、白いカーテン、白いシーツ。半楕円形の透明なカプセルの側にはコンピューターが小さな音を出して起動している。空気が非常に澄んでいてとても居辛い空間と化している。
「どんな患者で・・・・・・うわぁ!」
カプセルを覗き込んだタイラが驚愕して後退した。
「で、寝てるのは誰だ。白馬家は全滅したんだろ」
「白馬家は、な。けど、あいつだけはなんとか一命を取り留めたんだ。運ばれたとき医者も息があるのすら奇跡だと言われた。だが、彼女はまだ生きている」
カプセルの中にはタイラも孟起も見たことある人物だった。艶が綺麗な黒い髪。華奢な白い身体。触れれば折れるのではと思うほど細い手足。タイラが最も印象を受けた瞳は瞼が閉じていて見る事はできない。
「成程、あいつが白馬家の養子か」
「元々彼女の保護者になったのは奥さんの弟らしい。だが、どうしてもと頼み込んで生活を共にする権利を貰ったと言っていた。本来の保護者が見つかるまでの約束らしい」
おかげで出会えたと慎司は笑う。
「もう一度、真剣勝負したい。勝ち逃げされるのは尺だ」
「本名はなんて言うんだ」
「たしか雲 小龍でござったか?」
「ああ、白馬家に引き取られた時に他にも色々と聞いたらしいんだが、結局名前以外は何も答えなかったらしい。記憶喪失なんだと。そういえば、日常品の使い方すらわかんなかった節もあったな」
「再生追想の部分的記憶障害じゃなくてか。そして健忘の解決する前に意識不明。こいつも踏んだり蹴ったりだな。どのくらい寝てるんだ」
「あの屋敷から救出されてずっと。もう一ヶ月になる」
係り付けの医者の話だと意識がないこと以外は正常だと。
「睡眠状態のまま時間だけが過ぎる。栄養剤の点滴は必要だが他は大して問題ない」
殺気を感じ、振り向くと後ろにいたのは軍人だった。何故、一般病院に軍人がと目を擦って再度見ると彼は白衣を着ていた。つまり、彼は、医者だ・・・が、孟起もタイラもハッキリそうだと認められなかった。美形コンテストがあれば優勝間違いなしの男。背は高いし、肩幅もあり、がっしりと無駄なく筋肉がついている。無造作な赤茶色の髪の隙間から覗くのは強い光を持った切れ長の目。白衣も似合うが、軍服姿の彼は素晴らしい美男だろう。その顔を見たとき、孟起は眼を疑った。
「あ、あの~、拙者らに、何か、用で、ござるか?」
気迫に飲まれ、怯えながらもタイラは果敢に話しかける。
「邪魔だ。退け」
「ハ、ハイ」
相手の気にスッカリ飲まれてしまったタイラだった。機械の側にいくとチラリと様子を見ただけで部屋から出て行った。
「あいつ、本当に医者でござるか?雰囲気だと傭兵かと。診断もいい加減でござるし」
「そう思う気持ちは分からんでもないが、彼女はシャオの専属医だ。彼の許しなしの診断、薬剤投与、輸血、手術は禁止されている。なんでもシャオは特殊体質で通常の薬や治療が身体に悪影響がでるそうなんだ。だから少しでも変化があれば直接彼女の下に知らせるようになってるらしい」
交通事故にあって奇跡的に生き延びたのも運ばれた病院ですでに待機済みだったから。そうでなければ・・・・・・。
「だから、時々パシリ扱いされてもかまわない!」
拳を握りしめ、力説する慎司に二人は哀れみの視線を贈る。同じ男として悲しくなった。
「あ、悪い。ちと外す」
何の脈絡もなく言った慎司はさっきの真剣な表情はどこへやら。じゃ、と出て行く。慎司の気配が遠くなるのを確認すると孟起はドアを閉め、鍵をかけた。
「どうしたでござるか。人払いの法を唱えて」
「な~に、あいつに居られたら困るんでね。ちょっくら出てもらっただけだ」
カーテンをきっちり閉めると孟起はカプセルを指した。
「おまえはこいつを見てどう思った」
「井上 久美子の血縁にあたる人かそっくりの別人でござる」
「理由は?」
「サードなら昨日会ったのは生霊だと考えたのだが、姿が違う。しかし、井上とこの人では気質が違う。井上は微かな水気だったのに対し、この人はハッキリと風気を纏っているでござる。だから、姉妹が事故か何かで行方不明になった後、別々の人の養子となり、片方を意識不明にした犯人をもう片方が追っていると」
「俺はそう思わんな。大体、それだと説明がつかないことがある」
タイラの意見は孟起の言葉に呆気なく一蹴にされる。ポケットから出てきた手には折り畳み式ナイフが握られていた。
「初めはそいつの能力かと思ってみたが・・・・・・」
小さな音と共に刃が外気に触れる。蛍光灯の光を反射する刃は丁寧に砥がれている。よく斬れそうだ。


                                 続く
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