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第12章体育会は羨望の的だけど

No,133 苦行のような恋愛開始

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【これは大学4年のお話】

 携帯が当たり前の世代にはピンと来ないだろうが、当時の学生寮の事情としては「掛かってきた電話は管理人が受けて寮生を呼出しするシステム」が一般的だった。
 つまり外部からは電話しずらいし、電話を受ける寮生もプライバシー透け透けだった。
 だから俺はそう言う事情を鑑みた上で、自分から電話する責務からは逃れられたと思っていたのだけれど、実際は一方的なメッセージの押し売り状態だった。

 以下、俺んちの留守録に入っていた浩一からのメッセージの一部──。

録音「理久さん、まだ帰って来てないんですか?」から始まって

録音「まだですか?どこ行ってるんですか?」

録音「(ぐすん、ぐすんと泣き声まじりに)こんな遅くまで誰と会ってるんですか?」

録音「(完全に泣き声)理久さん早く帰って来て下さい。誰と何してるんですか?」

録音「(泣きながらも若干怒りまじりで)理久さん、もう電車終わってますよね?」

──って、そうだ、向こうからは何時にいくらでも電話出来るんだ。寮の中にも外にも、公衆電話はいくらでもあるだろう。
 それに対して俺は、帰宅したこの早朝の時点で「ごめんごめん、実は昨夜は……」ってな言い訳の電話さえ出来ない。
 こちらからは連絡出来ない。連絡する術が無いのだ。

(これは悶々だわ!)

 と、凄~く気が重くなってしまった。とにかくどうにも出来ない。
 俺は仕度を整えて大学へ向かった。


※──────────※


 夕方──帰宅して直ぐに確認すると、やはり数件の留守電が入っている。大きなため息をついて内容を聞くと、その殆どか浩一からだった。

 日中は浩一にだって大学もあれば練習もある。夜間のように頻繁に電話は出来ないだろう。
 そしてその留守電を聞く限り、やはり浩一の精神状態は常軌を逸していた。

(今日はもう、どこにも出掛けられないな)

 俺は、ただ浩一からの電話を待つしかなかった。


※──────────※


(晩めしどうしようか?)
 と考える頃、電話が鳴った。

「あ、理久さん?浩一です。心配していました。昨日からずっと電話していました。よかった、やっと繋がった」
 と、明らかに涙声の浩一だった。その後は案の定、鼻をすすりながらの恨みつらみの愚痴が続いた。


(ああ……うんざり……)


 俺は用意していた嘘を並べた。
 高校時代の友人達と久々に飲み会をして終電に乗り遅れた。一番近い友人の部屋に押し掛け、皆で雑魚寝して帰宅が朝になった、と。
 もちろんナッキーの事を話す気は無かった。

 とにかく浩一をなだめ、誤魔化し、取り繕って、その結果次の外泊日にまた会う約束をさせられてしまった。
 完全に浩一のペースだ。明らかに俺は振り回されている。

 浩一からの電話を終えると、まるで待ってましたとばかりにナッキーからの電話が入った。

「どうなった?」
「ああ、何だかんだで次の約束をさせられた」
「そうか、やっぱり……」

 一呼吸おいてナッキーが話し始めた。
「うん、とにかくオレの歯ブラシとかマグカップとか片付けといてね、見付かると余計な心配させて可哀想だから」
「え?片付けちゃうの?」
「当たり前だろ?!もうオレ、理久の部屋には行かないから」
「ええっ?!そんなのやだよ!」

 そうか!
 他と付き合うって事は、そう言う事なのか!

 思えばナッキーと出会ったのは亮ちゃんと別れた後だった。その後サトシへの片想いだけだった俺は、約この一年強、誰とも付き合っていない。
(その間、ずっとナッキーとべったりだったんだ……)
 と気付かされる。

 俺は何故だか急に悲しくなった。
「ナッキー、俺、辛いかも~」
「う~ん、仕方がないな~。
んじゃ、オレは行かないけど、理久がオレんちに来る分には構わないかもじゃない?」
「ホント?てへてへ」
「てへてへじゃないよ全く。理久ってホントに※.:*:※.:*」

 こうして幾多の不安と疑問を感じながら、浩一との付き合いが始まった。

 ああ!
 前途多難!!


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