っておい

シロ

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二、違いにご用心

2ー28、無駄な抵抗に終わる。

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「何時までそうしてる気だ?」
虚空に向かってそう呟くと孟起は端にある白いスイッチを押す。沈黙していた機械が鈍い音をたてて動き出した。別の小さなボタンに触れると透明な楕円形の部分が消える。外界を遮る物がなくなっても少女にも機械にも部屋にも外にも変化が現れない。普通なら、意識のない人が答えるはずないでござるとか、そのナイフはどうするつもりでござるかとか、突っ込むのだが、今日のタイラは何も言わず、ただ黙って寝ている少女を眺めていた。
「何でおまえがここにいるのかは知らないが・・・・・・」
ベッドの横に立ち、孟起は大きく息を吸った。
「ネタは割れてんだ。サッサと正体現せ!」
大きく振り上げられた腕は勢いよく振り下ろされ、ドスッと突き刺さった。白い羽が宙を舞い、ゆっくりと落ちていく。ナイフの刃は布団にその身を全て埋めていた。
「ほらな」
「な、何ででござるか」
少女の左胸にナイフがとどく直前、少女は身体を捻り、鋭い刃の軌道から転がり逃げた。ボテッとベットから落ちた少女が身を起こし、キッと孟起を睨みつけて一言。
「何すんねん、われぇ!」
「か、関西弁?!」
「せや、悪いか!」
「い、いや、そんなことは・・・・・・」
「そうやろ、そうやろ。方便は言葉のアクセントやからな」
「アクセサリーだろ。飼い主は英語ペラペラなのに相変わらずカタカナに弱い奴だな」
「しゃあないやろ、日本生まれやし。そっちは相変わらず無愛想やな。こうニコ~ッて笑ろうてみー」
三、二、一、ギロリ。
「怖~っ」
「好きでもない奴の前で誰が笑うか」
「愛想笑いっちゅうもんがあるだろ」
「ヤダね。そんなの大っ嫌いだ。金になるな別だが」
プイとそっぽを向くと孟起はイスを引き寄せて座った。
「あの~、質問してもいいでござるか?」
「へ、ああ、ええで。じゃんじゃん質問してや」
どうせ、そなたは誰でござるとか、そのへんだろう。ドンとこいと少女は力強く胸を叩く。つい先程まで意識不明のマネをしていた人とは到底思えないほどの元気ぶりである。これが彼女の素だから仕方がないといえば仕方がないが、役者としては半人前である。
「じゃあ、そなたは誰・・・・・・」
「お、きた、きた、きた」
「誰の、式神でござるか?」
「何や、わかっとったんかい!」
「・・・・・・おまえ、ほんとに向かんな」
「な、なんで~。わい、一生懸命やっとるで」
「自分から正体暴露してどうする」
少女は自分の言った言葉を振り返る。眉にしわをつくり、しばらくう~んと唸って・・・・・・。
「し、しもうた~。わいとしたことが~ついノリツッコミで・・・・・・」
頭を抱え、ブンブンと激しく左右に振る。
「これではご主人に怒られてしまう~」
「その主人は今変化している姿の人でござるか?」
違いますようにと心の中で真剣に祈りながらタイラが尋ねた。
「ちゃうちゃう。こん人も愛らしいけど、わいのご主人に敵わん、敵わん。誰も敵うことあらへんのや!」
「見た目は小学校低学年だがな。」
ぼそりと呟いた孟起を少女はキッと睨みつけた。
「おまえ、わいのご主人を知ってんのか?」
「黒鐘稲荷の巫女だろ。おまえこそ俺のこと知らないのか?」
フゥとため息を吐く孟起の顔は傍から見ても明らかに呆れていた。
「そない言ってもな~。大和撫子のご主人にパッキン不良の仲間なんか、おらへん・・・はず・・・・・・あぁ!」
「・・・ずいぶんと遅かったな」
「えや~、その節はお世話になりました。まさか、あんときの騎士の一人だとは思わんかったんや」
「そう見えなくて悪かったな」
「せやから、ごめん言っとるやろ。機嫌直してーな」
「どうでもいいでござるが、本来の姿に戻ってから話して下され」
好きになった人と同じ姿でペコペコしたり、土下座されたりするのは誰だって嫌だろう。
「え~、これ結構気に入ってんのに~」
「四の五の言わず元の姿に戻るでござるよ」
「はは~ん。さてはおまえ、この子に惚れとるな!」
「え、あ、な、何お言っているでござるか?」
それだけどもっていたらそうだと言っているようなものだ。純粋な恋か。俺には無縁の物だなと二人のやり取りを眺めながら孟起はぼんやり思っていた。
「はいはい、わかった、わかりました。そこまで言うなら元の姿に戻ってやる。わいのカッコいい姿を見て驚くなよ」
ベッドの上に飛び乗るとポーンと身軽にバック転を披露したと同時に白い煙に包まれる。頭の上に木の葉をのせれば昔話で狸や狐が変化するときに類似している。
「どや、わいの本当の姿は!そっか、声が出んほどカッコええか」
「・・・・・・逆だ。あまりに、その、何だ」
「なんや、なんや。ずいぶんはっきりせーへんなー」
「か、か、か」
「そか、そか。そんなにカッコいいか」
「か、可愛いでござる~!」
「はあぁ~」
あいつは可愛いものが好きだったのか、そういえばサードも小柄で可愛いの部類に入るな、と思いながら孟起はタイラに抱きしめられて苦しんでいるウサギのぬいぐるみの姿を何もせずただボーっと眺めた。
「本当に可愛いでござる」
「そか、それはそれで悪い気せーへんなぁ」
「本当に本当に、うま・・・可愛いでござる」
「やや、今不吉な言葉が聞こえた。言い止めよったけどハッキリ聞こえたで。こ、こら~、そこの奴。見てないでさっさと助けぇ」
ハァーッとため息を一つ吐くとタイラの手からウサギのぬいぐるみを取り上げた。
「サンキュウなー、と言いたんやが、この体勢どうにかならんか」
耳を掴まれた姿は正しく、獲物生け捕ったり、だった。
「一時期とはいえ、共に戦った仲間を忘れる失礼な奴に言われたかねーよ」
「一時期って言ってもな~。わいの主人、小さいころ世間から隔離されとったけん。心当たりは少ない・・・・・・あ!」
「ようやく思い出したか」
「ひょっとして主人とその妹やんが例の神霊組織を離脱する際、その手引きをしてくれた兄弟の兄の方か。たしか、専攻は銃魔術の」
「あの後すぐに俺達も縁を切ったんだ。元々合わなかったしな」
「どんな組織だったんでござるか」
「俺もこっちに来てすぐ関わっただけだがな。世間ではちょっとオカルトチックでやばい事やってんじゃないかって言われてる組織だ。ちなみに今でもある」
なんで壊滅させなかったのか。それはこのぬいぐるみの主人の妹、組織で神の器と言われた巫女が止めたため、闇夜に紛れてコッソリと逃げ出すこととなったらしい。詳細はタイラも知らない。
「結局、見つかって結局半壊状態になったんだけどな。ま、今回の事件には関係ないだろう。奴らのやりそうなこととは別もんだしな。それで、何でここにおまえがいるんだ」
「それは企業秘密っちゅうやつやっ痛いたいたい」
耳を握る力を上げられ、ジタジタと暴れだしたが、無駄な抵抗に終わる。


                            続く
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