お前は、ヒロインではなくビッチです!

もっけさん

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幼少期

出だしは好調、お買い物に行きます

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 アルベルトの滞在が二ヶ月目に突入し、順次到着した教師陣が驚くくらい勉強が進んでいた。
 とはいえ、ムラがあるため手放しには褒められないのが現状だ。
 アルベルトの興味を引く教材の漫画を描かせるのにも苦労した。
 特急料金をポケットマネーで払ったので、これで覚えなければ磔にして魔法の的にしてやろうかと思ったくらいだ。
 急ピッチで勉強の遅れを取り戻すべくアルベルトに知識を詰め込んでいたが、そろそろ飴もやらねばモチベーションも下がってしまう。
 私は、街まで行くための馬車の手配と護衛を用意するようにユリアに命じた。
 街へ降りる用の衣装を見繕う。
 シンプルなAラインの水色ワンピースに蒼のペタンコパンプスと白いハット。
 これは、アルベルト用である。
 私は、白のカッターシャツにカーキーのガウチョパンツに黒のペタンコパンプスに着替える。
 髪を一つに纏めてキャスケットの中に仕舞えば、男の子に見えなくもない。
 姿見で全身をチェックし、お嬢様ではなく良いところのお坊ちゃまくらには見えるだろう。
「お嬢様、失礼します」
「ユリア、手配は終わったの?」
「はい。ところで、その服はどうされるんですか?」
「ああ、このワンピース? 殿下に着せるのよ。そろそろ、飴を与えても良い頃合いかと思って。運んでくれる? 着替えや化粧は、レイモンドに任せれば良いわ」
「畏まりました」
 チェキもどきを首から下げ、斜めかけのポシェットに財布や予備フィルムを入れる。
 街は、新しい商売のネタがそこかしこに転がっている。
 お金はあるに越したことはないし、何より稼ぐのが楽しい。
 久しぶりの外出ということもあり、今日の私はそこそこ機嫌が良い。
 多少の暴言も笑って許してやれるくらい余裕がある。
 鼻歌交じりにロビーでアルベルトを待っていた。
 待つこと二十分、女装したアルベルトがレイモンドに手を引かれてやってきた。
「あら、カツラを被ってますのね」
「はい。髪の短い女性の大半は、犯罪者か修道女ですからカツラを使って誤魔化すことに致しました」
「殿下の髪色は綺麗ですのに、隠すのは勿体ない。折角ですから伸ばしてみませんか?」
「……考えておく」
 珍しく反抗しないアルベルトに、私は首を傾げるが直ぐに頭を切り替える。
「殿下、お金はお持ちになりまして?」
「ああ、この中に入っている」
 ポシェットから、私があげた財布を見せてくる。
「では、これから街へ視察しに行きます。本日の目的は、買い物を実際に行い計算力を見ます。殿下が、店にぼったくられても口は出しませんし、指摘もしません。帰宅後にお伝えしますので、しっかり計算なさって下さい。設定は、富豪の商家のお嬢様と付き人です。私の事は、リーと呼び捨てて下さい。私は、お嬢様で通します」
「分かった」
「護衛も付きますが、くれぐれも護衛を撒く様なことをしないように。我が領は、国で一番栄えていて治安も良いとされています。しかし、危険な場所もあります。私や護衛の指示は、絶対順守して下さい。守って頂けないと、殿下の身を守れなくなります」
「分かっている。同じことを何回も言われなくても理解している」
 口を酸っぱく言い続けているのが気に障ったのかキレた。
 この時点でアウトなんだが、いう事を聞かないなら私の右手が唸るだけである。
 念のため、精霊達にアルベルトの見張りと護衛を頼むと凄く嫌がられた。
 宥めすかして、魔力を対価に渋々ではあるが引き受けてくれた。
「では、参りましょう。殿下、くれぐれも言葉遣いには注意して下さいませ。乱暴な言葉遣いや、俺と仰るようなことはないようにお願いします」
 待たせていた馬車にアルベルトを乗せて、私達は街へと向かった。


 街に着き、アルベルトは目を丸くしている。
 頬を赤らめ興奮する姿は可愛いのだが、やはり言葉遣いがなっていない。
「お嬢様、言葉遣いが乱れてますよ」
 拳をちらつかせると、アルベルトは少し顔色を悪くしながら押し黙る。
「何から見ますか? この街は、流行の発信地として様々な方が集まってきます。食べ物からファッションまで色んなものがあります」
「あれは、何…ですか?」
「あれは、肉を串に刺して焼いた食べ物で御座います。食べてみますか?」
 肉の焼ける良い匂いに、アルベルトのお腹がキュルルと鳴った。
 手で食べるという行為に抵抗があるのか、少し躊躇していたが少し考えて頷いた。
「では、買いに行きましょう」
 アルベルトの手を取り、串肉屋に突撃した。
「おじさん、串肉二本下さい」
「あいよ。銅貨六枚だ」
 チラッとアルベルトを見ると、ポシェットから財布を取り出し銅貨を探している。
「これでお願いします」
 銅貨が足りなかったのか、銀貨一枚渡している。
「こっちが商品な。後、釣りだ。今銅貨を切らしてんだ。細かくて悪いな」
 銅貨三枚と蒼銅貨七枚をアルベルトに渡している。
 早速カモられているが、それに気づいたのかアルベルトの顔が鬼の形相になった。
「青銅貨三枚足りないぞ」
「ん? そんなことはないと思うが?」
「いいや。足りない! 銀貨一枚出したんだ。おつりは、銅貨三枚と青銅貨十枚になる。お前は、銅貨三枚と青銅貨七枚しか渡してない」
 口調が荒っぽくなってきたので、私はアルベルトの腰を肘で付く。
「お嬢様、お釣りの渡し間違えは偶に起こります。店主も、お釣りを渡すときは数えてからお渡し下さいね」
 帽子で見え辛かった顔をよく見えるように被り直し笑みを浮かべると、店主の顔はバツの悪い顔になった。
 この男とは、少々縁があった。
 私が初めて迷子になった時に、人生相談した客の一人である。
「……悪かったな、嬢ちゃん。不足分だ。後、これはオマケだ」
 青銅貨三枚をアルベルトに手渡し、一本多く串肉を渡してきた。
 アルベルトはそれに気を良くしたのか、それ以上屋台のオヤジについて文句は言わなかった。
 初めて食べる屋台の串肉は、チープな味だと酷評していたが二本食べきったあたり気に入ったようだ。
 街の散策は始まったばかりで、出だしは好調と言っても良いだろう。
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