憑依転生~手違いで死亡した私は、悪女の身体を乗っ取り聖女となる~

もっけさん

文字の大きさ
9 / 10
北方聖方教会レイア市国

聖女の御業

しおりを挟む
 手続きはごたついたが、無事に入国出来ました。
 後は、宿を取ってグリちゃんと遅い昼食兼夕食だ。
「この近くにグリちゃんも一緒に泊まれる宿はありますか?」
 グリちゃんがお腹が空いたと言い出しているので、早急に寝床の確保をしなければならない。
「聖女様、レイア宮殿にお送りしますので宿を取る必要はございません」
 アルフォートが、慌てた様子で馬車の手配をしようとしたので待ったを掛けた。
「日も暮れてきましたし、何よりグリちゃんがお腹を空かせています。私をここまで頑張って運んでくれたので、疲労が溜まっていると思うのです。少し広い個室と調理場をお借り出来れば問題ありませんわ」
と返したら、困った顔をされてしまった。
「聖女様だけなら、宿舎の一室をお貸しできますが……。聖獣様が入れるほどの部屋は用意出来ません」
 冷や汗を垂らしながら答えるアルフォートに、私はそりゃそうだと心の中でツッコミを入れる。
 羽を閉じた状態で全長1.5mはある。
 その巨体をが入る建物なら、倉庫でも蔵でも何でも良い。
「空いている倉庫でも良いのだけど?」
 そう訊ねてみると、歯切れの悪い回答が返ってきた。
「う~ん……。倉庫であれば、聖獣様も入れます。何分汚いですよ」
 渋るアルフォートに、私は上品な笑みを浮かべながらゴリ押しで案内しろと言ってみた。
「屋根があるだけで十分です。案内して下さいますか?」
「分かりました」
 アルフォートに案内された倉庫は、確かにグリちゃんでも入れる大きさだ。
 広さも十分にある。
 しかし、老朽化が進んでいるのか外壁がボロボロだ。
 中は埃っぽいし、荷物が雑然としている。
「少し離れて頂けますか? まずは、この倉庫を綺麗にします」
 私は倉庫の中央で膝を着き、両手を組み天に祈りを捧げるポーズを取った。
(ググル先生、この倉庫全体を清掃魔法で綺麗にしつつ、ボロボロの外壁も土魔法で補強をお願い。厳かな雰囲気を演出も出来る?)
(清掃魔法・土魔法と同時発動しつつ、光魔法・ライトを応用して光の屈折を利用すればマスターの厳かな雰囲気を醸し出す事は可能です)
(OK。じゃあ、それで宜しく)
(了。倉庫内を中心に清掃魔法・ライト発動します。成功しました。併せて土魔法で土壁の補強に成功しました)
 私の身体から魔力がゴッソリ抜けて、少し眩暈がした。
 振り返ると、倉庫の入り口に陣取っていたグリちゃんとアルフォートも心なしか綺麗になっている。
(ググル先生、魔力がゴッソリ抜けたんだけど。どういうこと?)
(複数の魔法を同時展開したからです)
 レベルも低いし、魔力同時展開だと消費する魔力が多いということか?
 いや、それにしては倉庫内だけ綺麗にするが、倉庫の外に居るグリちゃんやアルフォートが傍から見ても綺麗になっている。
(……気のせいです)
 気のせいと思うには、アルフォートの長年使い込まれてくすんでいた装備がピカピカになっている。
 気のせいではないと思うんだけど……。
(誤差の範囲内です)
 シレッとミスを誤差で片付けるググル先生は、何だか感情を持った生物に感じる。
 綺麗になるのは悪いことではないし、グリちゃんとベッドが置ければ問題ない。
「僭越ながら外壁も補強させて頂きました。屋根の点検は行ってください。必要であれば、修理されることをお勧めします。建物の寿命が延びますよ」
 やっちゃったものは仕方がない。
 ここは、それとなく誤魔化そう。
「流石、聖女様!! 祈りを捧げただけで、この辺り一帯が綺麗になりました。あの光は、神の御業なのですね!」
 そんなわけあるかい!
 興奮冷めやらぬアルフォートに、
「倉庫の中の物を端に寄せて頂いても宜しいでしょうか? グリちゃんを休ませたいので」
と話をすり替える。
「直ぐにやります! 手の空いている者達、倉庫の荷物を全て端に寄せるのだ!」
 アルフォートの号令に、近くにいた兵が綺麗になった倉庫の中に入って行き、キビキビとした動きで荷物を端に寄せている。
「後、厨房をお借りしたいのですが構いませんか?」
「勿論です。部下を連れて参ります。少々を待ちを」
 アルフォートが部下を呼びに行った隙を見計らって、空間収納から作り置き飯を取り出した。
「グリちゃん、お夕飯を作るのに時間が掛るから、これを食べて待っててくれる?」
(ありがたい。主殿のご飯は美味いな)
 日本食に慣れ親しんだ私からすると、美味しいレベルではないのだが、グリちゃんは出された食事を美味しいと食べてくれる。
 とはいえ、休憩も無しに飛び続けたのだ。
 相当お腹は減っているのだろう。
 出したばかりの卵のサンドイッチと野菜スープを秒で完食している。
(主殿、夕飯は肉が食べたいぞ)
 肉料理か。
 グリちゃんが、満足できるほどの量は買い込んでないしなぁ。
 空間収納に収まっている肉を全部吐き出しても、あの食いっぷりを見ると一食分が限界かもしれない。
「分かったわ。手持ちの肉が少ないから量は期待しないで頂戴ね」
(分かったのである)
 ククルと上機嫌に鳴くグリちゃんの嘴を布で拭いていると、アルフォートが部下を連れて戻ってきた。
「聖女様、お待たせしました。聖女様、ご案内します」
「グリちゃん、お夕飯を作ってくるから大人しくするのよ。グリちゃんに触れようとする不埒者がいたら、大怪我させない程度に突いておやりなさい」
 無許可でグリちゃんに触ろうとするバカは居ないと思うが、一応警告はしておこう。
 使役テイムされた魔獣が人や物に危害を加えた場合、主人の咎になってしまう。
「だそうだ。くれぐれも神獣様に失礼のないように! 聖女様、調理場に案内致します」
 私は、グリちゃんと別れてアルフォートの案内で調理場へ訪れた。
 男所帯だからもっと汚いかと思ったら、どこもかしこもピカピカに磨かれている。
「綺麗に使っていらっしゃるのね」
と褒めると、
「何を仰るのですか。聖女様が、綺麗にして下さったからですよ」
とニコニコ顔でアルフォートに返された。
 私は、首を傾げる。
(先生、どういうこと?)
(倉庫で使った魔法の効果範囲に入っていたからだと推測します)
 倉庫の中だけのつもりで使った魔法が、ググル先生の調整ミスで範囲が拡大したって事か。
(否、誤作の範囲内です)
 断固自分のミスを認めないググル先生に呆れつつも、結果的に綺麗な調理場を使える事になったのなら良しとしよう。
「では、ありがたく使わせて貰いますね」
 私は、アルフォートに一言断りを入れて腕まくりをして夕飯作りに取り組んだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故

ラララキヲ
ファンタジー
 ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。  娘の名前はルーニー。  とても可愛い外見をしていた。  彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。  彼女は前世の記憶を持っていたのだ。  そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。  格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。  しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。  乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。  “悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。  怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。  そして物語は動き出した…………── ※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。 ※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。 ◇テンプレ乙女ゲームの世界。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げる予定です。

処理中です...