ハルヒカゲ

葉生

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一章

一話 - 一

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 今日は両親が帰ってくる。仄羽は先ほど購入した団子を胸に抱えて、ふふふと堪えきれずに小さく声をもらした。ひとつにまとめて高く結った桃色の髪が左右に揺れる。馴染みの団子屋は二本もおまけをしてくれたし、うれしいことばかりだ。
 長く患者を診ながら並行して続けていた両親の研究がいったい何なのか、仄羽は知らない。だがひとつの結果を出せたときのよろこびようといったらなかった。きっと高瀬でもいい評価を得てくるだろう。
 浮かれて小走りになり、つんのめる。あっ、と思ったときにはすでに自分の体は傾いていて、視界がスローモーションになった。このままこけてはまずい。頭だけでもなんとか守らなければ、と意識できるかぎり体をひねり、衝撃をおそれてぎゅっと瞼を閉じる。しかしいつまで経っても痛みがこない。ゆっくりと目を開ければ、誰かの胸のなかにいた。
「あっぶな」
 頭上からの声に顔を上げれば、貫爾かんじだ。
 仄羽の頬が紅潮する。動けずにいると、貫爾は仄羽から離れてしゃがみこんだ。
「草履、脱げてる。ほら」
 差し出され、慌てて足袋裏をはたいて足を入れる。
「ごめん。ありがとう」
「ドジなんだから気をつけろよ。今日だろ? おじさんたち帰ってくるの」
 そうなの、とぱっと仄羽は顔を明るくして、無意識のうち腕に力をこめる。むにゅりとした感覚があり視線を落とせば、抱きしめた団子がつぶれかけていた。今度は青ざめ、中身を確認する。とりあえずは無事だ。ほっと胸をなでおろすと、笑いを堪えた低い声が耳に入ってきた。
「百面相」
 その笑顔に一瞬見とれ、我に返ると仄羽はむうと頬をかすかにふくらませた。小さなころから一緒の幼馴染で、家も近所で、貫爾にはずっとからかわれてばかりだ。
「そんなこと言うなら、貫爾にはお団子あげません」
「なに。なんで怒ってんの」
 歩き始めた仄羽の後ろを、貫爾がついてくる。夫婦喧嘩か貫爾、と八百屋から野次が飛び、ちっげーよ、と笑いながら貫爾は返した。だいたいどこの家も長い付き合いなので顔馴染みであるし、特に仄羽はその桃色の髪で多くの人に認識されていた。
 春嵐の人間は通常、黒髪黒目だ。貫爾も、野次を飛ばした八百屋も、仄羽の父克登も。母の早彰は黒髪黒目だったが、春嵐の生まれではなかった。春嵐の人間が異人――外部からの生まれ――と子をなすと、なぜかその子は黒以外の髪の色、もしくは瞳の色で生まれてくる。仄羽もそのひとりだった。
「仄羽、あのさ」
 急に真剣な表情になり、貫爾が並んで足を進めながら仄羽の顔を覗きこむ。
「あの、さ。今度、時間つくってくれないかな。今日じゃなくていいから」
「今度って?」
 かすかにうつむき、仄羽は唇を内側に軽く噛んで感情を表に出さないよう努めた。何にも気づいていないように。貫爾が普段より早口になっていることを気にしていないように。
「明日、とか」
 今日じゃなくてと言いながら、急いた気持ちが透けて見える。いったいいつ、何が貫爾の覚悟をかためる要因になったのか、仄羽にはわからない。内容はきっと予想しているとおりで、いまでいい、いま言ってほしい、という言葉をぐっと飲みこむ。
「明日かあ」
 じらすように言えば、貫爾は目を泳がせた。無論、予定はない。少し困らせてみたいだけだ。
 堪えようとしても、結局じわじわと口角が上がってしまう。仄羽が改めて貫爾と目を合わせて、頷こうとしたとき、自身の家の前に見知らぬ男性が数人立っているのが見えた。多くはこの町の警備や犯罪取り締まりを担う、十三天王の制服だ。中心にいる長身痩躯の男だけが、着物を着て草履を履いていた。橙の髪色をしている。縦に振りかけた仄羽の首がぎこちなく男性たちのほうに向く。仄羽につられて、貫爾もそちらに目をやった。
