210 / 283
第17章 恋愛不毛症候群
No,209 サウナの熱気にご用心
しおりを挟む
【これは30代前半のお話】
ちらりちらりと彼の横顔を覗いて見る。
なんてこと無い普通の感じなのだけれど、その普通の感じが堪らない、いや、かなりハンサムなのか?あ、いや、ハンサムだとしても、それを遥かに凌駕する普通感──そこが堪らない。
(分かんないだろうな~)
顔だけじゃない、髪型も普通な感じ、身体のラインも普通な感じ、いや、かなりきれいな体躯なのか?
もう、分からん!
ゲイにモテる要素がいくつかあるとして、実はこの「普通」と言うのがひとつのカテゴリーを作っている。
この真逆が「イカホモ」=つまり「いかにもホモに見えるタイプ」だ。実はこれはこれでひとつのモテ線だ。
──なんて話は逸れたが、一目惚れの目で見れば何から何までカッコいいとしか思えない。
(どうしよう……でも、だって、どうしようもないよね……)
そこは二丁目でもなけりゃ、ゲイの集まる有名サウナでもない。住宅街の普通の銭湯だ。
僕は今、ただこうして素敵な人と隣り合わせてサウナ室に座っているだけ。
僕は黙って心臓をドキドキさせていた。顔が真っ赤になっていたかも知れない──。
(年上だよね?30代後半くらいなのかな?でも、何だか顔が可愛い……肌もきれい……)
僕は熱いサウナの中で別な汗をかいていたのかも知れない。顔だけじゃなく、全身の肌が赤みをさした。
(僕のちらりちらりに、彼も気付いているんじゃないかな?)
元々三人掛けの所に二人で腰掛けているのだから、割とゆったりとはしている。彼は足を大きく開いていた。僕も少しずつ足を開いて行く。
心臓がバクバクと音を立てた。
(やるしかない!)
ここで行動を起こさなければ、もう、この人とは一生顔を合わせる事も無いのだろう。
チャンスは今のこの時だけ!
コツン──と音がしたかのような錯覚をした。僕の膝が彼の膝に接触したのだ──いや、接触させたのだ。
(あ、彼が膝を離さない……)
僕は接触させた膝を静かに離した。くっ付けたままでは、いくら何でも不自然すぎる。
自分から粉を掛けといて、僕は思わず弱気になってしまったのだ。
コツン──え?
今度は彼の膝が僕に触れた。
あれ?──彼の膝は僕の膝にくっ付いたままだ。あまつさえ少し押し付けてくる感じすら有る。
(これは……もしかして?)
そりゃそうだ。僕もこの歳まで生きていれば色々な事を経験している。もしこのサウナ室の中でハッテンを仕掛けるなら、短期決戦しかない。
じっくり時間を掛けていれば熱さにのぼせるだけだし、第一彼が既に何分ここに入っているのか分からない。熱さに耐えかねて彼が出てしまえばそれまでだ。
僕は今まで何度も書いた。
僕達は互いを引き合う。
その時その場のタイミング──それこそが僕達の出会いの切っ掛けなのだ。
僕は勇気を振り絞って、くっ付いた膝をぐりぐりと二度押してみた。
彼が僕の方へと顔を向ける。
僕はニコリと笑って見せた。
うつむき加減で、それでも彼は、はにかむように笑顔を見せた。
はい、決まりです。
「一緒に出る?」
と彼が言った。
「はい」
と僕はうなずいた。
そこから先は「ゆっくり湯船で手足を伸ばす」どころではない。
彼の様子を探り、彼のリズムに合わせて身体を洗い、湯船に浸かり、彼に合わせて身体を拭いた。
──ごく自然な形で二人一緒に出るには、それなりのコンビネーションが必要だった。恐らく彼も僕の動向を気にしていたのだと思う。
その間、一切の会話もコンタクトも無かったけれど、二人の行動は互いに通じ合っていた。
やがて二人共、ほぼ同時に支度が終わり、アイコンタクトをとって一緒に出た。外は夕暮れ時になっていた。
向かい合い、彼と目を合わせた。二人とも静かに微笑んでいた。
「どこかでお茶する?それとも、もう夕飯かな……」
と、彼は優しく語り掛けてくれた。
でも僕は知っている。
こう言う場合は変に気分を変えてはいけない──スリリングなハッテンの雰囲気をそのまま維持し、なだれ込むように抱き合った方が上手く行く。
「僕の部屋、直ぐ近くなんです」
「え?」
「……来ませんか?」
「あ……うん……」
──彼は頬を赤くし、はにかむようにうなずいた。
(あ、可愛い……多分年上なんだと思うけど、何だか可愛い)
「背が高いね」
並んで歩いていて彼が言った。
「同じくらいですよね?」
彼だって背が高い。横を見ると、真っ直ぐ視線が打つかった。
(あ、こんなに背丈が一緒だと、キスする時にどんなだろう?)
