《完結》愛されたいわたしは幸せになりたい

綾月百花   

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48   お月見パーティーへ

 今夜は皇帝陛下と皇后様もアメリア様と参加している。

 後続の馬車で、わたしはクラクシオン様とシャイン公爵家の邸にやって来た。

 パーティーは邸の中と庭を使うようだ。 

 食事は立食パーティーとなっていて、邸内で食べられるように準備がされていた。

 そのまま食事を持って、庭にも出られるし、邸内で座って食べることもできるようだ。

 わたし達が到着したら、ちょうど皇帝陛下と皇后様とアメリア様がこの邸のシャイン公爵とその夫人、令息であるシェック様が挨拶していた。

 アメリア様はあまり気乗りしていなさそうな顔色をしている。

 皇帝陛下の近衛騎士達が、周りを固めているので、他人が会話に入ることはできなさそうだ。

 アメリア様の視線が、わたし達の方を向いた。

 クラクシオン様の近衛騎士団長のクラース様は、参加を遠慮してもらっているという。今夜は深夜夜勤帯に仕事のシフトを変更されていたようだ。

 団長は近衛騎士達を総括しているので、夜勤は滅多にしないそうだが、この頃は、アメリア様が日中にクラース様を探すので、クラース様はクラクシオン様と相談して、夜勤帯に勤務をしている。

 アメリア様のご執心は、かなりのもので、わたしとお茶会をしようとしながら、クラクシオン様もお茶会に誘っている。

 わたしが慣れなくて可哀想だから、ご一緒してくださいと、何かとわたしの名前を出されて、クラクシオン様は呼び出されている。

 わたしは確かにドゥオーモ王国の国王陛下の処刑で泣いてしまった事や兄様と不仲になった事で悩んでいたこともあって、暫く気力が湧かずに寝込んでしまったけれど、今は自分なりに折り合いを付けている。

