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13.スタンピードと魔の森
しおりを挟むこの国――悠斗は忘れているがケレステネーレ王国――の最北端、他国との境界として存在しているレーネ峡谷にある、大陸でも最上位に位置すると言われている大規模ダンジョン、タルストリダンジョン。
未だに踏破したものはおらず、最下層が何階になるのかは分かっていない。
「ダンジョン」
「――多分、想像したのであってる」
ぽつり、と零した悠斗の言葉を拾ってシルが頷いた。なるほど? と首を傾げつつ悠斗も頷く。
――ダンジョンがあるとか初めて聞いたな? 森人してるから仕方ないけど!
冒険者ギルドの実在からこちら、知らなかった情報が波状攻撃で悠斗を襲って来るので、頭の中は整理が追い付かずにしっちゃかめっちゃかになっていた。
訳あり美人のシルは貴族。
この世界にはダンジョンがある。
ダンジョンが――スタンピード間近。
魔物の爆発的増加からの暴虐、街の壊滅という話を小説の中で知っている。
この異世界は悠斗の思う異世界テンプレで溢れている。
そして、悠斗の思う出来事がグレンの言ったスタンピードが当て嵌まるかを知らないが、言語チートで困ったことは一度もない。
「えっ、もしかしてヤバい話してる?」
「うん」
全然ヤバそうでない無感情な同意が返って来た。
グレンに視線を向ける。真剣な表情が見える。
とてもではないが冗談でしたなんて言う雰囲気ではないし、それにシルが必要だという話も、悠斗が知らないだけで真実なのだろうと思わせるだけの緊迫感があった。
「僕がいなくても問題ないのでは」
「今回のスタンピードは過去最大規模と神託が降りてんだよ。最大の戦力で臨め、さもなくば……ってな」
さもなくば。
――えっ、怖い。
グレンが自嘲気味に笑って濁したその言葉の先に続く言葉は、決して良いものではないだろう。
ぞくりと悠斗の身体が震えた。
「……悠斗」
「えっ、あ、はい」
「どうおも、
「あっ、俺にそれ聞かないでください! 無理無理無理!!」
グレンを家に入れるかどうか問い掛けて来た時と似た気配を感じたら、案の定悠斗に向かって問い掛けようとして来たシルに、食い気味に止める。
異世界に来たけれど勇者でも神子でもなく、魔法チートもなく、一般大学生で技術チートも出来ず、ただシルのヒモとして森で引きこもっていた悠斗に、世界の危機を委ねないで欲しい。
ぶんぶんと首も両手も振ってシルの言葉を遮った悠斗に、シルはぱちぱちと驚いたように白銀の睫毛を震わせて瞬きをした。
――そもそも、なんで俺に聞くのか十回くらい問いただしたい。
「あのね、悠斗」
「はい」
「タルストリダンジョンは、遠い」
「……うん」
「この結界内は、大丈夫だとは思うけど、森の中に悠斗を残したくはない」
「なるほど」
「――――一緒に来る?」
(あー……そういう。そういう? 一人にするのは心配的な? もっともですね!)
魔獣がいるらしい森でシルの庇護なしに悠斗が平和に過ごすことは難しい、と。否定するつもりは欠片もなかった。サバイバル能力ゼロの現代日本人を舐めないでいただきたい。
うんうん、と納得しているところに、グレンがもう一つ爆弾を落として来た。
「ていうか、この令息はいいとして、そこのお前はなんで魔の森にいんの?」
――――は?
まのもり、とは。
グレンの発した聞き慣れない言葉に思考が停止する。もう悠斗の頭は処理能力を大きく超えていて、いっぱいいっぱいだ。
「まの、もり」
まさか、「魔」の森とか言わないよな?
縋るようにシルに視線を向ける。ほんの微かに、視線が揺れたのをこの1か月間で学んだシルの感情把握で察知した。
これは、もしかしなくても。
――――知ってて、言ってない!!
悠斗が知るはずもないことを知っていて、シルは言っていない。それは確信だった。
なんで? どうして? 疑問を浮かべる悠斗の瞳が雄弁に語っているにもかかわらず、寡黙を極めているシルは何も言わない。
ただ、薄紫の綺麗な瞳をほんの少し揺らして、すっ、と目を逸らす。
「――まさか、知らないのか?」
何か言ってくれないかと待っていたものの返答はなく、代わりに言葉を発したのはグレンだった。視界の端で、いかつい男の茶色い瞳がまん丸に丸まるのを見てしまった。
この国に住んでいるのに知らないのかと、驚愕に満ちた表情を見れば考えるまでもない。それほどに常識らしい。
まあ、悠斗はこの国どころかこの世界の人間ではないし森から出たこともないから、教えられない限りは知る由もない常識だけど。
(結界の外に出るな、ってのは何度も言われたなあ……)
名前から想像するに、相当危ないんだろう。
どうりでシルの出す肉が魔獣ばかりだったわけだ。魔の森だから、魔獣しかいないのかもしれない。
「シル、あの」
「――落ち着いたら話す、から」
落ち着いたら、はこのスタンピードにかかるのか、それとも違う何かにかかるのか。シルがどうしてわざわざ隠匿していたのか想像もつかず、悠斗はもやもやとしたものを抱えながらも口をつぐむしかない。
「一緒に、来てもらえるかな。僕が必ず守るから」
真剣な薄紫の瞳に、悠斗が出来ることはと言えば、疑問を吞み込んで頷くことだけだ。
むしろ魔の森と判明したこの場所に置いて行かれても困る。
「あーーーーなんかアレなところ悪いが、来てくれるってことでいいか?」
あ、無視していてすみません。
頭をぼりぼりと書きながら口を突っ込んで来たグレンに、初めて申し訳ない気持ちを抱いた。
個人的な感情と国の危機、優先すべきものはどちらかなんて、平和ボケした悠斗にも分かる。
「――条件がある」
「あ?」
「詮索をするな。それからリシャール侯爵家、そして王家に連なる人間には関わりたくない」
あ、やっぱりすごいワケアリですね。わかります。
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