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第五部
こころのおく
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⚠︎閲覧自己責任・性的描写あり
ノルンは、全治一ヶ月と主治医に診断された。腹部を刃物で刺した事により、その事を聞きつけたゆきは仕事からすっ飛んで帰って来る。使用人頭のちとせさんは、泣いてノルンを心配していた。
私は、お見舞いに行きたかった。だけど、あの映像を見た私がノルンに会いに行ったら、逆効果だと思ったのだ。今でも、あの時の顔を歪ませたノルンの表情が忘れられなかった。
ノルンの部屋の前でしどろもどろしていると、ちとせさんが私の存在に気付く。ちとせさんは、にっこりと微笑んだ。
「マリア様」
「あ、ちとせさん。ノルンの体調は大丈夫そうですか?」
「ええ。安静にしていれば、問題ないとの事です」
「……良かった」
ほっと安堵する私にちとせさんは、私に「ーーマリア様もノルン様とお話したらどうですか?」と言って、手を握られて、部屋に入るように促される。私はちとせさんの善意に狼狽えた。そうこうしている内に私は、ノルンの部屋へと入室していたのだ。
♡
「ーーあれ? マリア」
ノルンのベッドの横でゆきが椅子に腰掛けてフルーツナイフで林檎の皮剥きをしている。慣れた手つきで林檎の皮をするすると剥くゆきを見て、相変わらず、器用な人だなと思った。ノルンは、無表情のまま、窓の外を眺めていた顔を此方側へゆっくりと振り返る。ノルンが何を考えているのかは、読めなかった。私はいたたまれない気持ちになる。
「ノルン様。お茶をお持ちしました」
「ありがとうございます」
テーブルにお茶の準備をするちとせさんを視界に入れながら、私は立ったまま、まごついていた。ゆきに「ーーマリア。座ったら?」と促されて、椅子を持って来て、ゆきの隣に座る。ゆきは、皮剥きを終えた林檎にナイフを入れて、食べ易く切り分けると、フォークに刺してお皿に盛り付けてから、ノルンに手渡した。
「はい。かすか」
「ありがとうございます」
「僕、そろそろ、仕事に戻らないと……。また来るよ。かすか」
「はい。分かりました」
「マリアもまたね」
椅子から立ち上がったゆきは、ノルンと私に挨拶をすると、音もなく部屋から退室した。ちとせさんもお茶の準備を終わらせると、気を利かして早々に部屋から出て行く。ーーそして、この部屋の空間は、残された私とノルンの二人きりとなったのだ。
♡
「……」
「……」
私はお茶を飲みながら俯く。ノルンと目を合わせられなかった。ノルンは黙って、飲み終えたティーカップをチェストに置くと、私を一瞥する。私はたどたどしく、口を開き掛けたが、ノルンの言葉によって、かき消された。
「良くもまあ、のこのこと来れますよね。神経、図太いって、言われません?」
「そ、それは、ちとせさんが……一緒にノルンの部屋に行こう、って言うから……」
「人の所為ですか」
私の言葉は萎んでアテもなく、消える。ノルンは冷たい眼差しで吐き捨てるように言葉を私にぶつけて来た。悪意のある笑みを浮かべるノルンに、私は怖々と警戒しながら、試行錯誤して言葉を探す。
「ご、めん……。ゆきに最後まで見てって言われた、から。それで見なきゃって思って……それで……」
「……」
「ご、ごめんなさい……。本当にごめんなさい……」
「……本当に悪かったって思ってます?」
「ーーえ?」
「謝罪っていうものは、本当に相手に許して貰いたいからするものなんですよ」
「本当にそう思ってるよ? だ、だって、かすかは……」
「下の名前で呼ぶのやめてくれません?」
ノルンの声がワントーン下がった。思わず、口から出てしまったノルンの本名に、私ははっとする。だけど、続きの言葉を待っているノルンに私は言葉を続けたのだ。
「かすか、とは、友達、だから」
「ーーはあ?」
友達という言葉に、ノルンは気分を害した様子で舌打ちをする。更にノルンの機嫌は一層、悪くなった。私は、すごむノルンが怖くて、びくりと脅える。
