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第百話 カズキの師匠
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「・・・・・・あん? 何も起きてねーみたいだが?」
ボタンを押したアルフレッドが、困惑した表情でカズキを問い質した。
先程までいた部屋と寸分たがわぬ光景が広がっていた為、本当に転移したのかどうか、魔法使いではないアルフレッドには分からなかったのだ。
「外に出ればわかりますよ」
その反応を予測していたカズキが扉を開くと、すぐ目の前に白くて丸い物体と、全長十メートル近いコカトリスが鎮座していた。
「・・・・・・あれが雌コカトリスで、その卵がこれか。産んでからどれくらいまでが、玉子として使えるんだ?」
巨大なコカトリスを見た事で、転移した事実に納得したアルフレッドが、食材を前にして、料理人の顔になった。そのまま躊躇することなく手近な卵に歩み寄り、手を当ててカズキを振り返る。
「十分くらいですかね。それ以上は、不味くてグロいだけの物体に成り下がります」
「そうか。じゃあ先にこっちだな」
そう言って、手を当てていた卵に向き直り、『次元ポスト』から二振りの包丁(魔剣)を取り出し、身構える。
と、卵が内側から破られて、コカトリスが姿を現した。・・・・・・直後に頭と尾を同時に跳ね飛ばされ、更には氷漬けにされて、短い生を終えたが。
「これでいいんだよな?」
事前に聞いていた、コカトリスの美味しい倒し方を実践したアルフレッドが、カズキを振り返る。
「その通りです。いやぁ、アルさんにお任せして良かった。これで、城にいる猫達の食事は安泰ですね」
「誰かがワイバーンだの、ロック鳥だのを持ち込むせいで、猫達の舌が肥えちまったからな。これだけ極上の食材が定期的に手に入るのは有難いぜ」
そんな会話をしながらも、次々に生まれてくるコカトリスを仕留める二人。
カズキの魔法でヘンルーダが増え、雌鶏の産卵数も多くなった為、周囲にある卵の数が昨日とは桁違いになっているのだ。
その様子を見ていたのは、カズキのパーティメンバーと弟のカリムである。
【テレポート】のマジックアイテムを使ってみたかったのか、必要もないのに一人ずつボタンを押して、この場に現れたのだ。
「周囲をコカトリスに囲まれた中、正確な斬撃で同時に頭と尾を切り離すなんて・・・・・・。あれがアルフレッド様の実力ですか。噂には聞いていましたが、直接見ると凄まじいものですね」
同じAランクのマイネから見ても、アルフレッドの剣技は際立っていた。
「ああ。しかも、カズキと会話しながらだ。私も少しは強くなったと思っていたが、上には上がいるな。・・・・・・あの領域に到達するには、まだまだ時間が掛かりそうだ」
エストがマイネに同意する。二人が現実的な目標として定めているのが、かつて『剣王』と呼ばれていたセバスチャン(クリスが五歳になった辺りから呼ばれなくなったが)と、『双剣』(実際には包丁だが、双包丁だと格好悪いし呼び難い)の異名を持つアルフレッドの二人である。
カズキとクリスを目標にしないのは、自分達とは種族が違うと、半ば本気で思っているからだ。
「おいカズキ。コカトリスが次の産卵をするまでに、どれくらいの時間が掛かるんだ?」
孵ったばかりのコカトリスを全て殲滅し、カズキから受け取った『次元倉庫』にコカトリスを収めながら、アルフレッドが確認を取る。
「さあ? ここに来たのは昨日だったので、そこら辺の事はまだ何とも。ただ、産卵を始めれば、最低でも一時間以上は続くようですが」
「ならそれまでは待ちか。肉は幾らでも取れるが、卵の確保が問題だな。こっちに来た時に、都合よく産んでくれるとは思えねえしよ」
カズキと会話しながら、一羽のコカトリスの解体を始めるアルフレッド。綺麗に骨と肉を切り分けて、肉だけを『次元倉庫』にしまうと、カズキを催促した。
「おい」
「はい」
アルフレッドが何をしようとしているのか気付いたカズキが、魔法でザルを作り出す。
「ん」
そこへ鶏がら(コカトリスがら?)を放り込むと、カズキが魔法を使って熱湯をゆっくりと掛け、湯引きをする。
「もういいぞ」
表面が白くなった辺りで、アルフレッドがカズキを制止した。それに頷いたカズキが次の魔法を発動すると、今度は虚空から水が流れ出す。アルフレッドはそこに湯引きした鶏がらを突っ込むと、骨についている血合いを丁寧に洗い流した。それが終わると、やはりカズキが魔法で作った鍋に、長ネギの青い部分としょうが、洗った鶏がらを入れ、鍋に水を注いで強火にかける。
産卵が始まるまで暇になった二人は、周囲の困惑を意に介さず、鶏がらスープを作っているのだ。
「随分と息が合っているように見えますけど、あの二人って・・・・・・」
誰にともなく呟いたラクトの言葉に、ソフィアが律儀に返答した。
「料理の師弟関係よ。あのスープを作り終えるのに最低でも三時間はかかるから、それまでは周辺のコカトリスを確保しましょう。一晩経っただけで、劇的に増えているから」
「あ、はい」
