異世界で森の隠者のヒモになります。

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09.ひとりきりの時間は色々考えてしまうもの

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 あの日、家に戻って来たシルが詳細を話すことはなく、なんでもないよ、の一言で済まされてしまった。なんでもないのにあの警報音なのかと問い掛けたようとした悠斗は、初めて見る張り詰めた様子に言葉を続けることが出来なかった。
 無表情というよりは、怒っているような、威圧的な雰囲気だった。

「なんだったんだろうなあ……」

 あれから一週間、何事もなかったように何の変哲もないヒモ生活は続いている。
 悠斗は既に定位置と化したソファーに仰向けに寝転がり、お腹の上に読みかけの本を乗せて天井を見上げていた。木製の天井の木目も、大分見慣れて来た。
 あの日シルが読んでいた本は難しめの民話童話集で、今はちまちまとそれを読んでいる。古めかしい本は言語チートを通しても古文を読んでいるようでなかなか進まない。
 シルが見せてくれたイラストの話は、力を求めた亡国の王子が助けを求めにエルフの里を訪れるという冒険譚だった。この世界ではエルフの方が上位種というか、以前シルが言っていた通り魔法に長けている。エルフの協力を得た王子が仇を倒して国を興すという良くある物語だった。
 日本で読んだらファンタジーでしかないそれは、なんと実際にあったことで、しかもこの森のある国を建国した人物のことらしい。

「どの世界も、してることは変わんないよなあ」

 誰かが権力を求めて陥れて、誰かがそれを打ち倒す。
 盛者必衰・因果応報は日本の物語でもよく語られていたし、ざまぁは最近の流行だった。

 両手をぐーっと伸ばして固まった身体をほぐす。ちらりと見た向かいのソファーに今日はシルがいない。雨が降りそうだから今のうちに狩りに行くと言って出かけてしまった。
 狩りに出たら必ず何か持って帰って来るので、今晩は肉料理だろう。実はひっそり楽しみにしている。健康な10代男子は肉が食いたい。

 ――――身長はもう伸びないけど。

 シルはローブを着ていることもあって、これぞ魔法使い! という印象を持つ細身の身体だ。身長もそれなりにあって、並ぶと悠斗が見上げることになる。
 料理を作る時に見る背中は想像よりも広く感じる。狩りも得意だから鍛えているのかもしれない。

 耳が尖っていたら完全に悠斗の想像通りのエルフだ。むしろ尖っていないことが不思議なくらいだ。魔法で隠してる説すら考えたことがある。
 もしくは、綺麗な顔だから格好をしたら王子様説もイケると悠斗はこっそり思っていた。

 未だに二次元は三次元化出来るんだなと定期的にシルの顔をしみじみ眺めてしまう。
 そんな気はなくてもこの男ならアリだと思わせる雰囲気がある。

(いや、俺は違いますけど! ヨメじゃなくてヒモなので!)

 でも、ただのスパダリなんだよなあ。とも悠斗は思うのだ。
 好きな相手が出来たらもっと人間味のある表情をしたりして、しいて言うなら無表情と無口が欠点と言えるシルが完璧超人になるんじゃないだろうか。世界を制覇するかもしれない。

「……贔屓しすぎか? でも、マジそんな感じだよなあ」

 狩りの帰りもそうだ。肉が切り分けられて、RPGあるあるの異空間収納の中に入っている。
 解体して帰って来ているのかゲームのようにドロップするのかは知らないが、この家に持って来る肉は必ずスーパーで売っている状態になっていた。
 目の前で解体されたら食べられる自信がない悠斗には有り難いが、申し訳なくもあった。

 申し訳ないと同時に、外に出ないように、との直々のお達しがあるんだから仕方がないという思いもある。前はそんなことをいちいち言って来なかったのに、これで「なんでもないよ」はやはり通用しないだろうと悠斗は内心で無表情のシルにツッコミを入れる。

 おじいさんは森へ狩りに、おばあさんはおうちでヒモ。
 じゃああの日の警報音の元を桃太郎にしようか。

 暇すぎて思考がとっ散らかっている自覚はあった。

 シルは足音もあまりしないし無口な男なのでいてもあまり誰かといる感じはしない。それでもこうして不在になると、一人っきりなのを痛感する。

 そして、一人きりになると、途端に不安と、心もとなさが襲ってくる。
 世界に自分だけになってしまった気がする。

 この世界に来てしまったあの日からがらりと変わった生活に、なんとなく流されて、なんとなく普通に暮らしてしまっているが、逃避半分性質半分といったところだろうか。
 一人暮らしの延長だと思うことで、会えない家族や高校までの友人とのことはひとまず置いておくことにした。幸いにも大学の友人はまだ出来ていない。

 でも、一か月だ。

 もう一か月もシル以外の人間と会っていないんだと改めて思うと、不思議な気分になる。
 自分はこんなにずっとひとところに押し込まれてなんでもなく生きていられるんだったか。どちらかと言えばのんきな性格ではあった。友達の多いほうではなかったが少なくもなかった。大学を楽しみにしていた。

「ダメだ、外の空気吸いたい」

 寝転がって考えていてもろくなことにならないと、反動をつけて起き上がる。外に出るなとは言われているが、扉を開けて空気を吸うくらいはノーカンにして欲しい。
 今はいないシルにそう言い訳する。



 まさか外に、先日の警報音の原因がいるなんて、思いもしなかった。

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