「ご、ごめ……私とノルンの関係性が上手く、言語化、出来なくて……」
「だから、友達だと?」
「……う、うん」
「へえ……そうですか」
納得した言葉を言うが、腑に落ちていないノルンは、私の腕を掴むと思い切り自分の方へと引っ張った。体制が崩れて、視界が転がる中、はっとすると、ノルンにベッドへ押し倒されている事に気付く。ノルンは、怪しく軽薄な笑みを浮かべて私を見下ろした。
「ーーぼく、今、とてもとても、とてつもなく寂しくて、どうしようもないので、ぼくの事、慰めてくれませんか? ……マリア」
そう言うなり、ノルンは私の上に乗っかり、押さえつけたまま、チェストの引き出しを空ける。茶色の小瓶の蓋を開けて、口に含むと私に口移しでその液体を飲ませて来た。口内には、甘ったるい液体で満たされる。私が飲み込んだ事を確認すると、ノルンは瓶の残りの液体を呷るように全て飲み込んだ。そうして、私のワンピースの裾を捲る。
「あ、今日は下着を履く事を許されているんですね」
ノルンは、私の下着の左右の紐を解いた。するすると、下着の布を呆気なく、剥がされる。私はあの日の晩の事を他人事のように思い出していた。今回は、この場にゆきはいない。それだけが異なる。
「いった……!」
「痛くしてますからね。痛いのは当たり前ですよ」
慣らしもしないでノルンは、人差し指を腟内に入れて来た。私の体は先程の液体によって、体が火照って行く。どうやら、強力な即効性の催淫剤なようで、視線を下にずらすと、ノルンの下半身もズボン越しから反応している事が分かった。ノルンの吐息は微かに乱れ始める。不規則な呼吸をする、ノルンの瞳は情欲の色が滲み出ていた。
私は、もう抵抗しなかった。ノルンは私に八つ当たりしたいのだろう。それで気が晴れるのなら、ノルンの事を受け入れようと私は思った。
「ノルンは……かすかは」
「下の名前で呼ぶなと何度も何度も何度も言っているだろう。耳、ついてんですか?」
ノルンの低い冷徹な声に、私は脅えながらも、一呼吸置いてハッキリと口にする。そんな私の眼差しに、ノルンは少なからず、面を食らっている風だった。
「……ッ。かすかは。ーー変態じゃないから」
「……っ」
「ーーかすかは、純粋な優しい、普通の男の人だと思う」
「……黙れ」
「じゃあ、あの日の晩、何でずっと手を繋いでてくれたの? どうして、朝まで側にいてくれたの? それは……かすかが優し……」
「……喧しいですよ。もういい加減に、黙れ。ーーアバズレ」
私の口元を手で覆い、喋れなくするノルンは、何処かで葛藤している様子だった。ぼんやりとノルンの敬語が外れている事に気付く私。
「煽り散らかしたからには、それ相応の仕打ちが返って来る事は分かった上で発言したって解釈でいいですか?」
「……」
「覚悟してて下さいね。薬が効いている以上、朝まで寝かせるつもりありませんから」
私の口から手を離すノルンは、ただただ、笑っている。それは嘲笑に近くて。私の身体に愛撫しようと覆い被さって来るノルンの身体に手で触れた。
「ノルン……待って、やめてっ」
「この期に及んで、今度は命乞いですか?」
「ノルンの傷口が開いちゃう……から、したくない」
「……は?」
「お願い……。安静にしててよ。ノルン。……むぐっ!?」
「もういいです。黙ってて下さい。それ以上、その口からは、下らない言葉を何も出さないように……」
ノルンは、私から脱がした下着を私の口の中へと突っ込んだ。コンドームの封を口で乱雑に開けるノルンの姿を間近にしながら、泣きそうになる。強制的に喋る事を禁じられた私はノルンに女性器を弄られ、ろくに愛撫もされず、そのまま挿入された。事務的な性交渉、自分本位なノルンの繰り返しの行為に、私は朝まで付き合わされた。ーー薬が切れるまで。
お互い、ベッドの上で全裸になったが、ノルンの上半身に巻かれた包帯が痛々しくて。ノルンは、私の身体を貪りながら、その表情は何処か辛そうで、目を瞑りながら祈るように腰を動かし続けていた。私の中で果てるノルンの姿は、普通の男であり、私の脳裏には、過去の泣き出しそうな、かすかの姿が焼き付いていた。
