桜の奇跡 ~赤い糸の絆~

綾月百花   

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桜の奇跡  ~赤い糸の絆~

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 医師歴より看護師歴の長い異色の救命救急医である原晃平は、石垣総合病院救命救急センター(ER)に身を置いている。
 双葉総合病院で看護主任をしていたころと、彼の雰囲気はわずかに違う。もともとスリムだった体が更に引き締まり、優しく穏やかだった風貌にわずかだが精悍さも加わった。
 ひとつの恋が終わり病棟移動と同時に師長を命じられたが、その任務も看護師としてのキャリアも捨て去って、大学の医局に入りなおしたのである。
『環境を変えることはいいことだ』
 当時、同じ双葉総合病院にいた、消化器外科の加納澄人の御説である。
 原は元々医師免許を持った看護師だった。
 加納に前期研修を頼み、彼の勧めで石垣総合病院に籍を移した。専攻は彼と同じ消化器外科だ。
 後記研修をこの病院の救命救急センターに三年身を置いた。ドクターヘリも常備されているこのセンターでフライトドクターの資格も取り、ヘリにも搭乗するようになっている。
 忙しすぎるセンターの仕事は、雑多なことを考える余裕を与えてくれない命の戦場だったことも、原の精神を落ち着かせている。
 手術着にもなるブルーのスクラブを身に着け、白い白衣のズボンに長白衣をふわりと纏い、首からは赤のネックストラップをかけている。先端には院内PHS。それはスクラブの胸のポケットに突っこんである。ヘリ当番の時は、もう一台PHSを持つことになる。
「救急車到着です」
 風よけになっている二つの自動ドアが順番に開き、医師と看護師が救急車を出迎える。大きな庇が出ているので雨の日も濡れない。その場所に救急車がバックしてくる。
 凭れていた壁からゆっくり体を起こすと、救急車から降ろされてきた患者へと向き直る。
「わかりますか、病院に到着しましたよ」
 原はすぐに患者のもとへ駆け寄る。
「バイタルとって、18Gサーフロ針で一号液繋いでください」
 ステートをつけて、診察を始める。
「お疲れ様です」
「お疲れ様です」
「上腹部痛を訴えています。到着時、鮮血の嘔吐あり、血圧は―――」
「わかりました。あとはこちらで診させていただきます」
 救命救急センター長の小野田が、救急隊員からの申し送りを聞き、初診室に入ってくる。
 初診室は大きな部屋で、外傷で運ばれてきた患者を三人は診られるようになっている。緊急時の手術やダメージコントロール(致死的状態からの生態を維持するための緊急手術)をすることもできる部屋だ。
 初診室の他に個室の診察室が三つ並んでいる。点滴室とCT、MRI室、検査室が設備された恵まれた環境だ。
「どんな感じ?」
 のんびりとした小野田の言葉に、診察を終えて記録を書きはじめた原が顔を上げる。
「食道静脈瘤か胃穿孔かと思われます。消化器外科の加納先生が診てくださるというので、内視鏡室に行ってきます」
「はい、いってらっしゃい」
「原先生、血液検査結果出ましたっ」
「はい、ありがとうございます」
 検査データーをさらっと見て、指示を出す。
「輸血準備しておいてください」
「わかりましたっ」
 ナースの加藤が元気よく答える。
「南さん、バイタル安定してたら、内視鏡室に移動するよ」
「安定してますっ」


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