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桜の奇跡 ~赤い糸の絆~
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しおりを挟む原と加納は同じ就職先に合格していた。原は消化器内科に、加納は消化器外科に進むことになった。卒業試験はふたりとも良い成績で突破した。国家試験も合格できると確信していた。
国家試験の合格発表の直後、加納の母親から携帯に連絡が入った。
呼び出されたのは、都内のホテルの一室だった。
加納の母親には幼いころから、可愛がってもらっていた。お互いの家庭に泊まりあったりもしていた。同じ医学部に進学すると決めてからは、原のことも気遣ってくれたし、応援もしてくれていた。それなのに、加納の母親は険しい顔で、原の目の前に立って、いきなり頬を叩いてきた。
「澄人を誘惑したのは、あなたね」
今まで聞いたこともない冷たい声だった。
「どんな言葉で、澄人を唆したの?」
「なんのことを言っているんですか?」
加納の母は、頬を引き攣らせた。
いつも綺麗に化粧をして美しい顔を、歪ませている。
「私に隠し通せると思っているの」
また頬を打たれた。
頬が痺れるように痛い。
「澄人のお母さん?」
「汚らわしい。あなたにお母さんなんて呼ばれたくはないわ」
「・・・・・・」
「あなたが澄人を誘惑したことは分かってるのよ」
重ねて言われた誘惑という言葉で、原はピンときた。
原と加納の付き合いは、幼稚園の頃からだ。好きが特別な好きだと気付いたのは、中学生の頃だった。特別の好きをふたりであたためて、恋愛感情だと確かめ合ったのは、高校一年の時だった。それ以来、ふたりは恋人として付き合ってきた。
進路も自分たちで決めて、一緒に歩いて行こうと約束していた。
「あなたは妾腹の子ですものね。卑しい血が通っているものね」
「おばさん。どこで、それを」
「調べたに決まっているでしょう」
原の家庭は特殊な家庭だった。不倫でもない。ただ両親は結婚しなかっただけだ。認知はされていた。医学部の資金は亡くなった父の遺産から出してもらった。年の離れた妹も、同じ道に進む予定だ。
亡くなった父は、原の親子にとても優しかった。母のことを好きだからと、物心つく前から、母の家で一緒に暮らしていた。総合病院の理事長だった父は、毎月生活費を入れてくれていた。だから母は働かなくても育児ができた。生活は豊かだった。高校から都内の高校へ通いたいと言ったら、マンションを手配し、学費も生活費も出してくれた。父が倒れてからは、母が介護をしていた。看取ったのは母だった。原はふたりに愛情をこめて育てられた。だから、今でも恥ずかしいとは思っていない。どんな形であっても家族だったからだ。
「男を騙して、貢がせた。卑しい母親の子供ですもの。純粋な澄人を誑かすことくらい容易かったでしょう」
「・・・おばさん」
「澄人を汚して、あなたはどんな責任をとってくれるの?」
「僕たちはお互いに、好きあっているんです。汚らわしい関係なんかじゃありません」
「なにが好きあっているよ。思い違いに決まっているでしょう」
「・・・・・・」
「そもそも澄人には、うちを継ぐ役目があるのよ。男のあなたが伴侶であっていいと思っているの?いずれ捨てられる。そんなことも分からないほど、子供なの?」
「・・・・・・」
原は、もう反論する言葉を失っていた。
「見せてあげましょうか?澄人の婚約者。とても聡明で美しい子よ。澄人が医者になったら結婚します」
見せられた写真は、確かに美しい女性が映っていた。
「あなた就職先も澄人と同じ病院ですって?どこまで澄人を汚すつもりかしら」
「・・・・・・」
「責任の仕方、わかるかしら?」
「どうすれば許してもらえるんですか?どうしたら、認めてもらえますか?」
「認めるわけがないでしょう」
ふたりは本気で愛し合っていた。
赤い糸で結ばれて、一緒にいるんだといつも話している。
「医師免許返上なさい。医者になることは認めません」
「なんで、なんで、そこまでおばさんが決めるんですか?」
「澄人を汚したあなたが憎いのよ」
「え・・・」
憎い。人に憎まれている?
真っ直ぐに生きてきた原にとって、人に憎まれることは初めてのことだった。
「澄人の将来を台無しにしないで」
「・・・・・・」
「承諾しなければ、あなたの母親に賠償金を請求します」
「賠償金って・・・」
「当たり前でしょう。澄人を汚したのは、あなたでしょう。自分の子供の不始末は親がするに決まっているでしょう。そんなことになったら、あなたの妹の将来もどうなるか分からないわね」
「・・・・・・」
「澄人の前から一生消えて。二度と澄人の前に姿を現さないと誓いなさい」
「いやです。そんなのいやです」
「分からない子ね」
パンと大きな音が頬でした。三度も頬を叩かれた。ここに来る前に、加納に優しく撫でられた頬を。
頬が焼けるほど熱く感じる。
「そんなに男が欲しいなら、好きなだけ男をしゃぶりなさい」
加納の母親の後ろに控えていた男が、前に出てきて、原の肩を突き飛ばす。
体がベッドに投げ出され、上から押さえつけられる。
「やだ。やめて」
犯されるのだと本能的にわかった。
「澄人は、今からここのホテルで婚約者と食事会よ。そのあとで、ふたりでデートでしょうね。きっとロビーにいるわ。あとで、自分の目で確かめるといいわね」
シャツが破かれて、ズボンは剥ぎ取られた。男ふたりに押さえつけられた姿を写真に撮られた。
「いや、いやだ」
いきなり男根を埋められて、泣き叫んだ。
「あなたがどんな淫乱か、ちゃんと写させてもらいますから。約束破ったら、澄人に見せます。婚約者のいる澄人が、そんな写真見たところで、なんとも思わない。汚らわしいあなたに、二度と触りたいとも思わないでしょうね」
「やだ、やめて。やめてよ」
「あなたも、汚れた体で、二度と澄人を誘惑しないわよね。また誘惑するようなら、今度は犯すだけではすませないわ」
もうひとりいた男に、カメラを渡すと、加納の母親は部屋を出て行った。
何度もフラッシュがたかれた。
「助けて、もう、やめて」
おもちゃのように三人になんども犯されて、数時間後やっと解放された。
飲まされた男たちのものが気持ち悪くて、トイレで吐くものがなくなるまで吐いた。
やっと重い体を引きずりながらホテルのロビーに降りたとき、加納の姿を見つけた。
加納の母親が言ったように、美しい女性と一緒だった。
優しく穏やかな笑顔は、自分のものだと思っていたのに、加納は一緒にいた女性に笑いかけていた。
それだけで充分だった。
原の心は死んだ。
汚された体。
失われた愛情。
空っぽになった心。
何も信じられなくなった。
その日、誰にも行先を告げずに、ふたりの家から姿を消した。
加納がどんな手を使って追いかけてきたのか、原は知らない。
知ろうとも思わなかった。
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