異世界で森の隠者のヒモになります。

I

文字の大きさ
13 / 21

13.スタンピードと魔の森

しおりを挟む

 この国――悠斗は忘れているがケレステネーレ王国――の最北端、他国との境界として存在しているレーネ峡谷にある、大陸でも最上位に位置すると言われている大規模ダンジョン、タルストリダンジョン。
 未だに踏破したものはおらず、最下層が何階になるのかは分かっていない。

「ダンジョン」
「――多分、想像したのであってる」

 ぽつり、と零した悠斗の言葉を拾ってシルが頷いた。なるほど? と首を傾げつつ悠斗も頷く。

 ――ダンジョンがあるとか初めて聞いたな? 森人してるから仕方ないけど!

 冒険者ギルドの実在からこちら、知らなかった情報が波状攻撃で悠斗を襲って来るので、頭の中は整理が追い付かずにしっちゃかめっちゃかになっていた。

 訳あり美人のシルは貴族。
 この世界にはダンジョンがある。

 ダンジョンが――スタンピード間近。

 魔物の爆発的増加からの暴虐、街の壊滅という話を小説の中で知っている。
 この異世界は悠斗の思う異世界テンプレで溢れている。
 そして、悠斗の思う出来事がグレンの言ったスタンピードが当て嵌まるかを知らないが、言語チートで困ったことは一度もない。

「えっ、もしかしてヤバい話してる?」
「うん」

 全然ヤバそうでない無感情な同意が返って来た。
 グレンに視線を向ける。真剣な表情が見える。
 とてもではないが冗談でしたなんて言う雰囲気ではないし、それにシルが必要だという話も、悠斗が知らないだけで真実なのだろうと思わせるだけの緊迫感があった。

「僕がいなくても問題ないのでは」
「今回のスタンピードは過去最大規模と神託が降りてんだよ。最大の戦力で臨め、さもなくば……ってな」

 さもなくば。

 ――えっ、怖い。

 グレンが自嘲気味に笑って濁したその言葉の先に続く言葉は、決して良いものではないだろう。
 ぞくりと悠斗の身体が震えた。

「……悠斗」
「えっ、あ、はい」
「どうおも、
「あっ、俺にそれ聞かないでください! 無理無理無理!!」

 グレンを家に入れるかどうか問い掛けて来た時と似た気配を感じたら、案の定悠斗に向かって問い掛けようとして来たシルに、食い気味に止める。

 異世界に来たけれど勇者でも神子でもなく、魔法チートもなく、一般大学生で技術チートも出来ず、ただシルのヒモとして森で引きこもっていた悠斗に、世界の危機を委ねないで欲しい。
 ぶんぶんと首も両手も振ってシルの言葉を遮った悠斗に、シルはぱちぱちと驚いたように白銀の睫毛を震わせて瞬きをした。

 ――そもそも、なんで俺に聞くのか十回くらい問いただしたい。

「あのね、悠斗」
「はい」
「タルストリダンジョンは、遠い」
「……うん」
「この結界内は、大丈夫だとは思うけど、森の中に悠斗を残したくはない」
「なるほど」
「――――一緒に来る?」

(あー……そういう。そういう? 一人にするのは心配的な? もっともですね!)

 魔獣がいるらしい森でシルの庇護なしに悠斗が平和に過ごすことは難しい、と。否定するつもりは欠片もなかった。サバイバル能力ゼロの現代日本人を舐めないでいただきたい。

 うんうん、と納得しているところに、グレンがもう一つ爆弾を落として来た。

「ていうか、この令息はいいとして、そこのお前はなんで魔の森にいんの?」



 ――――は?



 まのもり、とは。
 グレンの発した聞き慣れない言葉に思考が停止する。もう悠斗の頭は処理能力を大きく超えていて、いっぱいいっぱいだ。

「まの、もり」

 まさか、「魔」の森とか言わないよな?
 縋るようにシルに視線を向ける。ほんの微かに、視線が揺れたのをこの1か月間で学んだシルの感情把握で察知した。

 これは、もしかしなくても。

 ――――知ってて、言ってない!!

 悠斗が知るはずもないことを知っていて、シルは言っていない。それは確信だった。
 なんで? どうして? 疑問を浮かべる悠斗の瞳が雄弁に語っているにもかかわらず、寡黙を極めているシルは何も言わない。
 ただ、薄紫の綺麗な瞳をほんの少し揺らして、すっ、と目を逸らす。

「――まさか、知らないのか?」

 何か言ってくれないかと待っていたものの返答はなく、代わりに言葉を発したのはグレンだった。視界の端で、いかつい男の茶色い瞳がまん丸に丸まるのを見てしまった。
 この国に住んでいるのに知らないのかと、驚愕に満ちた表情を見れば考えるまでもない。それほどに常識らしい。
 まあ、悠斗はこの国どころかこの世界の人間ではないし森から出たこともないから、教えられない限りは知る由もない常識だけど。

(結界の外に出るな、ってのは何度も言われたなあ……)

 名前から想像するに、相当危ないんだろう。
 どうりでシルの出す肉が魔獣ばかりだったわけだ。魔の森だから、魔獣しかいないのかもしれない。

「シル、あの」
「――落ち着いたら話す、から」

 落ち着いたら、はこのスタンピードにかかるのか、それとも違う何かにかかるのか。シルがどうしてわざわざ隠匿していたのか想像もつかず、悠斗はもやもやとしたものを抱えながらも口をつぐむしかない。

「一緒に、来てもらえるかな。僕が必ず守るから」

 真剣な薄紫の瞳に、悠斗が出来ることはと言えば、疑問を吞み込んで頷くことだけだ。
 むしろ魔の森と判明したこの場所に置いて行かれても困る。

「あーーーーなんかアレなところ悪いが、来てくれるってことでいいか?」

 あ、無視していてすみません。
 頭をぼりぼりと書きながら口を突っ込んで来たグレンに、初めて申し訳ない気持ちを抱いた。
 個人的な感情と国の危機、優先すべきものはどちらかなんて、平和ボケした悠斗にも分かる。

「――条件がある」
「あ?」
「詮索をするな。それからリシャール侯爵家、そして王家に連なる人間には関わりたくない」



 あ、やっぱりすごいワケアリですね。わかります。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話 騎士団長とのじれったい不器用BL

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて… ほのほのです。 ※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

処理中です...