 いったい、何があったのか。仄羽は歩みをとめこそしなかったが、警戒のためにゆっくりとした足取りになった。長身痩躯の男がたまたま仄羽の家の前で話を聞かれているわけではなく、むしろ、男がほかの男たちに指示を出しているようだ。
 男が振り返る。異人との間に生まれた子でも、大概は髪の色だけが変わり、まれに髪ではなく瞳の色が変わるものだが、男は橙色の髪であり茶色の瞳をしていた。
「やあ、あなたが狄塚仄羽さんっすかね?」
 ゆったりと男は微笑み、仄羽に近づいた。貫爾が仄羽を守るように一歩前に出る。貫爾も決して背が低いわけではないのに、男はさらに頭一個、飛びぬけていた。
「すんませんね、ぞろぞろと。お話があって参りました」
「誰だお前は」
 硬直している仄羽の代わりに、貫爾が噛みつくように言った。貫爾、と袖を引いて小さく咎める。だが、どうやら十三天王の所属で、怪しい人物ではなさそうだとわかっていても内心動揺していたから、貫爾の対応はありがたかった。
「これは失礼。そりゃそうっすよね。深浦みうらしょうと申します。祇矩藤家……」
 貫爾の不躾さなど歯牙にもかけず、暁はにこにことしたまま答えた。話している途中で貫爾が言葉を重ねる。
「十三天王か」
「うーん。まあ近いもんかな」
 後ろに待機し、おそらくは貫爾に注意をしようとした一人に手を上げて暁が制する。背中に目玉でもついているような滑らかさだった。暁の視線は仄羽たちに向けたまま、動いていなかったというのに。
「あなたは?」
筈井はずい貫爾だ。仄羽の」
「ああ、それ以上は結構」
 今度は貫爾に向けて手を上げて制し、暁は貫爾の後ろに隠れている仄羽を見やる。眉をハの字にして笑った。困っているというより、憐れみが浮かんでいるように感じた。とにかく乱暴を働いたりはしないのではと判断し、仄羽はおそるおそる、前に出た。
「仄羽」
 下がっていろと貫爾に訴えられる。しかし悪いことはしていない。このままでは埒が明かないし、もしかしたら調査に協力してほしいだけかもしれない。そうなると十三天王を名乗る相手を無下にすることはできなかった。仄羽が住む四区は祇矩藤家に対する忠誠心や感謝が薄く、貫爾にしても同じだったが、仄羽は常に見廻りをして町を守ってくれている十三天王、ひいてはその上にいる祇矩藤家に反発する気持ちはない。
「狄塚仄羽さんで、間違いないっすか?」
 何度か貫爾が名前を口にしているのに、用心深く暁は仄羽に聞いた。仄羽は口を結んだまま首肯する。
「ご両親、そしてあなたのことでお話があって参りました。申し訳ないんすけど、こちらにも一応守秘義務というのがありまして。お家に上がらせていただいても?」
「俺も行く」
「だめっす」
 ぴしゃりと暁が言い放つ。それまでの穏やかな様子から一変したため、仄羽も貫爾もびくりと肩を震わせた。
 暁はつよく出たことを後悔するように情けなく顔を歪め、うつむいて小さく嘆息した。一房伸ばされた左のもみあげを指ですく。
「いや……もちろん、心配なのはわかります。でも、話せるのは仄羽さんにだけなんすよ」
 気の抜けた敬語を紡ぎながら、暁は続けた。控えめな声音だが、決して譲れないことが伝わってくる。暁自身の考えというより、おそらくは十三天王の決まりとして。
「わかりました」
「仄羽」
「大丈夫。貫爾だって昔は十三天王に入りたいって言ってたじゃない」
 茶化してごまかす。昔の話だろ、と貫爾は眉根を寄せて腕を組んだ。春嵐に生まれれば大概一度は十三天王に入りたいと考えるものだ。狭き門、春嵐における精鋭たち、祇矩藤家の直轄。町民の憧憬の対象だ。同じ祇矩藤家直轄にはもうひとつ屋敷を兼ねた〔春日〕もあるが、そこは目指すところではない。
