59 / 61
番外編 クリマ・オペラシオン子爵令嬢 私は華よ
5
しおりを挟む
クリスを亡くしてから、私はパンケーキの店で働いた後、酒場の仕事も始めた。
酒場には、騎士団の皆さんが訪れる。
初めのうちはクリスの名前も出ていたが、月日が経つほどに、橋の崩落事故の話はされなくなっていった。
それを寂しく思う。
モテ期は終わったようで、昔に比べると男性に声を掛けられる頻度は減った。
彼氏はいない。
ラルムが時々、私の様子を見に来る。
時々、誘ってくれる。
そんな時は、ラルムと出掛けたりするが、特に変わったイベントがあるわけでもない。
一緒にクリスの墓に参って、クリスが元気だった頃の話をする。
あっという間に、21歳の誕生日が迫っていた。
まだ子爵令嬢で居させてくれるのは、私が働きに出ていて、実家からお金をもらっていないからだと思う。
20歳も終わる頃、ある噂を聞いた。
『イグレッシア王子が定期的にお茶会をしているらしい。相手は白い結婚詐欺事件で有名になったマリアの化粧品の店主らしい』
『王妃様が美の称号を与えた令嬢らしい』
『マリアの店主には、侍女がいないらしい。性格が悪いのかもしれないな』
『マリアの化粧品は、父親の領地に立派な工場があるんだってさ』
『工場の掲示板にエステティシャン募集って書いてあったのを見たよ』
騎士団の皆さんはいろんな噂をしている。
私は化粧品に興味はなかった。
顔立ちはよかったから、それほど化粧をしなくても美しくいられた。
それでも、若い子に比べると、肌の衰えを感じる。
私はお店を長期で休んだ。
一度、噂の研究所に行ってみたいと思ったのだ。
イグレッシア王子がどんな娘に夢中になっているのか、見てみたい。
本気かどうか確かめてみたい。
花馬車が急停車した時に支えてくれた、優しい手を思い出した。
クリスが亡くなってから、仕事に逃げていたので、蓄えはある程度あったので、生活の心配はしていなかった。
馬車に乗り、夜に到着した。
泊まる場所はなかった。
その時、私の父より年上の男性が、声を掛けてきた。
「こんな時間に、こんな場所にどうされたのですか?」
私は咄嗟に噂を思い出した。
「エステテシャン募集を知りまして」
「そうですか?こんな時間ですので、今夜は我が家に泊まってください。明日、案内します」
男性はそう言うと、見ず知らずの私を家に招いてくれた。
食事も用意してくださいました。
「どこで知りましたか?」
「王都で、働いていたら、騎士達が話しているのを聞いたのです」
「そうですか」
ダンディーな男性は、「娘が経営しているんですよ」と微笑んだ。
この男性は、イグレッシア王子がお茶会をしている女性の父親だと分かりました。
「侍女がいないと伺っています」
「侍女希望ですか?」
「ええ」
私は人好きのする笑みを浮かべて、お辞儀をした。
「王都でのお仕事は何をなさっているのですか?」
「パンケーキのお店で店員をしておりました。夜は酒屋でお酒の提供をしておりました」
全て過去形で答えた。
今は無職だと分かるだろう。
「侍女の仕事はできるのですか?」
「貴族学校に通っていましたから、お手伝いもできると思います」
どんな仕事だよと内心で思いながら、話を合わせる。
「お幾つですか?」
「20歳です」
「そうですか?」
「エステティシャンと侍女の仕事と、どちらを希望しますか?」
「そうですね。侍女でしょうか?」
そうしたら、イグレッシア王子にも会えるかもしれない。
会ったらすることは決まっている。
「お名前を伺っても宜しいですか?」
「名も名乗らず、失礼を致しました。私はクリマ・オペラシオン子爵令嬢です。学校卒業後に王都で働いておりました。婚約者がいましたが、事故で亡くなりました。なので、今は仕事を探しております」
嘘は言っていない。
クリスの事は時間がある程度解決してくれている。
愛していた事実は変わらないけれど、もう亡くなってしまって、会うことすらできない。
もう諦めるしかないと、さすがにこの歳になれば諦めもつく。
クリスが死んで、もう4年も経ったのだから。
「お気の毒に、辛かったであろう」
目を細めた当主様は、「私も妻を事故で亡くしましてね」と呟く。
どうやら同じ痛みを持った者らしい。
使用人がお茶を出してくださいます。
温かな風味のいい紅茶です。
パンケーキのお店の紅茶よりも美味しいような気がします。
当主様の質問に答えていきます。
簡単な質問が続きます。
「娘の手助けをしてくれる、侍女を探しているんですよ」
「私が適任だと思いますわ」
どこにそんな根拠があるのか聞かれなかったので、取り敢えず、自分を売り込んでみます。
「こんな時間まで引き留めてすみません。お部屋に案内させますので。明日はエステの学校見学に行きましょう」
当主様は、使用人に命じて、私を案内するように言いました。
邸には、どうやら当主と使用人がいるだけのようです。
娘は一人っ子かしら?