その言葉に周囲を見回すと、他のメンバーも動き出していた。出遅れたのは、ラクト一人である。
ボタンを押したアルフレッドが、困惑した表情でカズキを問い質した。
先程までいた部屋と寸分たがわぬ光景が広がっていた為、本当に転移したのかどうか、魔法使いではないアルフレッドには分からなかったのだ。
「外に出ればわかりますよ」
その反応を予測していたカズキが扉を開くと、すぐ目の前に白くて丸い物体と、全長十メートル近いコカトリスが鎮座していた。
「・・・・・・あれが雌コカトリスで、その卵がこれか。産んでからどれくらいまでが、玉子として使えるんだ?」
巨大なコカトリスを見た事で、転移した事実に納得したアルフレッドが、食材を前にして、料理人の顔になった。そのまま躊躇することなく手近な卵に歩み寄り、手を当ててカズキを振り返る。
「十分くらいですかね。それ以上は、不味くてグロいだけの物体に成り下がります」
「そうか。じゃあ先にこっちだな」
そう言って、手を当てていた卵に向き直り、『次元ポスト』から二振りの包丁(魔剣)を取り出し、身構える。
と、卵が内側から破られて、コカトリスが姿を現した。・・・・・・直後に頭と尾を同時に跳ね飛ばされ、更には氷漬けにされて、短い生を終えたが。
「これでいいんだよな?」
事前に聞いていた、コカトリスの美味しい倒し方を実践したアルフレッドが、カズキを振り返る。
「その通りです。いやぁ、アルさんにお任せして良かった。これで、城にいる猫達の食事は安泰ですね」
「誰かがワイバーンだの、ロック鳥だのを持ち込むせいで、猫達の舌が肥えちまったからな。これだけ極上の食材が定期的に手に入るのは有難いぜ」
そんな会話をしながらも、次々に生まれてくるコカトリスを仕留める二人。
カズキの魔法でヘンルーダが増え、雌鶏の産卵数も多くなった為、周囲にある卵の数が昨日とは桁違いになっているのだ。
その様子を見ていたのは、カズキのパーティメンバーと弟のカリムである。
【テレポート】のマジックアイテムを使ってみたかったのか、必要もないのに一人ずつボタンを押して、この場に現れたのだ。
「周囲をコカトリスに囲まれた中、正確な斬撃で同時に頭と尾を切り離すなんて・・・・・・。あれがアルフレッド様の実力ですか。噂には聞いていましたが、直接見ると凄まじいものですね」
同じAランクのマイネから見ても、アルフレッドの剣技は際立っていた。
「ああ。しかも、カズキと会話しながらだ。私も少しは強くなったと思っていたが、上には上がいるな。・・・・・・あの領域に到達するには、まだまだ時間が掛かりそうだ」
エストがマイネに同意する。二人が現実的な目標として定めているのが、かつて『剣王』と呼ばれていたセバスチャン(クリスが五歳になった辺りから呼ばれなくなったが)と、『双剣』(実際には包丁だが、双包丁だと格好悪いし呼び難い)の異名を持つアルフレッドの二人である。
カズキとクリスを目標にしないのは、自分達とは種族が違うと、半ば本気で思っているからだ。
「おいカズキ。コカトリスが次の産卵をするまでに、どれくらいの時間が掛かるんだ?」
孵ったばかりのコカトリスを全て殲滅し、カズキから受け取った『次元倉庫』にコカトリスを収めながら、アルフレッドが確認を取る。
「さあ? ここに来たのは昨日だったので、そこら辺の事はまだ何とも。ただ、産卵を始めれば、最低でも一時間以上は続くようですが」
「ならそれまでは待ちか。肉は幾らでも取れるが、卵の確保が問題だな。こっちに来た時に、都合よく産んでくれるとは思えねえしよ」
カズキと会話しながら、一羽のコカトリスの解体を始めるアルフレッド。綺麗に骨と肉を切り分けて、肉だけを『次元倉庫』にしまうと、カズキを催促した。
「おい」
「はい」
アルフレッドが何をしようとしているのか気付いたカズキが、魔法でザルを作り出す。
「ん」
そこへ鶏がら(コカトリスがら?)を放り込むと、カズキが魔法を使って熱湯をゆっくりと掛け、湯引きをする。
「もういいぞ」
表面が白くなった辺りで、アルフレッドがカズキを制止した。それに頷いたカズキが次の魔法を発動すると、今度は虚空から水が流れ出す。アルフレッドはそこに湯引きした鶏がらを突っ込むと、骨についている血合いを丁寧に洗い流した。それが終わると、やはりカズキが魔法で作った鍋に、長ネギの青い部分としょうが、洗った鶏がらを入れ、鍋に水を注いで強火にかける。
産卵が始まるまで暇になった二人は、周囲の困惑を意に介さず、鶏がらスープを作っているのだ。
「随分と息が合っているように見えますけど、あの二人って・・・・・・」
誰にともなく呟いたラクトの言葉に、ソフィアが律儀に返答した。
「料理の師弟関係よ。あのスープを作り終えるのに最低でも三時間はかかるから、それまでは周辺のコカトリスを確保しましょう。一晩経っただけで、劇的に増えているから」
「あ、はい」
その言葉に周囲を見回すと、他のメンバーも動き出していた。出遅れたのは、ラクト一人である。
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