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第20章 僕のこの恋は夏生色

No,264 夏生を見送る切ない心

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【夏生に告白された翌日の話】

──二人は新幹線のホームに立っていた。

「夏生……俺達こうなってしまったら、今こうして夏生を見送るのがとても寂しい。
まさか昨日今日の二日間でこんなに自分が変わってしまうなんて、何だか怖い」
「大丈夫。オレは直ぐに理久のところに戻ってくるよ。まさか理久へのプロポーズがこんなに上手く行くなんて思っていなかったから、オレも少々動揺はしている。
でも嬉しいよ、理久が受け入れてくれて。だから今後の予定は速やかに実行に移す」

「え、予定?何か具体的な事を考えてるの?」
「当たり前だよ。オレ達もう30代も後半だ。遠距離恋愛なんてじれったい事をしている時間が惜しい。オレも東京での生活を清算して鷹岡に帰郷するよ」

「え!大丈夫?転職なんて、俺のためにそんなリスクを背を負わせられない……」
「バカ言うな、理久のためじゃない、オレ自身のために帰郷するんだ。理久と離れ離れになってまだ一ヶ月も経っていないのに、二人で箱根を旅行をしたのもつい先日の事なのに、でも、もうオレ耐えられないんだ、理久が近くにいな
い生活なんて……」

「夏生……」

 俺はついついそんな夏生を抱き寄せたい思いに駆られた。
 だけどここは真っ昼間の新幹線ホーム。人目も多い。そんな悪目立ちする行為は我慢せねば──。

「夏生……俺、今すごくおまえを抱きしめたい」
「って、口に出して言ってくれるのが理久のいいところ。
ああ……理久にそんな事を言ってもらえるなんて、オレ、今日まで生きてて良かった……」

 あれ?夏生の瞳が潤んでる。
 でも、これは悲しい涙じゃないんだね。

(俺たち、今幸せなんだな)
 って、じんわりと思えた──。

「それにしても夏生、生きてて良かっただなんて、やっぱ言動が大袈裟だな。◎◎ちゃんの真似事の影響か?」
「あ、うん……まあ、あれだよ、昨日は一世一代の大告白だと構えていたから、その余韻を一夜明けても引きずっているだけさ。
それより理久、まず退職についてきちんとしたいから、それなりの時間は要すると思う」

「そりゃそうだよ。俺だって進退伺しんたいうかがいを立ててから円満退職まで数ヶ月を要した。そこは社会人としてきちんとしておかなくちゃ再就職にも差し支える」
「うん、分かってる。そこは自分でちゃんとするけど、ひとつだけ理久に協力して欲しい事があるんだ」

「もちろん!夏生のためなら何でもするよ?」
「鷹岡での住居なんだけど、オレが自分で部屋探しに回るのは難しいから、理久に頼みたい」

「そうだな、それはそうだね、東京と鷹岡を行き来する労力も運賃もバカに出来ないよね。
でも、それって俺でいいのかな?夏生が帰郷するんだから、それは春川家にとっても一大事だよね?
そこは兄ちゃんを頼りにするのが自然なんじゃない?」

「うん、でも理久、オレの帰郷の理由自体が自然じゃないんだ。
確かにオレが帰郷するなら、取り敢えず母さんと兄ちゃんが暮らすマンションに転がり込むってのが自然かも知れない。新しい部屋も実家の近くで探すとかね。
でもオレが帰郷する理由は理久の近くにいたいからなんだ。だからそこは理久に探して欲しい。出来るだけ理久の家の近くに……」

 俺は感動してしまった。
──確かに夏生には近くに住んで欲しい。俺もそう願う。

「分かった。夏生の部屋は俺が探す。出来るだけうちの近所に探すよ」
「ありがとう。理久の見立てなら安心だ。急がないからじっくり探して?」

「うん……だけど……夏生が俺の近所に住むなんて、夏生の家族はどう思うかな?少し心配……」
「そこはオレも考えどころなんだけど……うん、やっぱりオレたちの事は、家族にはちゃんと話さないと筋が通らないかも」

「カミングアウトってこと?」
「うん、どこまではっきりさせるのかは難しい判断だけど、やっぱ普通は、友達の帰郷を追っ掛けて近所に住むなんて不自然だよね。そこはやっぱ理解を求めないと……」

「そうだよな……それは俺も考えなくちゃ。近所に住んてる夏生を家族に隠し通すなんて到底無理だし……」
「あ、でもそこは急がないようにね。春川家と歴野家では事情も違うし、お互い無理の無い形で理解が得られればいいんだけど……」

「う~ん……うちは一点、母親が大障害だと思う。姉貴は俺のこと何となく分かっていると思うし、父親は宇宙人だから問題無い」
「確かに、あの父ちゃんならオレがちゃっかり住み着いても気付かないかもね」

──なんて、話が深刻になりそうなところで東京行の車両がゆっくりとホームに入って来た。

「じゃ、気を付けて♡次に会えるの楽しみにしてるから♪」
「うん、理久も元気で♡」


 こうして夏生は東京に帰った。


 後日亮ちゃんには
「理久の彼氏、夏生だっけ?
顔は可愛いけど中身は男っぽい奴だな~」
 なんて言われた。

 俺自身は「男っぽい」なんて言われた事が無いから、これが夏生の事でも何だか妙に嬉しかった。

(そうか、
  俺の夫は男っぽいのか)

 まんざらでもない。
     にんまり──。


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