そう思いながら、お部屋に案内されました。
お風呂のあるお部屋でしたので、ゆっくりお風呂に入り、ベッドで休みます。
酒場には、騎士団の皆さんが訪れる。
初めのうちはクリスの名前も出ていたが、月日が経つほどに、橋の崩落事故の話はされなくなっていった。
それを寂しく思う。
モテ期は終わったようで、昔に比べると男性に声を掛けられる頻度は減った。
彼氏はいない。
ラルムが時々、私の様子を見に来る。
時々、誘ってくれる。
そんな時は、ラルムと出掛けたりするが、特に変わったイベントがあるわけでもない。
一緒にクリスの墓に参って、クリスが元気だった頃の話をする。
あっという間に、21歳の誕生日が迫っていた。
まだ子爵令嬢で居させてくれるのは、私が働きに出ていて、実家からお金をもらっていないからだと思う。
20歳も終わる頃、ある噂を聞いた。
『イグレッシア王子が定期的にお茶会をしているらしい。相手は白い結婚詐欺事件で有名になったマリアの化粧品の店主らしい』
『王妃様が美の称号を与えた令嬢らしい』
『マリアの店主には、侍女がいないらしい。性格が悪いのかもしれないな』
『マリアの化粧品は、父親の領地に立派な工場があるんだってさ』
『工場の掲示板にエステティシャン募集って書いてあったのを見たよ』
騎士団の皆さんはいろんな噂をしている。
私は化粧品に興味はなかった。
顔立ちはよかったから、それほど化粧をしなくても美しくいられた。
それでも、若い子に比べると、肌の衰えを感じる。
私はお店を長期で休んだ。
一度、噂の研究所に行ってみたいと思ったのだ。
イグレッシア王子がどんな娘に夢中になっているのか、見てみたい。
本気かどうか確かめてみたい。
花馬車が急停車した時に支えてくれた、優しい手を思い出した。
クリスが亡くなってから、仕事に逃げていたので、蓄えはある程度あったので、生活の心配はしていなかった。
馬車に乗り、夜に到着した。
泊まる場所はなかった。
その時、私の父より年上の男性が、声を掛けてきた。
「こんな時間に、こんな場所にどうされたのですか?」
私は咄嗟に噂を思い出した。
「エステテシャン募集を知りまして」
「そうですか?こんな時間ですので、今夜は我が家に泊まってください。明日、案内します」
男性はそう言うと、見ず知らずの私を家に招いてくれた。
食事も用意してくださいました。
「どこで知りましたか?」
「王都で、働いていたら、騎士達が話しているのを聞いたのです」
「そうですか」
ダンディーな男性は、「娘が経営しているんですよ」と微笑んだ。
この男性は、イグレッシア王子がお茶会をしている女性の父親だと分かりました。
「侍女がいないと伺っています」
「侍女希望ですか?」
「ええ」
私は人好きのする笑みを浮かべて、お辞儀をした。
「王都でのお仕事は何をなさっているのですか?」
「パンケーキのお店で店員をしておりました。夜は酒屋でお酒の提供をしておりました」
全て過去形で答えた。
今は無職だと分かるだろう。
「侍女の仕事はできるのですか?」
「貴族学校に通っていましたから、お手伝いもできると思います」
どんな仕事だよと内心で思いながら、話を合わせる。
「お幾つですか?」
「20歳です」
「そうですか?」
「エステティシャンと侍女の仕事と、どちらを希望しますか?」
「そうですね。侍女でしょうか?」
そうしたら、イグレッシア王子にも会えるかもしれない。
会ったらすることは決まっている。
「お名前を伺っても宜しいですか?」
「名も名乗らず、失礼を致しました。私はクリマ・オペラシオン子爵令嬢です。学校卒業後に王都で働いておりました。婚約者がいましたが、事故で亡くなりました。なので、今は仕事を探しております」
嘘は言っていない。
クリスの事は時間がある程度解決してくれている。
愛していた事実は変わらないけれど、もう亡くなってしまって、会うことすらできない。
もう諦めるしかないと、さすがにこの歳になれば諦めもつく。
クリスが死んで、もう4年も経ったのだから。
「お気の毒に、辛かったであろう」
目を細めた当主様は、「私も妻を事故で亡くしましてね」と呟く。
どうやら同じ痛みを持った者らしい。
使用人がお茶を出してくださいます。
温かな風味のいい紅茶です。
パンケーキのお店の紅茶よりも美味しいような気がします。
当主様の質問に答えていきます。
簡単な質問が続きます。
「娘の手助けをしてくれる、侍女を探しているんですよ」
「私が適任だと思いますわ」
どこにそんな根拠があるのか聞かれなかったので、取り敢えず、自分を売り込んでみます。
「こんな時間まで引き留めてすみません。お部屋に案内させますので。明日はエステの学校見学に行きましょう」
当主様は、使用人に命じて、私を案内するように言いました。
邸には、どうやら当主と使用人がいるだけのようです。
娘は一人っ子かしら?
そう思いながら、お部屋に案内されました。
お風呂のあるお部屋でしたので、ゆっくりお風呂に入り、ベッドで休みます。
14
あなたにおすすめの小説
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする
夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、
