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桜の奇跡 ~赤い糸の絆~
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しおりを挟む桜の塩漬けを水につけ、塩抜きする。
開花するように開いた花弁は、桃色だ。
桃色の花びらに、布巾を押し付け水気を取った。
桜あんと水を鍋に入れて、かき混ぜる。
混ざったところでコンロに火をつけ、沸騰させていく。
ちょうどいい加減にとろみが出るまで、かき混ぜていく。
水気を切った花びらを混ぜ合わせると、ピンクの桜あんに桃色の花びらが舞う。
白い器に盛り付けると、ピンクが鮮やかに見える。
焼いておいたお餅を、そっと浮かせる。
お餅の上にも花びらを散らせる。
お茶は、桜茶だ。
満開の花びらが舞う、春の名残。
「澄人、できたよ」
ダイニングテーブルで待っていた加納の前にそっと置く。
春の名残の桜のお汁粉と花びらのお茶。
「綺麗だね」
ふたりで並んで、そっと口にする。
甘い香り。
「おいしい」
加納の嬉しそうな顔を見るだけで、原は嬉しくなる。
「おいしいね」
甘いピンクのお汁粉を食べながら、また一緒に暮らし始めたのだと改めて思う。
「また晃平の手つくりの料理が食べられるなんて嬉しいな」
「まだお汁粉しか作ってない」
大袈裟に褒められて、照れくさい。
「桜の花」
「桜だよ」
「塩漬けにしたんだな」
「ほんとは花びらじゃなくて花を摘むらしいんだけど、咲いてる花を摘むなんてできないから、散ってくる花びらをハンカチを拡げて集めたんだ」
「効率悪いな」
「少しだけでいいと思ったんだ」
時間をかけて作った桜の塩漬けは、一回分のお汁粉でなくなった。
「思い返すのは一度でいいと思ったんだ」
まだ桜が咲いていた頃は、加納との距離は遠かった。
今は、また一緒に暮らしている。
「俺は何度も晃平のことを思い返していたよ」
「澄人が僕を追いかけてくれなかったら、僕たちは、もう一度交わることはなかった」
「諦められるわけがない」
加納はいつも意志が強い。
その意志の強さに、いつも引っ張られてきた。
「俺たちは赤い糸で結ばれているんだぞ」
「どの指かな」
目の前に両手を開いて見せる。
外科医らしい、すらりとした指先がそこにあった。
加納の手が、するりと左手の薬指に触れると、そこにはシンプルな指輪がきらりと光っていた。
「澄人」
「お揃い」
いつの間にか、加納の左薬指にも指輪がはまっていた。
「僕たち、普段ははめられないのに」
「結ばれているっていう気持ちの問題かな」
「ありがとう。大切にする」
触れ合うキスは桜の香りがした。
「澄人。僕を追いかけてくれてありがとう」
「いつも一緒にいよう。どんなことがあっても」
指輪をはめた指と指が絡み合う。
吐息を分かち合いながら、赤い糸が強く結び合った。
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