 なのに、わたしの名前を出せば、クラクシオン様が来て、クラクシオン様が来ると、もれなくクラクシオン様の近衛騎士達も集まる。

 その事を期待して、わたしの名前を出すのだ。

 最初は、わたしを心配していたクラクシオン様に、わたしが真実を話したのだ。


『呼ばれても来ないでください』


 これは、もはやお願いだ。

 お茶会ごときで、毎回、呼び出されていては、クラクシオン様の仕事は終わらない。

 仕事の邪魔をするつもりは微塵もないのだから、アメリア様の我が儘で、クラクシオン様が呼び出されないように、わたしも気を遣っているのだ。

 わたしの名前を出しても、クラクシオン様が来なくなると、お茶会は直ぐに終わるようになった。


『マリアナ、お兄様に何か言ったのかしら?』

『いいえ』


 わたしは恍けることしかできない。

 真実を話したら、アメリア様はわたしを嫌いになることは、想像しなくても分かることだ。

 全てを悟られないように、わたしはひたすら恍けてみせる。

 アメリア様は、「昔は賢い子だったのに、ドゥオーモ王国で馬鹿になったのね」等と、わたしを侮辱するようになったが、仕方がない。

 鈍いと思わせているのだから、アメリア様が求めているものが分かっていても、気づかないフリをし続けるしか、わたしにはアメリア様の策略を妨害する術はない。

 クラース様も「アメリア様の見合いの席なら、私がいない方が上手くいくかもしれません」と、クラース様から辞退をしたのだ。

 近衛騎士団長として、仕事をしたくても、アメリア様の心情を考えると出過ぎたこともできない。日常の勤務もままならないのが実情だという。

 クラクシオン様も悩まれているが、クラース様を団長の座から降ろすつもりはないようだ。

 団長になるには、かなりの努力が必要で、戦力に加えて、戦略を練る事も長けていなければならない。

 その上、皇太子の一番近くにお仕えする近衛騎士団になるには、更に、厳しい訓練や実力がなければ、なれないらしい。

 その中の団長の座は、たった一人しか与えられない。

 クラース様は、頂点に立ったお方なのだと教わった。

 それほど努力をしてきた漢に、妹の為に任務を降りて閑職に就き、妹の伴侶になって欲しいとは言えないとクラクシオン様はおっしゃった。

 アメリア様はクラクシオン様の近くにクラース様の姿がないことに落胆したような顔をなさった。

 会話は聞こえないが、皇帝陛下がしきりにアメリア様に話しかけている。


「もういいわよ」


 アメリア様の甲高い声が聞こえた。


「お父様の言うとおりに致します。どうぞ、不束ものですが、シャイン公爵、シェック・シャイン公爵令息、よろしくお願いします」


 アメリア様は、美しいお辞儀を披露した。

 どうやら、アメリア様が折れたようだ。

 アメリア様は公爵令息のシェック様と二人で、庭に出て行った。

 背後から、アメリア様の護衛騎士がついて行く。


「マリアナ、先に当主に挨拶だけ済ませよう」

「はい」


 今日はイブニングドレスを着てきた。

 クラクシオン様の瞳と同じ色合いのドレスだ。クラクシオン様も同じ色のお召し物を着ているのでお揃いになる。

 クラクシオン様が贈ってくださったダイヤモンドのネックレスと髪飾りで、美しく飾った。

 メイドの腕がいいので、結い上げて、髪留めで留める作業が難なくできるようになった。

 これは、ドゥオーモ王国では、できないことだったので、正直に嬉しい。


「この度は、ご招待くださいましてありがとうございます。私の婚約式にも参加くださいまして、感謝しております」


 クラクシオン様がお辞儀をしたので、わたしも美しいお辞儀をした。


「これは、クラクシオン皇太子殿下、マリアナ・プロートニク公爵令嬢。婚約おめでとうございます。我が息子もやっと思い人であるアメリア様が婚約を承諾してくださいました」

「それは、めでたい」

「おめでとうございます」


 皇帝陛下と皇后様は、微笑んでいらっしゃる。

 どんな説得をしたかは分からないけれど、アメリア様が納得して婚約の運びになったのなら、これ以上、嬉しいことはありません。


「今は、庭に出て、デートをしておる」

「そうですか?では、私達は邪魔をしないように、先にお食事を戴きますね」


 クラクシオン様は慣れた様子で、会話を閉じた。公爵様にお辞儀をして、わたしの手を引いて、食事の並んだスペースの方に歩いて行く。


「アメリアが諦めてくれて助かった。これ以上、クラースに気を遣わせるのは、どうかと思っておった。クラースがどうしてもアメリアを好きなら、転属させるつもりだったが、クラースは転属を絶対に嫌だと言っておったからな」

