桜の奇跡 ~赤い糸の絆~

綾月百花   

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桜の奇跡  ~赤い糸の絆~

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「原先生、5分後救急車はいります」
 扉をノックされて、原は目を開けた。いつの間にか眠っていたようだ。
「はい。今行きます」
 臥せていた机から体を起こし椅子から立ち上がると、洗面台に向かって顔を洗った。
 目覚めは悪くないはずだが、ぼんやりしている顔は、誰にも見せたくはない。
 机の上のPHSをポケットに突っ込み、ステートを首に下げると扉を開けてセンターへ降りて行った。


 救急車は多重事故の患者が五人。大きな怪我はなく、軽い頸部痛だった。レントゲン撮影をして事故診断書の記入をする。翌日、整形外科にかかるようにと伝えて終えた。
外来は途切れることなく患者が来た。
「呼吸困難を訴えている8歳の女児です」
「ぜんそく既往は?」
「はい。こちらの小児科に通院中です」
 カルテの確認を遡りながらしていく。
 頻繁に発作を起こしている患者だ。
 吸入で治まっているときと、点滴までしているときと様々だった。
「患者さん入れてあげて」
 センターの診察室である。
 8歳の平均的身長より幾分小柄な体の女児が、体を前屈させ咳き込みながら診察室に入ってきた。付添は彼女の母親だ。
「定期のお薬は毎日、決まった時間に飲んでいますか?」
「はい。吸入もとても上手にしてくれる子なんです」
「南さん、サチュレーション計って」
 指先をパチンと挟むだけで、動脈血酸素飽和度が計れる。
「SPO2、87%です」
「胸の音を聞かせてくださいね」
 ステートを耳につけて、胸の音を聞くと、独特な喘鳴が聞こえる。
「苦しいね」
 少女が小さく頷いた。
「気管支拡張剤の吸入してみましょう。ネプライザーおねがいします」
「準備するので待合室でお待ちください」
 南が患者を見送る。
 母親が少女を抱き上げて診察室を出ていく。
「今日の待機に小児科の先生いましたっけ?」
「宇佐美先生がいらっしゃいますね」
 壁に貼られた勤務表を見ながら、南が答える。
「吸入で治らないようだったら、コールします。点滴でコントロールしないと危ないと思いますので。とりあえず、定期的にサチュレーション計ってください」
「わかりましたっ」
 南が患者のもとへ小走りに駆けていく。


「どうかな?少しは楽になった?」
 少女は小さく頷いた
 サチュレーション95%まで上昇です」
 ステートを当てて、胸の音を確かめる。
 ぜんそく特有の喘鳴は消えていた。
 点滴は必要なさそうだ。
「今のところは落ち着いたようなので、帰ってもらって大丈夫です。また発作が起きるようなら、いつでもきてください」
「はい。ありがとうございました」
 若い母親はホッとしたように、子供を抱き上げ待合室の方へ歩いて行った。


「先生、患者さん途切れました。少しお茶にしましょう」
 診察を終えて、カルテの記載をしていると、ナースの南が声をかけてきた。
「それなら温かい紅茶もらえますか」
「今日はみなさん紅茶の気分なんですよ」
「紅茶は気持ちが落ち着きますからね」
 センターの仕事は流動的なので、救急車が入らず急患が来なければ、お茶の時間になる。

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