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第九十一話 緊急事態

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「みんな、緊急事態発生だ。・・・・・・ワイバーンとロック鳥の在庫が少なくなってきた」

 ゴブリンロードの討伐、というミッションを終えたカズキは、ランスリードの王都の郊外にある、魔法学院に戻ってきた。
 パーティメンバーと合流し、いつものように【次元ハウス+ニャン】で食事をとっていると、カズキが深刻な顔で『緊急事態』という言葉を口にする。  
 失われた古代魔法を自在に操り、その規格外の力で邪神や悪魔を葬ってきたカズキが口にした、『緊急事態』という言葉。それを聞いたパーティメンバーの間に緊張が走るが、続く言葉を聞いて脱力する。

「真剣な顔して何を言うのかと思ったら・・・・・・。カズキの手に負えない敵が現れたのかと思っちゃったよ」

 ラクトがそう言って、を頬張る。

「同感です。悪魔以上の敵って何だろう? と真剣に考え始めていました。・・・・・・ん、おいし♪」

 マイネがラクトの言葉に同意して、を口に放り込んだ。
 他の面々も似たような反応を示す中、カズキの言葉の意味を正確に理解しているのは、急に食べるペースが上がった、フローネとクレアの二人。なくなる前に少しでも多く食べようと考えたのか、大皿に盛られた唐揚げが、みるみる内に減っていく。

「・・・・・・気付いていないようだから言っておくが、今みんなが口にしているのが、ワイバーンとロック鳥だからな?」

 大皿の唐揚げが、フローネとクレアの活躍によって空になったのを待って、カズキがぽつりと口にする。

「「「「・・・・・・ハッ!?」」」」

 カズキに指摘されて、初めてその事に思い至る一同。カズキがいる時は当たり前のように食卓に上るので、感覚がマヒしていたらしい。
 慌てて食卓にあった唐揚げの大皿を見るが、それは全てフローネとクレアの腹に収まっている為、当然ながらそこには何もない。
 ならばワイバーンのステーキだ、と思って自分の目の前にある皿を見るが、そこには何もなかった。自分で食べたのだから当然だが。

「・・・・・・確かにこれは緊急事態だ。今日は王城で訓練の予定だったが、それどころではないな」

 エストがそう言うと、コエン・ザイムもそれに同意する。

「そうだな。今までワイバーンやロック鳥を当然のように食べていたが、それがカズキの好意からのものであった事を、私達は忘れていたようだ」
「そうだね。じゃあ、早速ギルドに行こうか。ワイバーンやロック鳥の依頼が出てるかもしれないし」  
「はい。例え依頼がなくても、情報はあるかもしれません。学院内のギルドだけではなく、王都にある全てのギルドに顔を出しましょう」

 コエンに続き、ラクトとマイネも同意する。皆、ワイバーンとロック鳥のない生活は考えたくもないらしい。最早、中毒と言ってもいいレベルだ。

「いいえ! それだけでは足りません!」

 それまで話に入らなかったフローネが、突然大声を上げる。
 何事かと注目が集まる中、フローネが高々と掲げたのは、一冊の本だった。

「・・・・・・食用になる魔物一覧?」

 それまで口を挟む隙が無かったカズキが、書物の名前を読み上げた。著者を見ると、初代勇者となっている。
 邪神との戦いの影響で世界中で食物が不足した時、邪神を倒せなかった罪悪感から、能力(死に戻り)を使って食べられる魔物を探し、書物にまとめた物だ。但し、初代が倒せなかった魔物は載っていない(例・ロック鳥)。
 フローネが手にしているのは、自らの手で注釈(自分が食べて美味しかったもの)を加えた物だった。

「私は常々思っていました。ワイバーンやロック鳥、そして、この書物に載っているもの以外にも、美味しい魔物がいる筈だと! 私はそれを食べたいんです! ですから、初代勇者が倒せなかった、ランクの高い魔物の情報も集めましょう!」
「ミャー!」

 食への飽くなき執念がフローネを突き動かす。カズキが確保していた唐揚げを貰ったクレアも、それに唱和した。

「成程。ワイバーンやロック鳥の確保も狙いつつ、新しい食材の開拓もするという事か。それは良い考えだな」

 カズキがフローネの意見を支持する。尤も、カズキはそこまで食に拘りはない。ただ、猫達が喜ぶ様を見たいだけである。

「じゃあ、Aランク以上の魔物の情報を集めるという事で。後は、食べて美味しい魔物の情報も。効率を考えてパーティは分割したいけど・・・・・・。倒した魔物の運搬を考えると無理かな?」

 魔物が小型なら問題ないが、それが群れていたり、魔物が大型の場合は、カズキがいないと運ぶのも難しくなる。
 そう考えたラクトは、パーティの分割を諦めるしかない、という結論に至った。

「魔物の運搬か・・・・・・。なら、アレが使えるな」

 だが、『大賢者』という称号を持つカズキは一味違う。常人には不可能な事でも、その強大な魔力を使って、強引に解決する事が可能なのだ。

「「「「「・・・・・・アレって何のこと(だ・ですか)?」」」」」

 カズキの口元に浮かんだ笑みを見て、パーティメンバーから一斉に疑問の声が上がる。
 毎度の事だが、何か突拍子も無い事をやらかしそうな予感がしたからだ。

「最近覚えた魔法があってな。まあ、説明するよりも見た方が早い。ここでは出来ないから、外に出よう」

 そう言って、ナンシーを抱いたカズキが【次元ハウス+ニャン】を後にする。

「今度は何をする気だろう・・・・・・?」

 カズキを追って外に出るメンバーの最後尾で、ラクトがポツリと呟く。
 カズキに会って以来、散々振り回されてきたラクトの言葉には、諦観が漂っていた。
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