桜の奇跡 ~赤い糸の絆~

綾月百花   

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桜の奇跡  ~赤い糸の絆~

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 火照った体が熱くて仕方ない。
 冷たい場所を探すように手を伸ばす。
 ひやりとした感触が気持ちよく寝返りを打つ。
 微かなミントの香り。いい香りだ。爽やかで懐かしい香り。
 ぼんやりと目を開けると、見たこともないカーテンが見える。
 くるりと仰向けになり天井を見上げても、見たこともない天上だった。
 灯りはベッドの脇に洒落た電燈が点っていた。
「あれ、ここどこ?」
 ゆっくりと体を起こすと、ふわりと眩暈がして、すぐに倒れてしまう。
「あれ?どうしたんだっけ?」
「目を覚ましたのか?」
 ゆっくりと近づいてくるシルエットには見覚えがあった。
 幼馴染で親友の加納澄人だ。
「すみとぉ、なんかのみものちょうだい」
「相当、酔ってるな。ほら持ってきた。ミネラルウォーターだ」
 原の体を支えるように抱き起して、ペットボトルの蓋を開け、口元に近づけてやると、両手でペットボトルを持って、飲み始める。
 反らした喉は白くて細い。
 片手で押さえたら絞まってしまいそうだ。
「ありがとぅ。なんかくらくらする」
「ちょっと飲み過ぎたな?」
「おさけ、のんだんだっけ?僕、そんなにつよくないのに」
 ふわっとあくびをして加納の胸にパフッと凭れかかる。
「すみとぉ、なでてぇ」
 舌足らずの口調で甘えてくる原は、小学生のころまで後退しているようだった。
「いいよ。どこ撫でてほしいの?」
「あたまなでて、きもちよくなるまで」
「ちゃんと掴まってろ。ベッドから落ちないように」
「わかったっ」
 原の手が素直に加納の背中にまわる。
 髪を撫でてやると、顔をぺったりと加納の胸に預け、おとなしくしている。
 半覚醒なのか、目を閉じてうつらうつらしている。
「すみとぉがいるのに、なんでさみしいのかな?」
「さみしいのか?晃平は」
「心の中に誰もいないんだ・・・」
 すっと体が揺れる。
 倒れそうな体を抱き包む。
「すみとといっしょにいたときは、ずっとすみとがいたんだ。ずっとすみとといいしょにいたかった。・・・このまますみとといっしょにいたらじぶんがおかしくなっちゃいそうだったから、でていったんだ」
「俺が心にいたから出て行ったのか?」
「ぼくはすみとのそばにいちゃいけないんだって。だれもいないより、すみとがいてくれたらさみしくない・・・でも、こころがさむいんだ」
 胸を押さえ、原の体がふわりと揺れる。その体を抱きしめながら、原の心の叫びに耳を傾ける。
 いつの間にか原の綺麗な目から涙が流れていた。
「だれもいないのは、さみしい」
 たくさんのストッパーがかけられた心の扉が、全開になっている。
 素直な言葉が溢れだしてくる。
 ゆっくり髪を撫でてやると、小さな嗚咽が少しずつ治まっていく。
 原が何を悩んでいるのか、加納は知らない。
 どうして家を出て行ったのかも、見当もつかない。
 聞きたくても、原は何も言わない。
 原のこんな涙も初めて見た。
 心の叫びを初めて聞いて、胸が痛くなる。
「どうして俺のそばにいたらいけないんだ?」
「すみとは・・・」
 言葉にできず、再び嗚咽を漏らしだす。
 泥酔していても言葉にできない想い。それはいったいなんだろう。
 しっかり抱きしめて、さらさらな髪を梳くように撫でる。
 しばらくそうしていると、原はまたうつらうつらとしてくる。
 不意に目を開けて、真っ直ぐ見つめてくる。
 とろりとしていても吸い込まれそうなほど綺麗な瞳だ。
「すみとぉ、きすして」
「いいのか?キスしても?」
「すみとは僕をきらい?どこかに置いていってしまう?」
「晃平を置いて、どこにも行かない」
 原は嬉しそうに、うふふと笑う。
 ずいぶん見ていなかった原の笑顔だ。
「それなら約束のキスして」
 話し方が高校生の頃の晃平のそれに変わってきている。
 そっと頬を撫でて啄むように、一度キスすると、原は不満げに頬を膨らませた。
 拗ねている顔の原の顔は、どんな女性よりも色っぽく愛らしい。
 凛としたピンクの薔薇のような淑やかさに上品な顔立ち。
 サラサラな髪が頬にかかり、小さな顔をより小さく見せている。
「昔はそんなキスじゃなかった」
 言葉が戻ってきている。
 大学生の頃の原の姿が、そこにあった。
「ねえ、僕のことまだ抱きたいって思ってる?」
 今度は原からキスが落ちてきた。
 熱い舌が絡まってくる。
 吐息を漏らしながら互いに抱きしめ合う。
「ねえ、嫌って言わないの?迷惑って言わないの?」
「言うわけがないだろう」
「それなら抱いて」
「目を覚ました時、後悔しないのか?」
「もう酔ってないよ。ずいぶん目が覚めた。体が熱くて寝られないくらい」
 原の手が誘うように加納の首に巻きつけられる。目じりにキスをして、頬にキスをする。
「遠慮しなくていいんだな?」
「いいよ。空っぽの心の中を澄人で埋めて」
 原の体をそっとベッドに沈める。シャツのボタンを外し、下着に身に着けているTシャツごと脱がせ、首にキスを落とす。チクリとしたのは歯を立てたのだろうか、
「マーキングつけた」
「痕つけないでよ、センターは早着替えしなきゃいけないんだから」
「だからマーキングだ。晃平に恋人がいるって皆に知らせないと、また出遅れる」
「またぁ?」
「出遅れたんだよ。出遅れたって言うか、油断してたんだ」
 ズボンのボタンをはずして、一気に脱がせてしまう。
 生まれたままの姿になって、お互いに言葉をなくす。
 互いに十一年という月日を思い知る。
 色白の原の素肌は、きめの細かい美しい肌をしていた。
 男性である以上、胸は平らで、男のシンボルもあるわけだが、シルエットが綺麗で触れていいのか迷うくらいだ。
 加納の体は筋肉がつき、腕も太い。
 大胸筋も腹直筋も上腕二頭筋も、しっかりしている。
 体全体が鍛えられているようで、立派な筋肉がついていて美しい。
「すみとぉ、筋トレしてるの?」
「ジムに週二回ほど通ってる」
「そっか、僕も行ってみたいな。連れてってよ。いいな、筋肉、綺麗についてる」
「いいぞ。晃平が仕事から離れてくれるなら、連れて行ってやるよ」
「嬉しいな」
 逞しい大胸筋にキスをしてくる原を、くるり横向きに抱き、そっと首筋から胸をなぞる。胸の尖りに到着した時、赤く色づいた胸の尖りを指先でさらさら撫でると、「んっ」と甘い声が漏れだす。
「相変わらず、胸は弱いのか?」
「どうなんだろう?澄人と別れてから、・・・誰ともしてないから」
「俺たち別れたのか?」
「十一年も離れていたんだ。別れてて当然・・・」
「別れてなんかない」
 胸の先端をギュッと摘まれて、体がひくりと震えた。その隙に、背後から下半身の草むらをかき分け、大切な場所に指が絡まってくる。そっと撫でられ、優しく温められていく。
「別れたんだよ。僕はそのつもりで家を出たんだ。今日、こんなことしてるのは、僕が酔ってるからだよ」
 太腿も繁みの中も濡れてきていた。
「きもちいいよ、すみとぉ」
 ふっと目を閉じて、瞬間的に目の前がちらちらする。
 疲れていて酔っているのに、頭だけが冴えて眠れない。
「気持ちよくして、眠らせて、ああんっ」
 目の前がふわりと白くなって、体から力が抜けていく。疲れた体を横たえている原の体をそっと仰向けにすると、膝と膝の間に体を滑り込ませてくる。ベッドサイドにあるサイドテーブルからハンドクリームを取り出すと、それを手に取り、ナイトテーブルの上にハンドクリームを置いた。
 ひんやりとした感触が蕾を咲かせていく。
 実に十一年ぶりだ。
 もう二度と抱かれることはないと思っていたのに、戻ってきてしまった。
 体の中に指が入り細かなひだを拡げていく。
「平気か?」
「うん。少しくらい痛いくらいがいい。心が忘れないように」
「何度でも抱き合えばいいだろう?」
「一度で充分だよ。もう来て」
 まだ充分ではないのに、原は足を開いて、加納を迎え入れた。
 十一年分の痛みは、甘い疼きを伴ってやってきた。
「あっ、はぁぁ・・・」
 徐々に拡げられる痛みは熱と一緒にもどかしさを伝えてくる。
「やっぱり晃平の中は最高だね」
「抱きごこち、変わったでしょう?」
「少し痩せたね」
 そっと腰のラインを撫でられ、すっと目を閉じる。
「抱き心地悪くなったでしょう」
「悪くないよ。晃平の中は昔と変わらず、いや、昔より熱く溶かされそうだよ」
「僕が眠ってしまわないうちに、ちゃんと抱いて」
 ふと意識が途切れそうになる。
 それを意思の力で開かせている。
 体が揺さぶられ体の奥に律動を感じて、彼の体を掻き抱く。
「晃平、好きだよ」
「僕は分からない。もう好きとか愛してるとか、どんなものだったのか、忘れてしまった。だから、なにも返せない」
「晃平、こうへい・・・何も返さなくていいんだ」
「ぁぁぁっ、・・・あああん」
「思い出させてやる。絶対にもう一度、俺を好きにさせる」
「んんんんっ・・・あーんっ」
 悲鳴めいた甘ったるい声が、明け方近くまであがっていた。
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