と、僕は不埒な事を思ってしまう。
まさかこんな事になろうとは思いもせず、僕は銭湯バージョンの普段着だった。でもそれは彼も同じこと──。
二人はまるで日常のように、肩を並べて僕の部屋へ向かった。
ちらりちらりと彼の横顔を覗いて見る。
なんてこと無い普通の感じなのだけれど、その普通の感じが堪らない、いや、かなりハンサムなのか?あ、いや、ハンサムだとしても、それを遥かに凌駕する普通感──そこが堪らない。
(分かんないだろうな~)
顔だけじゃない、髪型も普通な感じ、身体のラインも普通な感じ、いや、かなりきれいな体躯なのか?
もう、分からん!
ゲイにモテる要素がいくつかあるとして、実はこの「普通」と言うのがひとつのカテゴリーを作っている。
この真逆が「イカホモ」=つまり「いかにもホモに見えるタイプ」だ。実はこれはこれでひとつのモテ線だ。
──なんて話は逸れたが、一目惚れの目で見れば何から何までカッコいいとしか思えない。
(どうしよう……でも、だって、どうしようもないよね……)
そこは二丁目でもなけりゃ、ゲイの集まる有名サウナでもない。住宅街の普通の銭湯だ。
僕は今、ただこうして素敵な人と隣り合わせてサウナ室に座っているだけ。
僕は黙って心臓をドキドキさせていた。顔が真っ赤になっていたかも知れない──。
(年上だよね?30代後半くらいなのかな?でも、何だか顔が可愛い……肌もきれい……)
僕は熱いサウナの中で別な汗をかいていたのかも知れない。顔だけじゃなく、全身の肌が赤みをさした。
(僕のちらりちらりに、彼も気付いているんじゃないかな?)
元々三人掛けの所に二人で腰掛けているのだから、割とゆったりとはしている。彼は足を大きく開いていた。僕も少しずつ足を開いて行く。
心臓がバクバクと音を立てた。
(やるしかない!)
ここで行動を起こさなければ、もう、この人とは一生顔を合わせる事も無いのだろう。
チャンスは今のこの時だけ!
コツン──と音がしたかのような錯覚をした。僕の膝が彼の膝に接触したのだ──いや、接触させたのだ。
(あ、彼が膝を離さない……)
僕は接触させた膝を静かに離した。くっ付けたままでは、いくら何でも不自然すぎる。
自分から粉を掛けといて、僕は思わず弱気になってしまったのだ。
コツン──え?
今度は彼の膝が僕に触れた。
あれ?──彼の膝は僕の膝にくっ付いたままだ。あまつさえ少し押し付けてくる感じすら有る。
(これは……もしかして?)
そりゃそうだ。僕もこの歳まで生きていれば色々な事を経験している。もしこのサウナ室の中でハッテンを仕掛けるなら、短期決戦しかない。
じっくり時間を掛けていれば熱さにのぼせるだけだし、第一彼が既に何分ここに入っているのか分からない。熱さに耐えかねて彼が出てしまえばそれまでだ。
僕は今まで何度も書いた。
僕達は互いを引き合う。
その時その場のタイミング──それこそが僕達の出会いの切っ掛けなのだ。
僕は勇気を振り絞って、くっ付いた膝をぐりぐりと二度押してみた。
彼が僕の方へと顔を向ける。
僕はニコリと笑って見せた。
うつむき加減で、それでも彼は、はにかむように笑顔を見せた。
はい、決まりです。
「一緒に出る?」
と彼が言った。
「はい」
と僕はうなずいた。
そこから先は「ゆっくり湯船で手足を伸ばす」どころではない。
彼の様子を探り、彼のリズムに合わせて身体を洗い、湯船に浸かり、彼に合わせて身体を拭いた。
──ごく自然な形で二人一緒に出るには、それなりのコンビネーションが必要だった。恐らく彼も僕の動向を気にしていたのだと思う。
その間、一切の会話もコンタクトも無かったけれど、二人の行動は互いに通じ合っていた。
やがて二人共、ほぼ同時に支度が終わり、アイコンタクトをとって一緒に出た。外は夕暮れ時になっていた。
向かい合い、彼と目を合わせた。二人とも静かに微笑んでいた。
「どこかでお茶する?それとも、もう夕飯かな……」
と、彼は優しく語り掛けてくれた。
でも僕は知っている。
こう言う場合は変に気分を変えてはいけない──スリリングなハッテンの雰囲気をそのまま維持し、なだれ込むように抱き合った方が上手く行く。
「僕の部屋、直ぐ近くなんです」
「え?」
「……来ませんか?」
「あ……うん……」
──彼は頬を赤くし、はにかむようにうなずいた。
(あ、可愛い……多分年上なんだと思うけど、何だか可愛い)
「背が高いね」
並んで歩いていて彼が言った。
「同じくらいですよね?」
彼だって背が高い。横を見ると、真っ直ぐ視線が打つかった。
(あ、こんなに背丈が一緒だと、キスする時にどんなだろう?)
と、僕は不埒な事を思ってしまう。
まさかこんな事になろうとは思いもせず、僕は銭湯バージョンの普段着だった。でもそれは彼も同じこと──。
二人はまるで日常のように、肩を並べて僕の部屋へ向かった。
応援ありがとうございます!
28
お気に入りに追加
30
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる