桜の奇跡 ~赤い糸の絆~

綾月百花   

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桜の奇跡  ~赤い糸の絆~

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 その日は快晴で、ヘリ日和だった。
 有視界飛行が原則のドクターヘリは、天候不良の日は飛ぶことができない。
 メンバーの一人が季節外れのインフルエンザにかかってしまって、ヘリのローテーションが更に不規則になってしまった。
 もともと人数がたっぷりいるわけでないセンターの医師は、急ごしらえの勤務表を見て、顔を顰めた。
 初診室で患者を診終わって、カルテ記載をしているとき、ドクターヘリ用のPHSが震えた。
 ―――ピピピピ!
「センター原です」
 記録をしながら、原は素早く電話に出る。
『原先生、国道にて多重事故です。軽自動車がトラックに追突しています。現在消防レスキューによる救出活動を行っています。他にも乗用車を巻き込んで5台ほど破損している模様』
「エンジンスタート」
 内容を聞き取る間に、処方まで書き終えてエンターキーを押した。
「小野田先生、ドクターヘリ行ってきます」
 初診室に入ってこようとしていた小野田に声をかける。
「はい、行ってらっしゃい」
 マイペースなセンター長は、おっとりと手を振って見送ってくれる。
 管制塔にある更衣室で、フライトスーツに着替える。ドクターズバックを抱えて、ヘリの方へ走り出す。ナースの南が不安そうに立ち止まった。
「南さん、どうかしましたか?」
「少し怖くて」
「僕も怖いですよ」
「原先生も怖いと思っていらっしゃるんですか?」
「当然でしょう。現場に行ってみないと、どんな状況か分からないのに、先に知らされる内容は、とても過酷です。これで怖くないと言ったら嘘になります。もし、どうしても怖いのでしたら、他のナースと代わってもらってもいいと思いますよ」
「原先生について行きます。分からないときは教えてください」
「お互いに頑張ろう、南さん」
「はい、原先生」
 ヘリの中に南を入れて、原が乗り込む。扉を閉めて、シートベルトをはめる。
「ドクターヘリ出発」
 ヘリがゆっくり上空に飛び立っていく。
『ランデブーポイントは、飲食店の駐車場を借りることができました。事故現場からは目と鼻の先です』
「了解。患者の状態と人数を教えてください」
『わかっているだけで、五名の傷病者がいる模様。食い込んだ軽自動車は救出中。救急車も向かっています』
「了解」
「原先生、国道がかなり渋滞しています。事故現場見えますよ」
 窓から覗きこむと、先頭にかなり潰れた車とそれに続くように、何台かの車が、とっ散らかっているように先頭があちこちむいているように見えた。
「南さん、ガーゼ多めにお願いします」
「はぁい」
「上空に到着しました。下降します」
 ゆっくりとヘリが降りて行く。
 タッチダウンとともに、扉を開いた。
 轟音と砂塵が舞う中、ドクターズバックを持った原は走り出した。後ろから南もついてくる。
「石垣総合病院救命救急センター、フライトドクターの原です。こちらはフライトナースの南です」
「よろしくお願いします。現在の状態は、食い込んだ軽自動車の救出が一番の目標になっています。傷病者は集めています」
「わかりました。案内してもらえますか?」
 消防隊員に誘導されて事故現場を歩いて行くと、傷病者が集められていた。
 座り込んでいる人の中に、倒れている人がひとり。
「すみません。先生。こちらの方が急に意識消失です」
「失礼します。名前はわかりますか?」
 男性に寄り添うように座っている女性に話しかけると、
「私は加納由紀子。旦那は加納雄介」
「え?」
 聞き覚えのある名前に、原は患者の顔を見た。
 見間違えるはずもない。
 何度も悪夢で魘されている。
 今でも忘れることができず、眠るのが怖くて仕方がない。
 加納の母親の顔だ。あの時は綺麗な顔が歪んでいた。
 十一年ぶりの再会に、胸がキリキリと音を立てた。
「澄人のご両親?」
 思わず加納のファーストネームが口からこぼれた。
「あなた、原晃平?」
「はい。ご無沙汰しています。お父さんの状態を確認させていただきます」
「お父さんなんて呼ばないで。汚らわしい」
 いきなり頬を叩かれて、原は唖然とする。
 頬が熱い。
 ひどく熱い。
「他の医者はいないの?この人だけには診てもらいたくない」
 南も呆然と立ち尽くす。
「他のドクターはみえません」
 消防士が間に入る。
 頬が熱いほど痛んだ。
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