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オブシディアン領で労働中
リストラ大作戦3
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栄転と勘違いしている馬鹿達とフリックは、王都へと旅立っていった。
手元に残ったコレットは、人手が足りない場所へ回して使って貰っている。
機密文書を扱う私の執務室と寝室には入れないようになっている。
入ろうとしようものなら、精霊達の悪戯が待ち構えているのだが、当の本人は何度悪戯にあってもリトライしている。
そのベクトルを違う方向に向けられないのかと思う毎日だ。
「この馬鹿娘、在庫の計算くらいちゃんとしなさいよ! これで何度目? 在庫チェックくらい計算しなくても数えるだけなんだから出来るでしょうが!!」
ベアトリズの怒声が執務室まで聞こえてくる。
「今日は、リズのところでお仕事しているのね。リズが、あんな大声で人を怒鳴りつけるなんて久しぶりじゃないかしら?」
リズベットの時は、結構な頻度で大声を出して喚き散らしていたのを覚えている。
ベアトリズになって、スー夫妻の養女になってからは怒鳴り散らすことは殆ど見かけなくなった。
感情をコントロールする術も学んだのだろう。
ポーカーフェイスを身に付け、商人として着々と実力をつけている。
そんな彼女が、切れるとは余程のことがあったのだろうか。
「……毎度のことだが、良いのか?」
書類整理をしていたレユターレンが、心配そうに私を見ている。
「コレットの教育係が、不在なのよ。わたくしの開発した新魔法の被験体になるだけだと、他の皆さんとの仕事量に大きく差が出てしまうわ。どの部署でもある程度の能力を発揮できないと、困るのは彼女よ。色んな部署に回して経験を積んで貰わないと」
それで潰れてしまうような性格ではないので、そこは心配していない。
「そうか。しかし、私がフリック殿の代わりに手伝うことは良いのか?」
「今後、レンに必要なことよ。ここが落ち着いたら、貴女の故郷の方に探りを入れるわ。ばあやと再会出来るのも、そう遠くない未来よ。それまでに、しっかりと必要な知識を身に着けましょうね」
レユターレンは、本物の魔王として魔族を統治して貰わなければならない。
魔族と事を構えるつもりはないので、彼女が魔族領を掌握したら、友好関係を結びたいものである。
魔族領にしかない素材や工芸品などがあるかもしれないし、私の知らない魔法もあるだろう。
その為に、レユターレンと信頼関係を築く時間は有意義だと断言できる。
「ギィェェェエ!!」
つんざくような悲鳴に、私は書類から顔を上げて時計を見る。
「あら、もう15時なのね。レン、わたくしが戻るまで休憩していて良いわよ」
「休憩しないのか?」
「わたくし? わたくしも息抜きしてきますわ」
ずっと座りっぱなしも身体に悪い。
書類を机の上に伏せて席を立った。
「ちゃんと休憩は取りなさいね」
それだけ言い残して、私は執務室を後にした。
汚い悲鳴がするエントランスホールに顔を出すと、少し焦げた臭いに眉を顰めた。
臭いの原因を探ると、コレットが人型のファーセリアに炙られ足蹴にされていた。
思わず衝動に駆られて、ファーセリアの首を鷲掴みにしてしまった。
「……ファーセリア、室内で燃やすなと言ったでしょう」
予想以上に低い声になってしまったが、私が怒っていることは理解したのか身震いしている。
「つい、カッとなったのだ」
「カッとなっても、室内は火気厳禁だと言っているでしょう。やるなら、外でやりなさい。後、何でコレットを炙ったままにしているの? 回復魔法を掛けなさいよ」
髪は縮れ、皮膚は軽い火傷を負っている。
流石に服は辛うじて形が残っているので、ファーセリアが全部燃やさないように調整したのだろう。
「光魔法の使い手だろう。自分で回復魔法をかければ済むことだ」
「それとこれとは話しが別よ。炙っても良いけど、回復はしてあげなさい」
「チッ……おい、光の。さっさと、アレを回復してやれ」
ファーセリアは、光の精霊を脅してコレットを回復させようとしている。
命令された光の精霊は、嫌そうな顔でコレットを睨んだ後、本当に嫌々回復魔法を掛けていた。
ここまで精霊に嫌われているのは珍しい。
アルベルトも嫌われていたが、コレットよりはマシである。
「あ、あんたねぇ! あんたの仕業でしょう!! 何すんのよ」
回復魔法を掛けて貰い、髪以外は綺麗に元通りになったコレットが私に向かって突進してくる。
「仕事を放棄するんじゃねぇ!」
しかし、ベアトリズが行く手を阻み、綺麗なアッパーカットをコレットにお見舞いした。
ポーンッと宙に飛んだコレットを見て、私は思わず拍手してしまった。
流石、スー夫妻の養女になっただけはある。
ガッツリ、そっち系も仕込まれているようだ。
ベシャッとコレットが地面に落ちる。
「たく、お客様に色目使ってんじゃないわよ。仕事しろ。仕事!」
ベアトリズの言葉で、大体状況が把握できた。
大方、人型のファーセリアに色目を使って逆鱗に触れて炙られただけか。
本当に懲りないというか、脳内お花畑炸裂した女だ。
「リズ、コレットが迷惑をかけたみたいで悪かったわね。これから彼女を連れて鍛錬場に行くから、戻ってくるまで休憩していて良いわよ」
地べたに這いつくばるコレットを見て言うと、ベアトリズは物凄く良い笑顔で了承した。
「思いっきり殺っちゃって下さい!」
「善処するわ」
私は、コレットの襟首を掴みずるずると引きずりながら鍛錬場へと向かった。
