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第17章 恋愛不毛症候群
No,194 そして今、始まる?
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【これは30代前半のお話】
「ところで青木君、今はどうなの?まさか未だに佐藤を恋い慕っている訳じゃないよね?」
「そりゃそうだよ。オレだってこの歳だから、そりゃ歳なりに色々あったよ。ただ、さっき歴野君を見て思い出しちゃったのさ、佐藤君のこと、そしてあの頃の純な気持ち……」
「純か……そうだな、俺だってあの頃は切ないくらい純だったのに、今じゃすっかり擦れっ枯らしのフテ子だもんね……。あ、君を一緒にしちゃいけないな。青木君の事なんにも知らないのに」
「オレだって同じだよ。こうして歴野君と向き合って話していると、まるで中学生だった頃に戻ったようだ。あの頃のオレ、今の自分とはまるで別人だよ」
──なんて会話をしていると、やっぱり同級生との再会なんて特殊なパターンだ。まるでタイム・スリップしているみたいな不思議な感覚にとらわれる。
「歴野君、今でも実家は鷹岡?」
「そうだよ、引っ越しもしていない。青木君は?」
「うん、オレも実家は鷹岡だよ。盆正月には鷹岡に帰省している。でもまあ、オレは次男だからこのままずっと東京だろうな。就職も初めから東京だったし、こっちの方がオレには生きやすいし」
「確かにね……俺達には東京が生きやすいよね」
どうだろう?
青木君の口からは亮ちゃんみたいに「長男だから結婚しなくちゃ」とか、隼人みたいに「彼女がいるから」とか、不穏なワードは出て来ない。
それに同郷と言うのは縁が強い。ナッキーとの仲がそれを証明している。
(切っ掛けはどうであれ、こうして縁が出来たのは事実だ)
「青木君は、鷹岡にも行き付けの店なんてあるの?」
「うん、盆正月に帰省した時はいつも行ってる店がある。実家は兄夫婦が幅を利かせているし姪っ子達もうるさい。せめて夜くらいは素に戻りたい。今ではすっかり業界の水に馴染んじゃってるから」
──「業界」とは、ゲイの人々が自分達のいる世界を指した隠語だ。
俺は同郷を意識して水を向けた。
「鷹岡の街なんて二丁目に比ぶべくもないから、今後何かの折に向こうで青木君とばったり会うことも有るかもね?」
「そうだね、その時はよろしくってか、実は見掛けた事があるんだよ~高校の時の知った顔!顔は知ってるけど口は利いた事は無いって微妙な関係で、何だか気まずくって互いに無視して済ませた」
「あるだろうな~。さっき、マイノリティな二人がこの特殊な場所でばったり会うのは十分有り得る事だって話したけど、地元だったら尚更だろうな~!
あ、でも今回は無視せず、俺には声を掛けてくれたんだね」
「それは……うん、佐藤君の事が知りたかったから……」
「じゃなくてぇ、歴野君だったから~とか、お世辞言えよ!」
「あ、ごめんごめん♪歴野君、相変わらず美人だったから~」
「言い過ぎ~!」
何となく打ち解けて会話に笑顔が浮かぶようになって来た。
(雰囲気は良好?)
ルックスは元々好きな範疇だったから目線を受け取った。
実際に話してみても嫌な感じもまるで無い──時折見せる頼り無げな表情にも俺の嗜好はそそられる。
(このまま付き合っちゃっても、いいのかな♡)
俺は(得意の)満面の笑みを浮かべて見せた。
「で、青木君、良かったら俺の部屋に遊びに来ない?」
青木君も、俺に負けないくらいの笑みを浮かべた。
「あ、さっきのグループの中に彼氏がいるから、そろそろあの店に戻りま~す♪」
「ふがっ?☆♪」
────なるほど、俺は振られたのか………………
後日──鷹岡の実家に帰省した折、俺は待ってましたとばかりに卒業アルバムを引っ張り出した。
やはりまず圭に目が行く。
(あ、圭だ!やっぱ少年だな。
男の子らしい表情が可愛いけど、今こんな子と付き合ったら犯罪だな)
佐藤は一番背が高い。
(当時は大人っぽいと思っていたけど、こうして見るとやっぱり中学生だな。当たり前か?)
そして青木君をさがす──。
(ええっと……あ、この子だ)
中学時代は成長の早い(すでにおっさんぽい)子と、成長が遅い(まだまだ幼い)子との見た目のギャップの激しい頃だ。
青木君は──まるで小学生のような風情で無邪気な笑顔を見せている。
まるで別人だ。
(ああ、これじゃ思い出せない筈だよ。人って大人になるとこんなに変わるんだな……の典型)
最後に自分の顔を確認する。
──思わずにんまり。
(あれ?髪の毛フワフワでニコニコ色白で、俺ってわりとキュートじゃね?)