 これで一件落着ならいいけれど、不安も残る。

 アメリア様は執念深いのだ。

 わたしは執念深い人に囲まれて、11年耐えてきたけれど、その人達と似たところがちらほら見受けられる。


「マリアナ、早く俺達も結婚したいな」


 わたしは微笑むことで、クラクシオン様の言葉に応える。

 クラクシオン様をお慕いしているけれど、兄様に嫌われている身で、結婚などして、両家に亀裂が生まれないのか、わたしは心配なのだ。

 兄様は既に結婚をしている。

 兄様はわたしより2つ年上で、わたしが誘拐された頃は、7歳とまだ幼かった。

 もしかしたら、兄様もわたしの記憶がないかもしれない。

 5歳も7歳も幼い子供だ。

 今は、18歳になる。

 結婚式は、まだ行ったばかりだという。

 わたしが保護される数ヶ月前に婚礼が行われたらしい。

 父様の喪が明けたと同時に、婚礼を行ったという。

 奥様は、伯爵家から迎えられた。

 父様が探してくださった令嬢だという。

 アリス夫人は、わたしと同い年なのだ。

 わたしは、まだお目にかかったことはないけれど、可愛らしい奥様だとか。

 兄様が許してくれたら、仲良くしたいと思っている。

 赦される日が来るのか、わたしには分からない。


「何故、返事をしない?」

「こんなに人が大勢いる場所で、お答えしたくはありません」

「恥ずかしがり屋だな」

「クラクシオン様は恥ずかしくないのですか?」

「恥ずかしくはないよ。本心を伝えているだけだ。マリアナも素直になりなさい」

「難しい課題ですが、できるだけ努力を致します」

「まだ、言葉が堅いな。俺のことは結婚したら、シオンと呼んでくれ。俺はマリアナの事を、アナと呼ぶ」

「5歳の頃の呼び名にするのですか?」


 わたしは秘密基地に隠された手紙で、幼い頃のわたしに、クラクシオン様とわたしの愛称を教えてもらったのだ。

 5歳にしては、しっかりとした文章を書いていた。

 クラクシオン様の事をシオンと呼び、わたしの事はアナと書いていた。

 それは、婚礼証明書だった。

 わたしが書いたようだ。

 愛称で、クラクシオン様がどれだけわたしを好きで、わたしはものすごくクラクシオン様を好きで、互いに好き合っているので、結婚をすると締めくくられた文章だった。

 互いに署名をしていた。

 きちんと封書に入れられて、秘密基地という名の倉庫に隠されていた。

 わたしの日記帳は、クラクシオン様から戴いた。

 父様が他界する前に、受け取ったらしい。

『不要なら、やらぬ。探し求めてくれるなら、託したい』と告げられたと、教えてもらった。

 クラクシオン様は、父様からバトンを受け取ったのだ。

 そのバトンは、今はわたしの部屋にある。

 毎晩、読んでいる。

 わたしは幼い頃に文字が書けるようになり、5歳にして、医学書を読むほどだったらしい。

 父様も母様もわたしに医術教えていたそうだ。

 母様は回診に一緒に連れていき、目で見て学ばせていたという。

 日記には、回診の様子も書かれている。

 難しい、今のわたしには理解できない医学用語も書かれている。

 その合間に、わたしの恋心も書かれている。

 ずいぶんませた女の子だったようだ。


「嫌か?」

「わたし、性格が変わっていると思うの。日記を読むようになって、まるで他人の文章を読んでいるような気がしますの。今のわたしも好きですか?」

「俺も昔の俺ではない。皆、成長するのだ。11年離れていたが、今のアナも好きだ。昔のアナは、難しい話ばかりしていたが、やっと普通に会話ができる」

「難しい話ですか?」

「どこぞの夫人が、急に腹痛を起こしたが、この腹痛は腎臓が悪いと思うのですが、シオンはどう思いますか?とな、俺は診察に行ってもおらん。医術も知らぬ。答えようもない。答えないと怒る。あの頃は本当に参ったな」

