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桜の奇跡 ~赤い糸の絆~
4-3
しおりを挟む水を取り替えられて、嬉しそうなピンクの薔薇は、凛と咲いている。
部屋には甘い薔薇の香りがしている。
加納がくれたピンクの薔薇の花束。
『植物園に行けるまで、これで我慢してくれるか』
植物園に行けなくても、加納の気持ちだけで充分だった。
「澄人は、今日は外来?」
「午前は外来で、昼からはOP(手術)だ」
「忙しいね。頑張ってね」
「晃平は、今日はどこだ?」
「今日はね、初診室とヘリ当番」
「晃平こそ、頑張り過ぎて倒れるなよ」
「最近は倒れてないよ。ちゃんとご飯食べるようになったからかな?」
今日の朝食はチーズを挟んだオムレツとコンソメスープ。簡単なサラダとヨーグルト、トーストとコーヒーだ。
朝食はふたりで、手早く作る。
「さて、僕はそろそろ行くけど」
「俺も行くよ。一緒に行こう」
お皿を集めて、キッチンに運ぶ。
原はそれを手早く洗う。その隣にきて、加納は原の頬にキスをする。
「一緒に出勤してもいいのかな?」
「なにか、問題でもあるのか?」
「問題・・・」
原はすっと目を伏せて、首を振る。
ふと嫌な思い出が頭を過る。
洗い終わって、水道を止めるとタオルで丁寧に手を拭く。
濡れたままにしておくと手が荒れやすいからだ。
「俺たちの関係に誰も口を挟ませない」
加納の言葉は、勇気をくれる。
「晃平は俺たちの関係は、やましい関係だと思っているのか?」
「思ってないよ。でも、誰もが認めてくれるとは限らない」
「言いたい奴らには、言わせておけばいい。ほら行くよ」
「ああ、うん」
加納はブリーフケースを持つと、原の右腕を軽く引く。原も鞄を持つと後を追う。
「引っ越し、そろそろ考えてもいいんじゃないか?」
玄関を出る前に、唇に加納の唇が触れる。
軽くキスをして、玄関が開かれた。
「毎日、着替えを取りに行かなくてすむだろう」
「・・・考えておく」
加納の後から部屋を出て、一緒に隣を歩く。
「今日は暑くなりそうだ」
「そうだね」
春はあっという間に過ぎていく。
肌寒い日と、夏のような日がやってくる。寒暖の差も大きいので、体調を崩しやすくなる。センターは自然に忙しくなる。
「仕事が終わったら、今日はどこに食べに行く?」
「前に一緒に行ったイタリアンのお店。ワインが少し飲みたいな」
「じゃあ、決まりな。今夜はイタリアンだ。今から夜が楽しみだな」
「そうだね」
時々触れる指先が熱い。
「うん、そうだね。早く夜にならないかな」
一瞬指が絡んで離れていく。
隣を見上げると、加納がウインクしていた。
小さな悪戯が成功したような顔だ。
昔と変わらないハンサム顔に、原は綺麗な微笑みを返した。
この時間が永遠に終わらなければいいと願いながら。
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