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桜の奇跡 ~赤い糸の絆~
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しおりを挟む「約束のイタリアン、必ず食べに行こう」
静かに頷く。
そっと温かな腕の中で身動ぎした。
どこかで加納の母親が見ていそうで、怖くなってくる。
震えている自分に気づく。
寒くて震えているんじゃなかった。
怖くて震えていることに気づくと、もっと怖くなる。
「雨降りそうだから、今日は帰るね。澄人も家に帰って。いろいろあって疲れているでしょう」
「明日、また会えるよね?どこにも消えたりしないよね?」
別れを意識すると、涙がぽろぽろと流れる。
「さすがに、仕事を欠勤することはできないよ。人手足りてないから。これでもチームの一員だしね」
原は加納の胸を押して、体を離した。
『あの人には逆らわないほうが身のため』
夢の中で見る。男が最後に言い残していく言葉が、耳に蘇る。
怖い。逃げ出したい。
もう、あんなふうに犯されたくない。
「・・・おやすみ」
「待って」
去って行こうとする後ろ姿に、加納は追いすがるようにしながら原の両手を包み込むように握りしめた。
「晃平」
「なに?」
「父を助けてくれて、ありがとう」
「仕事だよ。僕は蘇生までしかしていない」
「蘇生してくれたから、手術ができたんだ」
救命救急医の仕事は命を繋ぐことだ。
適切な治療を受けられるように、生きて連れ帰ることが、一番の仕事だ。
「早くよくなるといいな」
「そうだな」
繋ぎとめられなかった命と、繋ぎとめられた命。
ピリピリするほどの精神の緊張。
生きていると感じられる一瞬。
そんな場面でしか、自分が生きていると感じられなくなっていた。
『ありがとう』
その一言で、一日の疲労が吹き飛ぶほど嬉しい。
生きている意味が、そこにあるから。
「ありがとうって言ってくれてありがとう。今日は怖くて眠れないかと思ったけど、眠れるような気がしてきた」
そっと握られた手を解こうとするけれど、加納は手を離してはくれなかった。
加納は真っ直ぐ原を見ていた。
「澄人?」
「頼みがある。一緒に暮らしてくれないか」
「そんなことしたら、澄人のお母さんに僕は何をされるのか分からないよ」
言葉にしてから、ハッとする。
十一年前の脅迫と心と体に刻まれた傷が、素直な心の内を話してしまう。
「だからだ。絶対に不安にさせない。絶対に守りたいんだ。もう手放したくない」
「でも、そんなこと」
「できるはずがないって?母は犯罪者だ。警察に突き出してやりたいほど卑劣な犯罪者だ。そんな犯罪者の息子の俺では晃平を守れないと思ってる?」
原は左右に首を振った。
「目に見えるほど、怯えて震えている晃平をひとりになんかしたくない」
「怯えてなんて・・・」
「俺に嘘はつかないで」
「・・・・・・怖い」
震えている体を、加納は包み込むように抱きしめる。
「必要最低限のものだけ持っていけばいい」
「・・・荷物取りに戻るよ」
「手伝うから」
何度も頷くと、やっと加納は原の拘束を解いてくれた。
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