ノルンは、全治一ヶ月と主治医に診断された。腹部を刃物で刺した事により、その事を聞きつけたゆきは仕事からすっ飛んで帰って来る。使用人頭のちとせさんは、泣いてノルンを心配していた。
私は、お見舞いに行きたかった。だけど、あの映像を見た私がノルンに会いに行ったら、逆効果だと思ったのだ。今でも、あの時の顔を歪ませたノルンの表情が忘れられなかった。
ノルンの部屋の前でしどろもどろしていると、ちとせさんが私の存在に気付く。ちとせさんは、にっこりと微笑んだ。
「マリア様」
「あ、ちとせさん。ノルンの体調は大丈夫そうですか?」
「ええ。安静にしていれば、問題ないとの事です」
「……良かった」
ほっと安堵する私にちとせさんは、私に「ーーマリア様もノルン様とお話したらどうですか?」と言って、手を握られて、部屋に入るように促される。私はちとせさんの善意に狼狽えた。そうこうしている内に私は、ノルンの部屋へと入室していたのだ。
♡
「ーーあれ? マリア」
ノルンのベッドの横でゆきが椅子に腰掛けてフルーツナイフで林檎の皮剥きをしている。慣れた手つきで林檎の皮をするすると剥くゆきを見て、相変わらず、器用な人だなと思った。ノルンは、無表情のまま、窓の外を眺めていた顔を此方側へゆっくりと振り返る。ノルンが何を考えているのかは、読めなかった。私はいたたまれない気持ちになる。
「ノルン様。お茶をお持ちしました」
「ありがとうございます」
テーブルにお茶の準備をするちとせさんを視界に入れながら、私は立ったまま、まごついていた。ゆきに「ーーマリア。座ったら?」と促されて、椅子を持って来て、ゆきの隣に座る。ゆきは、皮剥きを終えた林檎にナイフを入れて、食べ易く切り分けると、フォークに刺してお皿に盛り付けてから、ノルンに手渡した。
「はい。かすか」
「ありがとうございます」
「僕、そろそろ、仕事に戻らないと……。また来るよ。かすか」
「はい。分かりました」
「マリアもまたね」
椅子から立ち上がったゆきは、ノルンと私に挨拶をすると、音もなく部屋から退室した。ちとせさんもお茶の準備を終わらせると、気を利かして早々に部屋から出て行く。ーーそして、この部屋の空間は、残された私とノルンの二人きりとなったのだ。
♡
「……」
「……」
私はお茶を飲みながら俯く。ノルンと目を合わせられなかった。ノルンは黙って、飲み終えたティーカップをチェストに置くと、私を一瞥する。私はたどたどしく、口を開き掛けたが、ノルンの言葉によって、かき消された。
「良くもまあ、のこのこと来れますよね。神経、図太いって、言われません?」
「そ、それは、ちとせさんが……一緒にノルンの部屋に行こう、って言うから……」
「人の所為ですか」
私の言葉は萎んでアテもなく、消える。ノルンは冷たい眼差しで吐き捨てるように言葉を私にぶつけて来た。悪意のある笑みを浮かべるノルンに、私は怖々と警戒しながら、試行錯誤して言葉を探す。
「ご、めん……。ゆきに最後まで見てって言われた、から。それで見なきゃって思って……それで……」
「……」
「ご、ごめんなさい……。本当にごめんなさい……」
「……本当に悪かったって思ってます?」
「ーーえ?」
「謝罪っていうものは、本当に相手に許して貰いたいからするものなんですよ」
「本当にそう思ってるよ? だ、だって、かすかは……」
「下の名前で呼ぶのやめてくれません?」
ノルンの声がワントーン下がった。思わず、口から出てしまったノルンの本名に、私ははっとする。だけど、続きの言葉を待っているノルンに私は言葉を続けたのだ。
「かすか、とは、友達、だから」
「ーーはあ?」
友達という言葉に、ノルンは気分を害した様子で舌打ちをする。更にノルンの機嫌は一層、悪くなった。私は、すごむノルンが怖くて、びくりと脅える。
「ご、ごめ……私とノルンの関係性が上手く、言語化、出来なくて……」
「だから、友達だと?」
「……う、うん」
「へえ……そうですか」