 どうぞ、と暁を招き入れる。制服を着て待機していた面々も入ってくるのかと思えば、一人を戸の向こうに残してあとは見廻りをしてくるように暁は命じた。
 住まいは待合室を過ぎ、診察室を抜けたところにある。奥まで案内しようとしたものの、ここで充分っす、と暁は診察室の床に座りこんだ。座布団も茶も断られ、ためらいののち仄羽も腰を下ろした。
「あの、先ほどは失礼しました。幼馴染なんです。ちょっと心配性というか、短気なところがあって」
 ふいに何を話されるのかこわくなり、暁が口を開くより先に言う。いえいえ、と穏やかな様相に戻った暁は手を振った。
「十三天王、なんですよね?」
 今さらだが、確認をする。本来なら制服が義務づけられているはずだ。先ほども、暁以外は全員着ていた。その点、暁も心得ているようで、胸を開く。
「改めまして。俺は祇矩藤家現当主威さま直属の深浦暁と申します。職務としてわかりやすいものを簡単に言えば、十三天王の監督、ですかね」
「監督」
「まあ、十三天王をまとめあげて指示したり許可したりするってことっす」
 つまり単純にえらい人、そのうえ十三天王の上の立場ということは、この町の権力者の一人だ。仄羽の体から血の気が引く。無意識のうちに両手を床について、深く頭を下げた。そ、と飛び出た声がかすれる。
「それは大変ご無礼を……」
 いかに祇矩藤の影響力が薄い四区といっても、あくまでほかの区に比べての話であり、根底には祇矩藤に対する畏敬の念が染みついている。母早彰は異人ゆえになかなか理解ができずにいたが、ここで生まれ育った者であれば、誰もが少なからず持っている感情だ。
 あまりにも若いのでまさかそんな相手だとは思いもしなかった。大きく見積もっても、せいぜい三〇代前半くらいにしか見えない。
 やめてください、と暁は慌てて仄羽の体を持ちあげる。仄羽の姿勢が戻ると心底安堵して溜息をつき、自身の膝の上に手を置いた。
「いやあ、俺そういうのだめなんすよね。この口調、軽薄だからやめろって上司に言われるんすけど、同じように中身もぺらぺらなんで。いまはその役職を宛がわれてるってだけっす」
 だいたいこういう仕事もほんと苦手だし。ぶつぶつと呟き始めた暁を見て、仄羽は瞬いた。体から余計な力が抜けたのがわかる。薄く微笑むと、暁は目を細めて一瞬、うつむいた。
「すんません、本題に入ります」
 小さく咳払いをした暁が仄羽に向きなおる。
「狄塚克登、その妻早彰両名、先日高瀬からの帰還途中にて、死亡が確認されました」
 時がとまる。しばしの静寂のあと、きいん、と耳鳴りがした。え? と聞きなおしたつもりが、口がかすかに開いただけで何の音も出ない。
 暁は仄羽をじっと茶の双眸に映し、沈黙した。仄羽が動けずにいると認めると、淡々と続きを述べ始める。
「我が十三天王、高瀬町からの報告を受けこれを確認。強盗に遭遇したと思われ、金銭類の一切はなく、遺体は高瀬にて処理されました。こちらが証となる着物の切れ端っす」
 眼前に差し出された二枚の布の柄は確かに見覚えがあり、両親の死は事実なのだと唐突に理解した。脳みそが揺れて、視界が歪む。格好を保てず肘から先を床にたたきつけてしまう。反対に、暁は姿勢を一切崩さず仄羽をまっすぐに見つめた。手を貸したりはしなかった。
「うそ」
 やっと口から出た言葉も、意味はなかった。暁は否定せず、なおさら憐憫を持って仄羽を眺める。
 泣き叫びたいのに、涙が出ない。声も出ない。混乱が頭のなかを渦巻いて、前後左右の感覚がわからなくなってくる。高瀬への出発前には、あんなに笑顔で、いつもどおりのふたりだったのに。
「引き続いてお尋ねします。狄塚克登氏による我らが祇矩藤家への借金について、仄羽さんはご存知で?」
 借金?
