異世界で森の隠者のヒモになります。

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11.冒険者ギルドとかいうテンプレ

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 室内に足を踏み入れた男は、驚いた顔で室内を見回して、背後の扉を振り返る。室内の広さと建物の大きさが合わないことは一瞬で分かる。男もそれに驚いたようだ。
 悠斗が異世界に来たあの日、初めて中に入った時にした反応と同じで苦笑いをした。
 この世界基準でもこの技術がおかしいことがはっきりと理解できた。

 あの日と違うことといえば、歓迎していないことを示すかのように卓上に何も置かれていないローテーブルだ。
 シルの名誉のために言うと、決して訪れた人間に飲み物を出すことを知らない生き物ではない。

 三人掛けソファーにシルと悠斗、いつもはシルが座っている一人掛けのソファーに男が座る。

「――この間も言ったが、人を探している」

 ごほんと動揺していた男が一つ咳をして話を切り出した。

「首都に戻って情報を確認した。お前がシルヴェストルなんじゃないのか」

 茶髪にこげ茶の瞳は悠斗から見ても見慣れたものだが、身長は悠斗より背の高いシルより更に頭一つ以上大きく、身体つきは鍛え上げられていて、体重で言ったら倍はありそうだった。戦いに身を置いている人間のものだろうと容易に想像出来る。剥き出しの二の腕など、悠斗の太ももよりも大きく、筋肉がつまっていそうだ。
 遠目に見た時には分からなかったが、その大きさに威圧されて、悠斗は緊張にぎゅっと膝の上の拳を握る。

 迷いなくシルを見据える男の視線は鋭い。その瞳の力強さにはらはらしてシルの方を見ても、シルは微動だにしていない。
 ローブを取る気がないらしく久々に室内でシルの表情は窺えない――見えたところでいつもの無表情だとしても、見えると見えないでは大きく違う――ものの、悠斗と違って緊張している雰囲気はない。

 ――シルヴェストル……シル、だよなあ、多分。

 初めて聞いた名前だった。同時に、略称なだけで偽名ではなかったんだと失礼なことを悠斗は思っていた。
 シルが訳ありなことはこの森で長年暮らしていることから察してはいた。まさかこんな風に核心に近い部分に触れることになるとは考えもしていなかった。

「その前に、君は誰」

 確かに。ぽん、と悠斗は脳内で手のひらを拳で叩く。
 シルの冷静な声音に虚をつかれた顔で男がぱちぱちと目を瞬かせた。そうするとさっきまでの威圧感は大分軽減されて、わざとそういう雰囲気を出していたのかと疑惑が深まって半目になる。
 男が知る由もないことではあるが、肉体言語に触れる機会がほぼないままで育った日本人である悠斗としてはたまったものではなかった。
 話を聞きたいと言ったことを後悔したほどには、悠斗は威圧的に出るタイプとはお近づきになりたくない。

「ああ……悪い。名乗っていなかった。俺はグレン。この国の冒険者ギルド本部のギルマスやってる」
「えっ、冒険者ギルド!?」
「お、おう。あっ、別に荒くれモンばっかじゃねえからな? そりゃ、どっちかっつうとガラの悪いヤツが多いけどよ」

 ファンタジーのテンプレがここに来て突然現れて、悠斗は思わず大声を上げて身を乗り出した。第二森人――グレンはそれをマイナスに捉え、大きな身体を仰け反らせて両手を顔の横に上げて無害をアピールしている。
 マイナスに振れていた好感度がぐんと高まる。テンションの上がった悠斗がくるりと手のひら返しをしている横で、シルは黙ってソファーに身を預けていた。

「へえええ、冒険者ギルド。知ってる?」
「――登録はしていないけど、行ったことはあるよ」

 くるりとシルに向き直り問いかけると、はあ、とため息混じりに返事が来た。この男の前では話したくなかったのかもしれないと申し訳なく思う。
 ただ、意外にも、利用したことはあるらしい。

 ついついその時もローブ姿だったのかな、とか、戦うシルはどんな感じなのかな、と、異世界ファンタジーのあれやこれやを妄想してしまう。
 荒くれ者の多い冒険者ギルドと、静かな雰囲気のシルの掛け合わせはあまりピンと来なかった。浮いているかつてのシルを想像したが、依頼を受ける冒険者よりも、貴族のお忍び姿の方がしっくり来る。

「――で。返事は貰えないのか?」
「確信しているように聞いておきながら?」
「違う可能性もあるだろう」
「そうだね」
「俺は真面目に聞いているんだ。答えろ」
「それは――命令でしょうか、ギルドマスター」

(お、おお……)

 初めて見るシルのとげとげしい様子に、今度は悠斗が仰け反る。ローブで顔が見えなくて良かった。あの美貌が苛立ちを見せていたら、怖そう。少なくとも悠斗は気圧されて息を呑むだろう。
 冴え冴えと冷たく光る薄紫の瞳を思って、ぞくりと背筋が寒くなった。

「そう取ってもらっていい。フードを取ってくれないか」

 そして落ちる沈黙。

 きょどきょどと落ち着かずにシルとグレンの間を視線が揺れ動く。
 静寂が痛い、と思った頃に、無視をしているのかとすら思ったシルが、億劫そうにフードを取った。
 悠斗が想像した通り、その視線は彼が知っているものより数段冷たい。真っ直ぐにグレンを見据える表情は無表情なのに悠斗は恐れすら感じた。美人が怖い。グレンも同じなのか、息を呑む音が聞こえる。
 それでも、すぐに我に返ったグレンは口を開く。

「――シルヴェストル・リシャール侯爵令息で間違いないか」



 ――――ん???????
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