納得した言葉を言うが、腑に落ちていないノルンは、私の腕を掴むと思い切り自分の方へと引っ張った。体制が崩れて、視界が転がる中、はっとすると、ノルンにベッドへ押し倒されている事に気付く。ノルンは、怪しく軽薄な笑みを浮かべて私を見下ろした。
「ーーぼく、今、とてもとても、とてつもなく寂しくて、どうしようもないので、ぼくの事、慰めてくれませんか? ……マリア」
そう言うなり、ノルンは私の上に乗っかり、押さえつけたまま、チェストの引き出しを空ける。茶色の小瓶の蓋を開けて、口に含むと私に口移しでその液体を飲ませて来た。口内には、甘ったるい液体で満たされる。私が飲み込んだ事を確認すると、ノルンは瓶の残りの液体を呷るように全て飲み込んだ。そうして、私のワンピースの裾を捲る。
「あ、今日は下着を履く事を許されているんですね」
ノルンは、私の下着の左右の紐を解いた。するすると、下着の布を呆気なく、剥がされる。私はあの日の晩の事を他人事のように思い出していた。今回は、この場にゆきはいない。それだけが異なる。
「いった……!」
「痛くしてますからね。痛いのは当たり前ですよ」
慣らしもしないでノルンは、人差し指を腟内に入れて来た。私の体は先程の液体によって、体が火照って行く。どうやら、強力な即効性の催淫剤なようで、視線を下にずらすと、ノルンの下半身もズボン越しから反応している事が分かった。ノルンの吐息は微かに乱れ始める。不規則な呼吸をする、ノルンの瞳は情欲の色が滲み出ていた。
私は、もう抵抗しなかった。ノルンは私に八つ当たりしたいのだろう。それで気が晴れるのなら、ノルンの事を受け入れようと私は思った。
「ノルンは……かすかは」
「下の名前で呼ぶなと何度も何度も何度も言っているだろう。耳、ついてんですか?」
ノルンの低い冷徹な声に、私は脅えながらも、一呼吸置いてハッキリと口にする。そんな私の眼差しに、ノルンは少なからず、面を食らっている風だった。
「……ッ。かすかは。ーー変態じゃないから」
「……っ」
「ーーかすかは、純粋な優しい、普通の男の人だと思う」
「……黙れ」
「じゃあ、あの日の晩、何でずっと手を繋いでてくれたの? どうして、朝まで側にいてくれたの? それは……かすかが優し……」
「……喧しいですよ。もういい加減に、黙れ。ーーアバズレ」
私の口元を手で覆い、喋れなくするノルンは、何処かで葛藤している様子だった。ぼんやりとノルンの敬語が外れている事に気付く私。
「煽り散らかしたからには、それ相応の仕打ちが返って来る事は分かった上で発言したって解釈でいいですか?」
「……」
「覚悟してて下さいね。薬が効いている以上、朝まで寝かせるつもりありませんから」
私の口から手を離すノルンは、ただただ、笑っている。それは嘲笑に近くて。私の身体に愛撫しようと覆い被さって来るノルンの身体に手で触れた。
「ノルン……待って、やめてっ」
「この期に及んで、今度は命乞いですか?」
「ノルンの傷口が開いちゃう……から、したくない」
「……は?」
「お願い……。安静にしててよ。ノルン。……むぐっ!?」
「もういいです。黙ってて下さい。それ以上、その口からは、下らない言葉を何も出さないように……」
ノルンは、私から脱がした下着を私の口の中へと突っ込んだ。コンドームの封を口で乱雑に開けるノルンの姿を間近にしながら、泣きそうになる。強制的に喋る事を禁じられた私はノルンに女性器を弄られ、ろくに愛撫もされず、そのまま挿入された。事務的な性交渉、自分本位なノルンの繰り返しの行為に、私は朝まで付き合わされた。ーー薬が切れるまで。
お互い、ベッドの上で全裸になったが、ノルンの上半身に巻かれた包帯が痛々しくて。ノルンは、私の身体を貪りながら、その表情は何処か辛そうで、目を瞑りながら祈るように腰を動かし続けていた。私の中で果てるノルンの姿は、普通の男であり、私の脳裏には、過去の泣き出しそうな、かすかの姿が焼き付いていた。
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