「それは、いきなり聞かれても答えようもありませんね」

「そうであろう」


 クラクシオン様は、思い出し笑いをしている。

 5歳のわたしを思い出したのだろう。


「記憶のないわたしで、本当に後悔はしませんか?」

「何か問題でもあるのか?」

「今、クラクシオン様は、5歳のわたしを思い出しておいでだったと思います。でも、わたしは5歳のわたしを知りません」

「俺が知っておる。知りたければ、教える」


 クラクシオン様も大概、頑固だ。


「マリアナは成長して、かなり頑固になったな」

「はあ?」


 令嬢らしくない声が出てしまった。

 いけない、いけない……。

 心の声が表に出ることは滅多にないけれど、時々、出てしまう。


「頑固なのは、クラクシオン様ですわ」

 クラクシオンは楽しそうに笑っている。


「食事のお代わりはいるか?」

「いいえ、もう十分ですわ」


 異国の料理にまだ慣れていないので、パーティーがあるときは、宮殿で軽く食事をしてくるようにしている。

 クラクシオン様もわたしに付き合って、軽食を食べてくるので、パーティーでの食事は、本当に少しだけだ。

 今日はフルーツを戴いただけだ。

 クラクシオン様も同様だ。

 毒見役の近衛騎士が困らないように、気を配っているようだ。

 毒見役は、クラース様が行っていたが、クラース様がいないので、クラクシオン様も気をつけている。

 クラース様は毒の耐性をお持ちだとか。

 毒の耐性を付けるために、毒を少量ずつ口にして、体を慣らせていくのだそうだ。

 何種類もの毒の耐性を付けるのは、まさに命がけなのだ。

 クラース様が、少量、口にすれば、安心できる。

 毒があるときは、クラース様が教えてくれる。

 クラクシオン様も毒の耐性を付けたらしいが、お世継ぎの問題も出てくるために、死なない程度にしか付けていないらしい。


「そろそろ、外に出るか?」

「はい」


 クラクシオン様にエスコートされながら庭に出ると、人が多くいた。

 暗闇で誰か分からないが、きっとそれが、このパーティーの醍醐味なのだろう。

 空を見上げれば、乳白色の満月が出ている。星も美しい。


「綺麗ですね。改めて、夜空を見上げる事はあまりない事ですもの」

「そうだな、日々の忙しさに、月を眺める事も忘れる」


 クラクシオン様は、わたしと手を繋ぎ、人混みの中を横断した。

 けれど、周りで話されている内容を耳にして、足を止めた。


「……皇太子殿下は、記憶を無くしたドゥオーモ王国に監禁され、第一夫人となった女と婚約したそうね」

「同情したんじゃないかしら?子供の頃、婚約者だったらしいから」

「幼い頃は神童と呼ばれた令嬢だそうですけど、婚約式で見た令嬢は、痩せた普通の令嬢でしたわ。少しお話をしましたけれど、ごくごく普通でしたわ」

「記憶を失って、特別な才能もなくされたのでしょう」

「傷物の令嬢など皇太子妃にする気が知れませんわ。この帝国の未来は期待できないかもしれないわ」

「血眼になって、娘を探していた父親が亡くなったというのに、ドゥオーモ王国の国王陛下が処刑されたときに泣かれていたとか。馬鹿よね、どっちが親かも理解できなくなったのかしら?」

「実の兄とも不仲だとか」

「不仲にもなりますわよ。実の母が亡くなって、そこで誘拐されたのに、暢気な馬鹿ね。父親も殺されたのも同然なのに、泣くなんて、ご両親も報われないわね」

 わたしの事が話題に上がっていた。

 皆さん、クスクスと笑っていた。

 社交界では、わたしの事は、こんな風に言われているようだ。

 反論しようもない。

 情けない。

 悲しい。

 心が折れそうになる。

 けれど、ここで泣いてはいけない。

 わたしは皇太子妃になるのだから、強くならなくては。

 少なくとも、人前で折れてはいけない。


「そこの令嬢達、言葉に気をつけてほしいものだ」

「クラクシオン皇太子殿下!」


 令嬢達が驚いて、声を上げた。


「不敬罪だ。捕らえよ」


 クラクシオン様は近衛騎士達に合図を送った。

 近衛騎士達が、ご令嬢達を次々に捕らえていく。


「どうぞ、お許しください」

「今後、この様な事は口に致しません」

「申し訳ございません」

「お許しください」


 令嬢は、後ろ手に手を曲げられて、悲鳴を上げる。


「クラクシオン様、どうぞ、お許しください。わたしの事を悪く言うのは仕方がない事ですわ。わたしは、異国に人質として捕らわれておりました。たとえ白い結婚だとしても、結婚をした身である事は変わりません。ウエディングドレスさえ、着たことがなくても、書類にそう書かれてしまえば、わたしは結婚をしたことになります。記憶を無くしたわたしには、どう頑張っても、母様が亡くなる場面しか覚えていないのですもの。思い出そうとしても無理なんです。後ろ指を指される事は覚悟の上です」

「マリアナ」

「こんな事で令嬢や貴族様を捕らえていては、キリがありませんわ。わたしは、もう折れたりしません。わたしを信じてくださるなら、どうぞ、捕らえられた令嬢達を解放してください」


 わたしは、クラクシオン様に頭を下げた。

 クラクシオン様は今までの和やかな顔はしていなかった。


「皆の者、よく聞け!マリアナは国際裁判所で婚姻無効の証明がされておる。文句を言う者は侮辱罪で捕らえる。幼い頃の事故により記憶喪失である。それはマリアナの責任ではない。文句があれば、直接、俺に言え」


