ボーイ・イン・ザ・ミラー

園村マリノ

文字の大きさ
4 / 45
第一章 

03 電話

しおりを挟む
 ケイとアイリは、昼食後に二時間程ウィンドウショッピングをすると、休憩がてらカフェに入った。その後は他にこれといった用事も思い付かなかったため、時間は早いが帰宅する事にした。
 JR宿川駅ホーム。

「ケイちゃん、今日は付き合ってくれて有難う! ランチとコーヒーごちそうさま!」アイリはそう言いながら小さく頭を下げた。

「こちらこそお礼を言わなきゃね」ケイは最愛の妹に向き直った。「アイリは、わたしが母さんと喧嘩したのを心配して、元気付けるために誘ってくれたんでしょ」

「え? あ、うん、まあ……それもあるかな」アイリは照れ臭そうに笑いかけた。

「それに今日は迷惑も掛けたわ」

「木宮さんの件? ううん、全然そんな事ないよ! さっきも言ったけど、わたしは幻覚じゃないと思う。木宮さんの魂が、ケイちゃんに何か伝えたくて幽霊となって現れたんだよ。怖がる事も、病院に行く事もないはずだよ」

「その根拠は?」

「根拠? ない!」アイリは元気良く言い切った。「あくまでも勘だけど。でも、ケイちゃんといい感じだった木宮さんならあり得るでしょ」

「だから、そんなんじゃなかったってば。あくまでも友達よ」

 女性のアナウンスが、緋山家方面へ向かう電車がまもなく到着する旨を告げた。

「ケイちゃん、また今度一緒に出掛けようね。あ、今度はケイちゃんから誘ってくれてもいいんだからね? ほら、わたし今フリーだから暇だし」

「友達と出掛ける事くらいはあるでしょ」

「ケイちゃん最優先だよ!」

 一番線に、銀色を基調とし所々に緑色の線が引かれた電車が到着した。ほぼ同時に、ケイが乗る電車のまもなくの到着を告げるアナウンスも流れる。

「じゃあねケイちゃん、またね!」

「じゃあね。気を付けて帰るのよ」

 アイリを乗せ走り出した電車をある程度まで見送ると、ケイも真後ろの電車に乗り込んだ。



 愛陽あいよう美守みもり
 これといった特徴のないごく普通の小さな町の、同じくごく普通の二階建てアパートの一室で、ケイは三年間一人暮らしをしている。
 始めのうちは、暗闇やラップ音への恐怖や不安、そして何よりも一人きりであるという事実に対する心細さもあったが、次第に慣れていった。 
 しかし今、七年前に死んだ友人の幽霊を目撃した事がきっかけで、再びそれらのネガティブな感情が姿を現そうとしていた。三月に最悪の出来事が相次いだ時には何ら問題なかったというのに。

 ──アイリは怖がる必要はないと言っていたし、確かにその通りだとは思うけど……。

 クッションに腰を下ろしたまま、ローテーブルの上の手鏡を恐る恐る見やる。
 そこに映るのは、何とも言えない表情をした自分を中心に、背後の棚と壁の一部分。
 フローリングの上でスマホが震えた。長さからして着信らしい。

 ──あの世から。

 一瞬そんな考えが頭をよぎったが、ディスプレイに表示されたのはこの世の生者の名前だった。

「緋山か?」

 自分を呼ぶ男性の声を耳にしたのは、高校の卒業式以来だ。

三塚みつか君?」

「ああ。久し振りだな。元気だったか」

 三塚なぎ。木宮光雅と同じくケイの高校時代の同級生で、三年間同じクラスだった。特別仲が良かったわけではないが、度々会話をしたし、連絡先も交換していた。

「ええ、まあ。そっちは?」

「去年鼻風邪引いた以外は問題なし」

「なら良かったけど、どうしたの急に」

「あー……その……近いうちに会えないかな、と。ちょっと相談したい事があるんだ」凪は遠慮がちに答えた。

「いいけど、どうしてわたしに?」

 ケイは率直に疑問を口にした。社交的で常に多くの人間に囲まれていた凪なら、他に頼れる友人は多くいるだろう。

「いや、その……それも会った時に話す」

「まさか、宗教の勧誘とか借金の保証人を頼みたいとか──」

「全然違うからその点に関しては安心してくれ、マジで」

 ケイと凪は、次の土曜日に会う約束をした。凪は浜波市内の商業中心地・西にし区にある書店兼カフェ〈クローバー〉の正社員で、本来ならば土曜日も出勤なのだが、久し振りに有給休暇を取ったのだという。
 通話後、ケイは壁掛けカレンダーの二六日の欄に〝浜波駅西口 11時〟とマジックペンで書き込んだ。

 ──それにしても何の相談だろう。

 ケイ相手じゃなきゃいけない理由。ヒントのようでいてその実、最大の謎になってしまっている。

 ──悪い話ではないと信じたいけど。

 内容に間違いがない事を確認し、マジックペンを元あった場所にしまうと同時に、スケジュール帳の方にも書いておこうと思い立った。四月から一切使用しておらず──捨てようかとも考えていた程だ──今日のアイリとの待ち合わせ時間だってカレンダーにしか書き込まなかったというのに。
 凪との約束を楽しみにしている自分に気付いたケイは、誰に指摘されたわけでもないのに急に気恥ずかしさを覚えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...