 何の話をしているのかわからず、仄羽は虚ろな瞳で暁を覗く。
「本来借金というのは借りた本人の問題で、親の責任を子になすりつけるようなことはしないんすけど。ちょっとね、額が大きすぎるんす。一定の額を超えると本人が亡くなった場合でも……いや、細かい話はいまはいいすね。つまり現在、狄塚克登氏の借入額返済義務が仄羽さん、あなたにあるってことっす」
 暁は胸元から借用書を取り出し、広げて仄羽に渡す。字を追えば、停止しかけていた思考もぶれていた視界も一気に覚醒した。信じられずに指でひとつずつ数字を確認する。何度見返しても額は変わらない。
「な、何かの間違いじゃ」
「もし疑うようであれば、どこかに克登氏が保管している複写分があるでしょうから、探します?」
 いえ、と力なく仄羽は首を振る。思わず言ってしまったものの、祇矩藤家がそんな捏造をわざわざするとは考えにくい。暁が一歩近づき、仄羽の手から借用書を抜いた。再び折りたたみ、胸元にしまう。
「……お返しします」
 仄羽は座りなおして両手をつき、改めて暁に頭を下げた。
「必ず、お返ししますので……」
 必死になって言いながらも、無理だ、という思いがよぎる。あんな額、途方もなくて、全額どころか半額返せるかどうか。
 父の親戚は仄羽が幼いころに亡くなっている。遠縁がひとりくらいはいるのかもしれないが、克登には聞いたことがなかった。母は異人なのでそもそも春嵐に親戚はいない。ふたりと血縁関係があるのは仄羽ただひとりだ。
 いるのかいないのか不明の親戚よりもよほど近しい貫爾や、貫爾の家族にはずっとお世話になっている。これ以上家のことで迷惑をかけるわけにはいかなかった。誰を頼ることもできない。仄羽以外、誰もいないのだ。
「貸付額返済に伴い、仄羽さんには、〔春日〕での勤務および貢献を命じます」
 告げられた内容について、仄羽は頭を下げるほかなかった。


 家具の一切が手際よくまとめられていく。仄羽が家を出ると、ずっと待っていたのか、貫爾が走り寄ってきた。大丈夫か、何が起きているんだと、仄羽の肩や腕に触れて無事を確認する。
「さっきあの橙髪の男が出てきて捕まえようとしたら、十三天王の隊士に遮られてさ。せめておじさんたちが帰ってきたあとにしろって話だよな」
 笑おうとしたら、うまくいかずに唇が歪んだ。仄羽は顔を下げて大きく息を吸い、そして吐く。再び顔を上げれば、いつもどおりを装えた。ひとつに束ねた桃色の髪が首をちくちくとつつく。
「貫爾、これあげる。おばさんたちと食べて」
 暁と会う前に買った団子を差し出す。貫爾は仄羽と団子を交互に見て「なんで?」と笑った。当然といえば当然だ。いいからと半ば押しつければ、やっと受けとった。
「あとごめん。明日の約束、だめになっちゃった。なかったことにして」
 イメージどおり、笑いながら軽い調子で言えて内心ほっとする。これからの仄羽について、いつかは噂で貫爾の耳に届くのだろうけれど、それはいまではあってほしくなかった。深刻なことではないと、いまだけでも思っていてほしかった。
 しかし貫爾の反応は、仄羽が想像に描いていたものとは異なっていた。
「……なんで?」
 眉間に皺を寄せた貫爾に、先ほどと同じ言葉を投げかけられる。
「さっきの、あの男になに言われた? あいつ何なんだよ」
