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王宮編
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しおりを挟む話し合いから三日目、庭はみるみるうちに整えられ、部屋は綺麗さを取り戻した
暇をみてと言ってはいたが、殆どの時間を掃除に当ててくれたティムにクレアは感謝し、ティムの人懐っこい性格にも助かっていた。
「間に合ってよかった」
「ええ、ティム様がお手伝いをして頂いたお陰で御座います。」
「まさか俺が侍女役をやるとはね」
二人は冗談を言い合った、達成感もあり声を出して笑い合った
「しかし、ヘイリー様も酷いよなー、幾ら何でも侍女ばかり手をだして、みんな辞めてしまうからこっちにしわ寄せが」
はぁーっと溜息をついたティム、その言葉を聞いたクレアは耳を疑った
「どういう事ですか?」
「あれ?そっかクレアは来たばかりだったね。ヘイリー様は二年前から急に侍女に手を出すようになってしまって」
「そんな......そんなはずありません!!」
「でも事実だ、こんな話する自体不敬だけど、クレアはいい子だから辞めてほしくないし、だからヘイリー様には気をつけて」
「.........でも…」
二年前から、そこだけが頭に木霊する。
クレアはこぼれ落ちそうになる涙を必死にのんだ
信じられない、胸がキリリと傷んだ
「まぁヘイリー様から言い寄られて断る方は少ないだろうね」
「.....................」
「大丈夫クレア?顔色が悪いよ?」
「......大丈夫...です...いえ...少し頭が痛くなってきました」
「なら今日はもう休むといい、作業は終わったし、侍女長には私から言っておく」
「はい、ティム様......お気遣い感謝します」
「それから明日だけど、クレアは休んでいるといい、ヘイリー様には私が付くし、ヘイリー様専属の侍女もいるから」
「...はい......では、失礼致します」
「ご苦労様」
クレアは早足で自室へと戻ってきた
部屋に入ってすぐ足元から崩れ落ち、目の前は真っ暗になった
予想通りだった。ヘイリーは辺境の下級貴族で滅多に会うことも出来ないクレアなんか忘れていたのだ
一目だけ見たいと思いここまで来たが、クレアの侍女見習いの立場では見る事すら出来ないと知った
クレアは昔を思い出していた、一緒に過ごした二日間と励んだ七年間
(読み書きを必死に習得した、ヘイリー様がまた本を呼んで欲しいと言ってくると思って
収穫祭には一度も出ていない、焼きもち焼きのヘイリー様が心配すると思って
教養には力を入れて努力し習得した、ヘイリー様の横に立てるかもしれないと淡い望みをもって)
(全部無駄だった、違う最初から、私なんかとヘイリー様が冗談でも婚約話しなんて、全部が夢物語だったのね・・・・・・私って本当にバカだわ・・・・・・)
クレアはベッドに頭をつけて床に膝をついたままわんわんと泣いた、ひとしきり泣くと目が腫れないように冷やし、泣き疲れを癒すためお風呂に入り早めの就寝をした
翌朝、クレアはスッキリしていた
よく良く考えれば、ヘイリーに恋をするなんで誰でもする、なにせヘイリーだ、遠くから見て恋しむことぐらい許されるはずだし、そもそも何故ヘイリーがこんな平凡なクレアを好きでいるなどと思ったのか、心配してくれた皆の顔が浮かんで
顔から火が出るほど恥ずかしい思いをした
コンコン
「はっはい!」
ガチャ
「クレアさん、朝から悪いけど、ヘイリー王子のお部屋案内に付き添って頂戴」
「へ?ですが、騎士様が私はいらないと」
「騎士様?」
部屋に入ってきたのは割腹のいい壮年の侍女長だった
「騎士様はいいとしてヘイリー王子は侍女をお連れにならないそうです、私が給仕をするのでクレアさんはそれを見て学んで頂戴」
「はい...侍女長、よろしくご指導下さい」
「ふふ、そんなに畏まらなくていいのよ?大丈夫!すぐに慣れるわ」
優しい侍女長は少しの打ち合わせとクレアに励ましをいれ、部屋を出ていった
クレアはヘイリーと会える、不安と期待で胸が張り裂けそうになった
( 私の周りの人達は優しい人ばかりだわ、ほんとに恵まれている、侍女長をガッカリさせないように、頑張ろう )
三日がかりで片付けた部屋で侍女長とクレアは待機し、ヘイリーが来るのを待った。
離れた位置から足音が聞こえてきた
クレアの心臓はドキドキとして前をまともに見れなくなっていた
そこへ、ヘイリーはレイブンと共に現れた
意を決して、クレアはヘイリーの目を見た
クレアよりも頭一つ分よりは大きい身長に前見たより大人びた顔つきは、可愛さが抜けて男らしさが出ていて、体はガッシリと筋肉がついており、色気さえも出ていた。相変わらず美しい髪と目は溜息が出る程、ヘイリーは噂以上の美丈夫となっていたのだ