 四人の令嬢は、拘束されて連れて行かれた。

 その様子を見ていた、客人が拍手をしてくださいました。


「大袈裟にしないで」

「マリアナのことは信じているが、ここは見逃すことはできぬ。あの令嬢達はマリアナを通して、俺を侮辱したのだ。次の代の皇帝陛下を侮辱したのだ。帝国を貶める事を人々が集まるパーティーで騒いだのだ。ここで俺があの令嬢達を見逃したとなれば、俺の立場はあの令嬢の言うように見られるであろう。何よりも皇帝陛下が決めたことに口出しする者は、帝国の蛮族である」

「はい、すみません」


 厳しいお言葉だった。

 確かに、この帝国で皇帝陛下がお決めになった事に口出しする者は、反逆者として捉えられても文句は言えないだろう。

 帝国は広い。

 その帝国を治めている皇帝陛下は、神と同等の扱いを受けていると、お妃教育で学んだ。

 皇帝陛下が白と言えば、白になる。

 それほどの力があるのだ。


「マリアナ、楽しんでいたのに、すまなかった」

「いいえ、わたしこそ、出過ぎた真似を致しました。もっとしっかり勉強を致します」

「十分に勉強はしている。焦る必要はない」

「はい」

「では、この話は終わりだ」


 クラクシオン様は、わたしを安心させるために、わたしの肩を抱き寄せた。


「さあ、もう少し、散歩をしようか?」

「はい」

「クラクシオン様、令嬢に罰を与えるの?」

「どうかな?俺はまだ修行の身だ。父に教わる」

「修行の身?」

「マリアナも修行の身であろう。皇帝の妻になる修行だ。母上や家庭教師に習っているだろう?」

「はい」

「俺は父に皇帝陛下になる事を学んでおる。時には非情にならなければならない事もあると思う。そんな俺を支えてくれる事も、俺の妻の仕事だ。勿論逆も然り。皇后が悩めば、寄り添う。苦しめば、助ける。互いに思い遣り助け合う事で、やっと成り立つのだ。だから、俺はマリアナが戻るのを信じて待っていた。俺は本当に好きな相手にしか、信じられない」

「クラクシオン様」

「好きだよ、マリアナ」

 額に唇が触れて、胸がドキドキと騒ぎ出す。

 唇は直ぐに離れて、クラクシオン様は、わたしを見つめている。

 わたしも目が離せなかった。

 わたしを見て微笑んだクラクシオン様は、わたしを引き寄せて抱きしめてくださった。

 すっぽりとわたしを包み込むように抱きしめられて、わたしは、クラクシオン様が好きだと思った。


「わたしに支えさせてくださるの?わたしでいいの?兄様に嫌われているわたしでもいいの?本当に過去を忘れてしまった私でいいの?後で後悔したなんていわない?」


 わたしは矢継ぎ早に次から次へと質問をしていく。


「アルギュロスに嫌われていても構わない。後悔などするもんか。皇帝陛下は孤独だ。愛する者がいなければ、到底やっていけない。俺を愛してくれ」

「愛しています」

「そうか、やっと素直になったな。俺は早めに結婚をしたい。もう誰にもマリアナを奪われたくはないのだ。いいか父上に言うぞ?」


 耳元で話していたクラクシオン様は、わたしをまた見つめた。


「ウエディングドレスは、もうできているかしら?」

「テスタが最初に持ってきた。早く身を固めろとな」


 わたしはクラクシオン様を抱きしめた。


「昔のわたしは分からないけれど、今のわたしは、とても寂しがり屋なの。ずっと孤独だったから。わたしを一人にしないでね」

「約束しよう」

「結婚承ります」

「よし、いいぞ。直ぐに結婚をするぞ」


 クラクシオン様は、またわたしを抱きしめた。

 二人で抱きしめ合って、そっとキスを交わした。

 頬が熱くなる。 

 照れくさくて、俯くわたしの手を、クラクシオン様は引いて歩き出す。


「戻るか?」

「はい」


 わたしは手を繋いで人の波を逆らうように歩いて行く。

 パーティーの主催者に挨拶を済ませてあるので、帰るのは自由のようだ。

 近衛騎士達が馬車の準備を始める。

 護衛された馬車に乗り、わたしはクラクシオン様に抱きかかえられるようにして宮殿へ戻っていった。

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