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第5章 微笑みの影の危うい性

No,62 彼に内緒の単独行動①

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【これは高校1年の時の回想】

──話をずっと先に戻す。
 それは1年生の、夏休み前の頃だった。 

 まだ初体験を迎える以前、ジュンから初めて「ゲイ雑誌」なるのものを手渡されたあの時から、ジュンは毎月決まって読み古しを俺にくれた。 
 それによって俺が着々とゲイの世界を知って行く過程のなか、正直なところ、ジュンが譲ってくれるのとは別の雑誌に対しても興味が湧いた。 

 当時既に、三大ゲイ誌は出揃っていた。 知る人ぞ知る(知らない人は全く知らない)
「B誌」「S誌」「A誌」の三誌だ。 
 ジュンは毎月「B誌」を買っていた。草分け的雑誌で、発行部数も一番だったと記憶している。各種内容をバランス良くまとめた総合誌だった。
 ちなみに「S誌」はセクシー路線と小説に強く、男くささに特化していた。 
 そして、俺は「A誌」に興味を持ち始めていた。当時「A誌」はゲイ解放思想やらゲイカルチャーやら、とにかく他紙よりもちょこっと政治的、文化的な匂いがしていた。

 俺は「A誌」が読みたかったのだけれど、でもそれをジュンには話さなかった。基本むっつりだった俺は、欲しがっていること自体、知られるのが恥ずかしかった。 
 だから、ジュンには内緒で行動することにした。欲しい 「A誌」を、自分で購入しようと決めたのだ──。


 今と違って、 当時書店は街中に沢山あった。また各書店によって特色も出ていた。
 エロ本なんて皆無な書店もあれば、逆にエロ本しか無いような書店もあった。
 俺は事前に各書店を回り歩き、ゲイ雑誌の有無、買いやすいかどうかの雰囲気などを下調べした。

 そして俺の街で「最もゲイ雑誌を買いやすい書店」=それを俺は蛇の道はヘビで見つけ出した。 
 とにかく各ゲイ雑誌が平積みで大量に置いてある。この売場からどれだけ多量に売れているのか?と言う事だ。 

 でも俺は、そこが単なる「売り場」ではない事を、初めは全く知らなかった。
 結論から言うと、そこはいわゆるハッテン場でもあったのだ。 
(ハッテン場=ゲイが互いにコンタクトを取り合う場所)


 さすがに俺も、初めての購入の時はすんなり軽くとは行かなかった。 
 そこは本来ゲイ雑誌以外の、つまり一般的な男女物も豊富なエロ本売場だ。
 客筋に女っ気は全く無く、レジもそこ専用に1台あるだけ。いつも半分寝たようなおじさんが座っている。 

 まさに買いやすい。 

 が、俺は躊躇してしまって手も足も出ない。 
 何となく他の男達に混ざって、全く興味のない一般エロ雑誌を立ち読みしている振りをしていた。
 胸がドギマギして、ポーッと顔が紅潮しているのが自分でも分かる。

(買うなんて、もう無理かな…)
 なんて気おくれもする。

 ただ俺は、じっとその場に立ち尽くすしかなかった。
 そして──初めての俺は、それがとても危険な行為なのだと知る由もなかった。 
 俺は、狼の群れの中に一人混じった仔羊ちゃんだったのだ。 
 その売り場で俺を囲んだ男達が、舌舐めずりしながら横目で俺の様子を伺っていただなんて、全く気が付くことも無い、無防備な俺だった──。


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