ヘイリーはクレアと目を合わせる事なく部屋を見渡し、レイブンに家具の指示を次々と出し慌ただしく動き回った、一段落すると侍女長が用意したお茶には手をつけず、退室した
なんとも呆気ない再開にクレアは拍子抜けした
後片付けを任され、侍女長は退室した。一人になった広い部屋で作業の為に下を向くと大粒の涙が頬を伝った
( 会いたいとずっと思っていた。会ったら諦めようと覚悟していたのに......会ったら声を聞きたい、見つめて欲しいと、欲が深くなるのね、でも目は一度も合わなかった......もうヘイリー様の答えは出ているのに )
クレアはうずくまり声をころして泣いた
突然扉が開き、クレアは慌てて涙を拭った
「クレア?」
入ってきたのはティム、クレアは涙が止まらず目を真っ赤にしていた
「ヘイリー様はクレアに声をかけた?」
「......いえ...」
「絶対声かけられると思ってたけど...泣いてるの?」
ヘイリーはクレアの事を何も思わなかった、そんなのはクレアが一番よく理解した、傷をえぐられた気さえしたクレアはカッとなり声を荒らげた
「声どころかっ!目も合わなかったの!ティム様には関係ないでしょ?一人にして下さい!!」
「まさか...クレアはヘイリー様が好きなのか?」
「別にいいでしょ!!遠くから思いを寄せてるだけよ!!それとも侍女見習いで名ばかりの貴族は見る事も許されないの?」
キッっとクレアはティムを睨んだ、ティムは驚いて目を泳がせた
「ごめん...まさかクレアが、只の一方的な思いだと...あっ!何でもない!その!言葉が悪かったごめん」
ティムは耳が垂れ下がった犬のようにしゅんとなった
「俺も、好きな人がいて片思い中なんだ、クレアの気持ちは痛いほどわかる」
「何よ!今更慰めるの?」
「慰める...そうだ!クレアに見せたいものがある!」
「へ?何よ…きゃ」
ティムはクレアの手を引っ張りそのまま王宮内をズンズン進んだ
王宮の中央より手前に大きな扉があり、ティムは迷いもせず鍵を出して扉を開くと、クレアの手を引き奥へ進んだ、中は花が咲き誇っていた、屋根はなく太陽の光が差し込み心地いい風が頬を撫でた
「すごい!空気も光もとても美しいわ、ここは?」
「ここは王族と選ばれた庭師だけが入れる箱庭だよ、代々の王族達が思い思いの花を自分達で植えてる」
クレアはヒュッと息を飲んだ、何て恐れ多い場所にきてしまったのかと
「入ったら不味いわ、すぐに出ましょ?」
「大丈夫!誰も来ないよ、それより...少しは慰めになった?」
クレアはティムに返事をするように悲しく微笑み周りを見渡した、小さい林のような箱庭だったがよく良く見ると丁寧に手入れされているのがわかった、クレアが目を向けた先に小さな白い花びらで中央が黄色くなっている花を見つけた
「ティム様!あの花!私の故郷の花だわ!」
指を指してティムに伝えるクレアは、舞い上がっていた、何年も前に植えたのだろう花たちは見事に咲いていた、それはヘイリーが幼い頃、クレアを好いていたと言っている様な
「あれがクレアの故郷の花か...少し待ってて」
「ティム様?」
白い花の近くへ行くと、花を手で折り、小さな花束を作り、クレアの元へ戻ってきた
「ティム様!?花を折るなんて!お叱りを受けます!?」
「口調が戻ってきたね、はい!クレアに」
人懐っこい笑顔でクレアの顔の前に花をだした
「うっ!受け取れません!」
「ならここの入口にでも捨て置くよ」
「いけません!......頂きます」
すごすごと受け取ったクレアは不貞腐れ、ティムは笑をこぼした
「私の故郷では収穫祭がありまして、そこでこの小さな花が主役になる催しがあるのです」
クレアは思い出したようにふふっと笑うと
「私はその時に初めてヘイリー様への気持ちに気づいたの、大事な思い出よ......」
言い終わるが早いかクレアはまた涙が頬を伝った
「クレアがヘイリー様を好きにならずに、もっと性格の悪い、嫌な子だったらよかったのに」
今まで雰囲気とは打って変わってティムは遠くを睨み顔は強ばっていた
「全てが上手くいかないよ...」
「?ティム様?」
またフッと人懐こい笑顔に戻り、クレアの手を引いて部屋を出た
「クレアの部屋まで送るよ」
「ありがとうティム様、励ましてくれて」
「おい、どういう事だ!」
思いもよらぬ人物から声がかかり
クレアとティムは驚き、クレアはティムの手を強く握ってしまった
そこには怒りを露わにして、ティムを睨む、繋ぎあっていた手をも睨んだヘイリーがいた
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