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17.タルストリダンジョン
しおりを挟む街を見て回ったり、宿にやって来たグレンとシルが何か話していたり、ギルドの中にある図書室で読書をしたり。
貴族街の方にある国営図書館にちょっと興味を引かれつつ、行くのは藪蛇な気がして口に出すのも憚られたり。
ダンジョンに向かうまでの短い日数は、あっという間に過ぎた。終わった後にまた見られないだろうかと悠斗が思う程度には、王都は広く、異世界情緒漂う街並みは興味を惹いた。
――そして、タルストリダンジョンに向かう当日。
「でっかいヨーロッパの教会の中にパルテノン神殿がある……」
大聖堂と呼ばれそうな大きさのそれは、見上げたらさぞかし圧倒されるだろう。普段は閉まっているというその神殿の中に、パルテノン神殿を彷彿とさせる柱が幾本も立ち並び、真ん中に何か模様が書いてある。
シル曰く、お参りするようなところではなく、こういった何か特別なことがある時にだけ開かれる場所らしい。
――のを、少し離れた場所から見ていた。
悠斗とシルは神殿を見下ろす丘の上にいた。
何故見えるのかといえば、なんでもありのシルが望遠鏡みたいな魔法を展開して中を見せてくれたからだ。モニターのような何かが二人の前にあって、そこに映っている。おそらく、こんな簡単に見て良いものではない。
結界とかそういうのがあるんじゃないの? という問い掛けに答えはなかったので、悠斗はそれ以上追及することをやめた。
森にいる頃から規格外の魔法使いなことは十二分に理解していた。あの家を見れば一目瞭然である。
グレンが現れたことで更なる確信を得て、街に来て森生活時代よりは知識を得た結果、規格外というか、おそらく国一番とか大陸一番とかそういう枕詞がつくだろうという結論に落ち着いた。
普通の魔法使いは転移魔法をポンポン使わない。また、無詠唱魔法も存在はするがかなりの高等技術だった。空間拡張魔法に至っては神話扱いを受けている。
異世界で得た常識がひとつも常識ではなかったことに、悠斗は遠い目になった。
「あそこには大規模転移陣がある」
「だいきぼてんいじん」
「うん、大規模転移陣。大勢を運ぶ転移魔法を魔法陣として刻んである。使うのは戦争とか、こういう大規模討伐とか」
「せ、んそう」
「……ここ30年くらいは、これを使うような戦争は起こってないよ」
「う、うん」
言語として発していないだろう悠斗の単語をシルが頷いてもう一度言い直す。
追加で教えてくれたことに、悠斗は尻込みした。戦争なんて言葉、教科書やテレビの中でしか見たことがない。それのためにある、と聞かされると途端に怖くなる。
「……怖がらせたね」
「あ、うん。ごめん……そういうの、想像つかなくて」
「大丈夫。――多分、怖いのが普通」
背中をあやすようにさすられて、ぴっと背筋が伸びる。王都に来て追加されたスキンシップはなんなんだろう。これの理由もまだシルに聞いていない。
心臓にはよくないが、シルがどんどん人外から人間らしくなっていると思えば良いことだと感じた。森で出会ってしばらく、シルは無表情で言葉も少なく、何処かふわふわと掴みどころがない人間だった。今と比較すると人外度が高すぎた。
「で、俺たちは……」
「僕が転移魔法で飛ぶ」
「ですよねー」
ぞろぞろと人が集まっていく神殿を見れば、シルが行くわけもないと納得出来た。そこに知り合いがいる可能性だってあるのだ。もしかしたら、家族とか、王族とか。
少し熱を持っている気がする左耳をつい指で弄ぶ。
そこには、シルにつけられたピアスがついていた。シルの瞳に良く似た薄紫色の魔石のついたシンプルなピアスだった。差し出されたそれにピアス穴が開いていないと伝えたら、目にも止まらぬ速さで開けられた。同意は求められず、一瞬の痛みの後にふんわりと温かな空気が左耳を包み込んだ。風魔法で穴を開け、鎮静の魔法をかけて痛みを抑えているらしい。
そこから更なるシルのお渡し会が始まって、悠斗は口元を引き攣らせた。
左小指と中指には指輪、両手首には腕輪がはめられている。貢がれた訳ではない――と、思いたい。それと同時に、値段は考えたくない。
どれも魔法が篭められているらしいのだ。
規格外魔法使いシルお手製の防御魔法に反射魔法、森への転移魔法、通話魔法にその他もろもろ。
過剰防衛にもほどがある。
「俺は、なんだっけ、砦? にいたらいいんだっけか」
「うん。何かあったら、すぐに連絡して」
「……ダンジョンって外部と連絡取れるの?」
「その指輪なら大丈夫だと思う」
「そ、う、ですか」
つまりは普通は難しいと言うことだ。
大魔法使いお手製の威力よ。
シルと悠斗、グレンで話した結果、戦力にならない悠斗は連れていけないと結論がでた。さもありなん。
なんの役にも立たないどころか足手まといになるのが目に見えている以上、行くのは憚られた。しかも場所はスタンピードの前兆のある大規模ダンジョン。死にたいのかと言われてもおかしくない。
そこで問題になった俺のこと。森は危ない、ダンジョンも危ない、ではどうするのか。かなり条件をつけて押し問答をして、地上に残るグレンの右腕だとかいう副ギルドマスターと行動をともにすることで一応は決着した。
その際にシルの面接があったことはさすがに過保護すぎるとは思ったものの、もはや何も言うまいと心の耳を塞いだ。
「じゃあ、行こうか」
そう言って差し出された手に、悠斗は手を乗せる。一瞬の違和感のあと、景色が一変した。相変わらずの早業。それなりの距離があるはずなのに、詠唱のひとつもない。
きょろきょろと悠斗は辺りを見回す。北にあるとは聞いていたが、想像以上に荒涼とした土地だった。悠斗の第一印象としては、寒々しく、寂しい場所だ。
木々の緑はほぼなく、草の生えていない土地が遠くまで広がっている。暗く感じるのは、王都にいた時には確かに照らしていた太陽が雲に覆われて見えないせいかもしれない。
「悠斗。あれが、タルストリダンジョン」
その中にポツンと、建物がある。
異世界のダンジョンというと地下に潜るものという先入観を持っていた悠斗は、呆然とその大きさを見上げた。
「……このダンジョン、上に向かうの?」
「そうだよ。普通は地下に潜る。塔として顕現しているのは、確認されている限りこのタルストリだけ」
天に向かって聳え立つ巨大な塔のような形状をした建物がタルストリダンジョンだった。
高すぎて最上階は目に見えず、バベルの塔を彷彿とさせる。人間の驕りに怒った神が破壊したとされる塔だ。神が実在するこの世界にそれがあるというのが薄ら寒い。
「――――シル、気をつけてね。危なくなったら帰って来て」
まだ踏破されたことのない大規模ダンジョンのスタンピード。それを抑えるためにどれほどの時間かかかるか分からないというのが、冒険者ギルドと魔法魔術研究所(王都にあるエリート組織らしい)の見解だった。
いくらシルが規格外の魔法使いであろうとも、心配にはかわりない。それに、ずっとシルに依存した生活を送って来たのだ。口には出さないものの、心細さもかなりあった。
「……ありがとう」
ふっと口元が柔らかく弧を描く。
心から嬉しそうに笑ったシルは、息を呑むほどに綺麗だった。
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