なんて自惚れの理久であった。
(注、鷹岡市は架空の地名です)
「ところで青木君、今はどうなの?まさか未だに佐藤を恋い慕っている訳じゃないよね?」
「そりゃそうだよ。オレだってこの歳だから、そりゃ歳なりに色々あったよ。ただ、さっき歴野君を見て思い出しちゃったのさ、佐藤君のこと、そしてあの頃の純な気持ち……」
「純か……そうだな、俺だってあの頃は切ないくらい純だったのに、今じゃすっかり擦れっ枯らしのフテ子だもんね……。あ、君を一緒にしちゃいけないな。青木君の事なんにも知らないのに」
「オレだって同じだよ。こうして歴野君と向き合って話していると、まるで中学生だった頃に戻ったようだ。あの頃のオレ、今の自分とはまるで別人だよ」
──なんて会話をしていると、やっぱり同級生との再会なんて特殊なパターンだ。まるでタイム・スリップしているみたいな不思議な感覚にとらわれる。
「歴野君、今でも実家は鷹岡?」
「そうだよ、引っ越しもしていない。青木君は?」
「うん、オレも実家は鷹岡だよ。盆正月には鷹岡に帰省している。でもまあ、オレは次男だからこのままずっと東京だろうな。就職も初めから東京だったし、こっちの方がオレには生きやすいし」
「確かにね……俺達には東京が生きやすいよね」
どうだろう?
青木君の口からは亮ちゃんみたいに「長男だから結婚しなくちゃ」とか、隼人みたいに「彼女がいるから」とか、不穏なワードは出て来ない。
それに同郷と言うのは縁が強い。ナッキーとの仲がそれを証明している。
(切っ掛けはどうであれ、こうして縁が出来たのは事実だ)
「青木君は、鷹岡にも行き付けの店なんてあるの?」
「うん、盆正月に帰省した時はいつも行ってる店がある。実家は兄夫婦が幅を利かせているし姪っ子達もうるさい。せめて夜くらいは素に戻りたい。今ではすっかり業界の水に馴染んじゃってるから」
──「業界」とは、ゲイの人々が自分達のいる世界を指した隠語だ。
俺は同郷を意識して水を向けた。
「鷹岡の街なんて二丁目に比ぶべくもないから、今後何かの折に向こうで青木君とばったり会うことも有るかもね?」
「そうだね、その時はよろしくってか、実は見掛けた事があるんだよ~高校の時の知った顔!顔は知ってるけど口は利いた事は無いって微妙な関係で、何だか気まずくって互いに無視して済ませた」
「あるだろうな~。さっき、マイノリティな二人がこの特殊な場所でばったり会うのは十分有り得る事だって話したけど、地元だったら尚更だろうな~!
あ、でも今回は無視せず、俺には声を掛けてくれたんだね」
「それは……うん、佐藤君の事が知りたかったから……」
「じゃなくてぇ、歴野君だったから~とか、お世辞言えよ!」
「あ、ごめんごめん♪歴野君、相変わらず美人だったから~」
「言い過ぎ~!」
何となく打ち解けて会話に笑顔が浮かぶようになって来た。
(雰囲気は良好?)
ルックスは元々好きな範疇だったから目線を受け取った。
実際に話してみても嫌な感じもまるで無い──時折見せる頼り無げな表情にも俺の嗜好はそそられる。
(このまま付き合っちゃっても、いいのかな♡)
俺は(得意の)満面の笑みを浮かべて見せた。
「で、青木君、良かったら俺の部屋に遊びに来ない?」
青木君も、俺に負けないくらいの笑みを浮かべた。
「あ、さっきのグループの中に彼氏がいるから、そろそろあの店に戻りま~す♪」
「ふがっ?☆♪」
────なるほど、俺は振られたのか………………
後日──鷹岡の実家に帰省した折、俺は待ってましたとばかりに卒業アルバムを引っ張り出した。
やはりまず圭に目が行く。
(あ、圭だ!やっぱ少年だな。
男の子らしい表情が可愛いけど、今こんな子と付き合ったら犯罪だな)
佐藤は一番背が高い。
(当時は大人っぽいと思っていたけど、こうして見るとやっぱり中学生だな。当たり前か?)
そして青木君をさがす──。
(ええっと……あ、この子だ)
中学時代は成長の早い(すでにおっさんぽい)子と、成長が遅い(まだまだ幼い)子との見た目のギャップの激しい頃だ。
青木君は──まるで小学生のような風情で無邪気な笑顔を見せている。
まるで別人だ。
(ああ、これじゃ思い出せない筈だよ。人って大人になるとこんなに変わるんだな……の典型)
最後に自分の顔を確認する。
──思わずにんまり。
(あれ?髪の毛フワフワでニコニコ色白で、俺ってわりとキュートじゃね?)
なんて自惚れの理久であった。
(注、鷹岡市は架空の地名です)
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