お前は、ヒロインではなくビッチです!

もっけさん

文字の大きさ
43 / 181
幼少期

アルベルトの性根は腐っている

しおりを挟む
 アルベルトとの授業は、本当に苦痛の一択しかない。
 例の暴行事件で手を出すことはなくなったが、以前にも増して敵視してくる。
 私と一緒に授業を受けるから、授業態度も悪いのではないかと相談したが、あれが通常運転と言われた時は愕然としたものだ。
 一国を率いる王が『馬鹿』だったら、本当に国を滅ぼしかねない。
 これは、早急に何とかせねばと思い王妃様に時間が取れないか確認して要相談だなと思っていた。
 ダンスの練習中に、アルベルトから声を掛けられた。
「貴様、ここに来るたびに鍛錬場へと通っているようだな。その年から男漁りか?」
「は?」
 いきなり何言ってんだ、この馬鹿王子! と思わず言いかけて言葉を飲み込んだ。
「婚約者が居ながら堂々と男漁りする女が王妃になることを許容しているこの国は間違っている」
「鍛錬場に行くのは、遠征用の非常食について感想を求めたり一緒に鍛錬をさせて貰ったりしているだけですが」
 ダンスの合間に足を踏んで来ようとしたので、ステップをずらして回避し仕返しに足を踏んでやった。
「痛っ! まともにステップも踊れないのか」
「ああ、失礼しました。殿下がステップを変えたので、私もあわせて変えたら先に足があったのですよ。決してワザとではないですよ?」
「俺が下手だと言いたいのか!!」
「上手いか下手かの二択なら、ド下手くそですわね。私の側近の方が、もっと上手ですしリードして貰えますわ。こう言ってはあれですが、殿下をリードしているのは私でしてよ。最低でもダンスは3曲踊れるくらいでないと、公式で恥をかくのは殿下です。私は、色んなステップを踏めますので大体即興で踊れますわ。でも、殿下は出来ませんでしょう? 私の足を危うく踏みそうになるくらい下手なのですから」
 キッパリと言い切ると、私の身体を突き飛ばしやがった。
 踏みとどまることは出来たが、ここは転んでみせるのが定石だろう。
「キャアッ!」
 受け身を取りダメージを抑えながら転がる私を見下ろすアルベルトの表情は、本当に醜悪だった。
 底意地の悪いガキが、いじめを行って笑っている構図が完成した。
「ふん、興覚めだ」
「殿下! リリアン様に何をなさるのですか!!!」
 ダンスの講師がアルベルトを諫めるが、
「あいつが、勝手に転んだだけだろう」
と嘯いている。
「明らかにリリアン様の身体を突き飛ばしました! 陛下に報告致します」
「証拠はどこにあるんだ? たかが講師のお前が喚いたところで、父上が聞く耳を持つはずないだろう。それ以上、ごちゃごちゃ文句を吐けるならクビにするぞ」
 本当に性根の腐った男だ。
 あのアホ陛下とビッチ寵姫に育てられれば、こうなるのかと辟易した。
 このやり取りは記録されいるから証拠云々言われたら出せるが、それをアルベルトが知ったら姑息な手段を考えてきそうなので教える必要はないだろう。
 確かに動画を撮る技術は、試行錯誤している段階でまだ手に入れてない。
 状況証拠は揃っていても物的証拠は出せない。
 証言だけで罰していたら、それこそ冤罪が山盛り出来てしまう。
「先生、私は大丈夫でしてよ。下手な足さばきにうっかり私が踏みそうになったのを、殿下が気付いて回避されるために突き飛ばされただけですわ。もし、クビになるような事がありましたら是非ともアングロサクソン家へ。再就職を用意致しますわ」
 寧ろ両手を挙げてウェルカム状態だ。
 私の言葉が止めを刺したのか、アルベルトは授業中にも関わらずバンッと扉を乱暴に開けて出て行ってしまった。
 このパターンは、戻ってこず放置されるな。
 私は、スクッと立ち上がりパンパンとドレスについた埃を払った。
「あの様子だと殿下はお戻りにならないと思いますので、私と一緒に王妃様へ報告をお願いできますか」
 すまなそうな顔をしながら講師の顔を見ると、苦笑いを浮かべて快諾してくれた。
「リリアン様も大変ですね」
「私より先生達の方が大変ですね。他の先生方にもクビになったら我が家を頼るようにお伝え下さいませ。優秀な人材を捨てるなんて勿体ないことしたら、罰が当たりますわ」
 私の軽い勧誘に笑みが零れる。
 幼女の満面の笑みは、大人には眩しいらしい。
「報告に行きましょう」
 私は、講師を引き連れていつものように王妃のところへ向かった。
 その時、本当に小さな声で「無能から有能な人材を引きはがせるって本当に楽しいわぁ」と呟いていたら始終見聞きしていたウンディーネがドン引きしていた。
しおりを挟む
感想 98

あなたにおすすめの小説

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。 白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・  沈黙を続けていたルカが、 「新しく商会を作って、その先は?」 ーーーーーー 題名 少し改変しました

【完結】お飾りではなかった王妃の実力

鏑木 うりこ
恋愛
 王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。 「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」  しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。    完結致しました(2022/06/28完結表記) GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。 ★お礼★  たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます! 中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!

断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。

パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。 将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。 平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。 根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。 その突然の失踪に、大騒ぎ。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

処理中です...