「違うの。あのひとはただ教えに来てくれただけで」
「だから何をだよ」
「貫爾、お願いだから」
 悲鳴にも似た仄羽の叫び声で、周りの人たちが振り返りふたりに注目した。貫爾は掴んだ仄羽の肩から手を離し、ゆっくりと下ろした。
 痴話喧嘩と勘違いしたのか町は喧騒を取り戻し、あたりは日常に戻る。仄羽は貫爾を見つめて微笑み、貫爾は明らかに様子のおかしい仄羽を見つめ返して黙った。
「貫爾。名前、呼んで。わたしの」
 なんで、と貫爾の口が動きかけ、閉じる。詳細は何も理解していなくとも、仄羽のこれから行く先を悟ったようだった。
 春嵐には一区から四区までの居住区のほかに春霞はるがすみと呼ばれる場所があり、そこが春嵐の中心地だ。多くの店が営まれ、子どもたちが遊び、日によっては祭りが催されたりなど、いつも賑やかしい。仄羽も幼いころ、華やかさに目を輝かせたのを覚えている。ただ、昼だけだ。夜には入ったことがない。夜になると居住区との境を示す大門が閉められ、昼とは別の様相を呈するからだ。母早彰が祇矩藤をいやがり、もともと二区に住んでいた父を説得して四区に移り住んだ理由でもある。
 夜は駆け引きと欲望の世界。
 すなわち、花街として長く栄え続けている。
「貫爾」
 仄羽がそっと貫爾の手を包むと、貫爾はぴくりと指を震わせた。やがて仄羽のまなざしに観念して、一音一音噛み締めるように貫爾は言った。
「……仄羽」
 祇矩藤家の権力の象徴でもある〔春日〕は、春霞の最奥に位置する。
 これでもう、仄羽に心残りはなかった。しなきゃいけないことがあるからと貫爾に笑顔で手を振り、角を曲がったところで歩を速める。振り返ったら立ちどまってしまうとわかっていた。胸元に収めた両親の形見の布を、着物の上からぎゅっと抱きしめる。こんなときはこけずにいられる自分が少しだけ憎らしい。
 駕籠とその傍に立つ暁を見つけ、仄羽は頭を下げた。黒髪黒目の男たちに囲まれると、暁の髪や瞳はひどく目立つ。
「もういいんすか?」
 退去までの数日の猶予を断ったのは仄羽だ。すべてが唐突で、正直なところまだ混乱している状態だが、だからこそわけもわからないまま動ける。このまま家でひとり、両親が帰ってこないことや、借金のこと、貫爾のことを考えてしまうと、何もできなくなる。
 ためらいつつも頷けば、暁に促され、駕籠に乗りこむ。縁がない乗り物だと思っていたのに、おそらくは春霞に向かう途中で逃亡を阻止するためだろう。どちらにせよ、顔が外から見えなくなるのはありがたい。
 出発、と暁の声がして、駕籠がぐらりと揺れた。座っているのに前に進んでいる。変な浮遊感があった。
 家にある家具や金品類、その他諸々はすべて借金の返済にあてられる。そのなかで何かこれだけは、というものがあればそのまま〔春日〕に持っていけると言われ、仄羽は小さな桐箪笥、そしてその中身をお願いした。
 一定の速度で揺られていると、今度はだんだん落ちついてきた。不思議なもので、感情が凪ぎになればなるほど、目頭が熱くなるのをとめられない。
 遠くのほうで仄羽、という貫爾の叫び声が聞こえた気がした。その瞬間、今日初めて頬に雨が降り、仄羽は頭を抱えて体を震わせた。
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