ファーセリアが、後ろを付いてきているのは気になったが気にしないでおこう。
手元に残ったコレットは、人手が足りない場所へ回して使って貰っている。
機密文書を扱う私の執務室と寝室には入れないようになっている。
入ろうとしようものなら、精霊達の悪戯が待ち構えているのだが、当の本人は何度悪戯にあってもリトライしている。
そのベクトルを違う方向に向けられないのかと思う毎日だ。
「この馬鹿娘、在庫の計算くらいちゃんとしなさいよ! これで何度目? 在庫チェックくらい計算しなくても数えるだけなんだから出来るでしょうが!!」
ベアトリズの怒声が執務室まで聞こえてくる。
「今日は、リズのところでお仕事しているのね。リズが、あんな大声で人を怒鳴りつけるなんて久しぶりじゃないかしら?」
リズベットの時は、結構な頻度で大声を出して喚き散らしていたのを覚えている。
ベアトリズになって、スー夫妻の養女になってからは怒鳴り散らすことは殆ど見かけなくなった。
感情をコントロールする術も学んだのだろう。
ポーカーフェイスを身に付け、商人として着々と実力をつけている。
そんな彼女が、切れるとは余程のことがあったのだろうか。
「……毎度のことだが、良いのか?」
書類整理をしていたレユターレンが、心配そうに私を見ている。
「コレットの教育係が、不在なのよ。わたくしの開発した新魔法の被験体になるだけだと、他の皆さんとの仕事量に大きく差が出てしまうわ。どの部署でもある程度の能力を発揮できないと、困るのは彼女よ。色んな部署に回して経験を積んで貰わないと」
それで潰れてしまうような性格ではないので、そこは心配していない。
「そうか。しかし、私がフリック殿の代わりに手伝うことは良いのか?」
「今後、レンに必要なことよ。ここが落ち着いたら、貴女の故郷の方に探りを入れるわ。ばあやと再会出来るのも、そう遠くない未来よ。それまでに、しっかりと必要な知識を身に着けましょうね」
レユターレンは、本物の魔王として魔族を統治して貰わなければならない。
魔族と事を構えるつもりはないので、彼女が魔族領を掌握したら、友好関係を結びたいものである。
魔族領にしかない素材や工芸品などがあるかもしれないし、私の知らない魔法もあるだろう。
その為に、レユターレンと信頼関係を築く時間は有意義だと断言できる。
「ギィェェェエ!!」
つんざくような悲鳴に、私は書類から顔を上げて時計を見る。
「あら、もう15時なのね。レン、わたくしが戻るまで休憩していて良いわよ」
「休憩しないのか?」
「わたくし? わたくしも息抜きしてきますわ」
ずっと座りっぱなしも身体に悪い。
書類を机の上に伏せて席を立った。
「ちゃんと休憩は取りなさいね」
それだけ言い残して、私は執務室を後にした。
汚い悲鳴がするエントランスホールに顔を出すと、少し焦げた臭いに眉を顰めた。
臭いの原因を探ると、コレットが人型のファーセリアに炙られ足蹴にされていた。
思わず衝動に駆られて、ファーセリアの首を鷲掴みにしてしまった。
「……ファーセリア、室内で燃やすなと言ったでしょう」
予想以上に低い声になってしまったが、私が怒っていることは理解したのか身震いしている。
「つい、カッとなったのだ」
「カッとなっても、室内は火気厳禁だと言っているでしょう。やるなら、外でやりなさい。後、何でコレットを炙ったままにしているの? 回復魔法を掛けなさいよ」
髪は縮れ、皮膚は軽い火傷を負っている。
流石に服は辛うじて形が残っているので、ファーセリアが全部燃やさないように調整したのだろう。
「光魔法の使い手だろう。自分で回復魔法をかければ済むことだ」
「それとこれとは話しが別よ。炙っても良いけど、回復はしてあげなさい」
「チッ……おい、光の。さっさと、アレを回復してやれ」
ファーセリアは、光の精霊を脅してコレットを回復させようとしている。
命令された光の精霊は、嫌そうな顔でコレットを睨んだ後、本当に嫌々回復魔法を掛けていた。
ここまで精霊に嫌われているのは珍しい。
アルベルトも嫌われていたが、コレットよりはマシである。
「あ、あんたねぇ! あんたの仕業でしょう!! 何すんのよ」
回復魔法を掛けて貰い、髪以外は綺麗に元通りになったコレットが私に向かって突進してくる。
「仕事を放棄するんじゃねぇ!」
しかし、ベアトリズが行く手を阻み、綺麗なアッパーカットをコレットにお見舞いした。
ポーンッと宙に飛んだコレットを見て、私は思わず拍手してしまった。
流石、スー夫妻の養女になっただけはある。
ガッツリ、そっち系も仕込まれているようだ。
ベシャッとコレットが地面に落ちる。
「たく、お客様に色目使ってんじゃないわよ。仕事しろ。仕事!」
ベアトリズの言葉で、大体状況が把握できた。
大方、人型のファーセリアに色目を使って逆鱗に触れて炙られただけか。
本当に懲りないというか、脳内お花畑炸裂した女だ。
「リズ、コレットが迷惑をかけたみたいで悪かったわね。これから彼女を連れて鍛錬場に行くから、戻ってくるまで休憩していて良いわよ」
地べたに這いつくばるコレットを見て言うと、ベアトリズは物凄く良い笑顔で了承した。
「思いっきり殺っちゃって下さい!」
「善処するわ」
私は、コレットの襟首を掴みずるずると引きずりながら鍛錬場へと向かった。
ファーセリアが、後ろを付いてきているのは気になったが気にしないでおこう。
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