……つもりだった。
夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。
「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」
そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。
「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」
女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。
※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。
ヘンリック(王太子)が主役となります。
また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く
ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。
逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。
「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」
誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。
「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」
だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。
妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。
ご都合主義満載です!
本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~
なか
恋愛
私は本日、貴方と離婚します。
愛するのは、終わりだ。
◇◇◇
アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。
初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。
しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。
それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。
この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。
レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。
全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。
彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……
この物語は、彼女の決意から三年が経ち。
離婚する日から始まっていく
戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。
◇◇◇
設定は甘めです。
読んでくださると嬉しいです。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
【完結済】自由に生きたいあなたの愛を期待するのはもうやめました
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
伯爵令嬢クラウディア・マクラウドは長年の婚約者であるダミアン・ウィルコックス伯爵令息のことを大切に想っていた。結婚したら彼と二人で愛のある家庭を築きたいと夢見ていた。
ところが新婚初夜、ダミアンは言った。
「俺たちはまるっきり愛のない政略結婚をしたわけだ。まぁ仕方ない。あとは割り切って互いに自由に生きようじゃないか。」
そう言って愛人らとともに自由に過ごしはじめたダミアン。激しくショックを受けるクラウディアだったが、それでもひたむきにダミアンに尽くし、少しずつでも自分に振り向いて欲しいと願っていた。
しかしそんなクラウディアの思いをことごとく裏切り、鼻で笑うダミアン。
心が折れそうなクラウディアはそんな時、王国騎士団の騎士となった友人アーネスト・グレアム侯爵令息と再会する。
初恋の相手であるクラウディアの不幸せそうな様子を見て、どうにかダミアンから奪ってでも自分の手で幸せにしたいと考えるアーネスト。
そんなアーネストと次第に親密になり自分から心が離れていくクラウディアの様子を見て、急に焦り始めたダミアンは─────
(※※夫が酷い男なので序盤の数話は暗い話ですが、アーネストが出てきてからはわりとラブコメ風です。)(※※この物語の世界は作者独自の設定です。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる