【完結】安心してください。わたしも貴方を愛していません

綾月百花   

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番外編   クリマ・オペラシオン子爵令嬢   私は華よ

5

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 クリスを亡くしてから、私はパンケーキの店で働いた後、酒場の仕事も始めた。

 酒場には、騎士団の皆さんが訪れる。

 初めのうちはクリスの名前も出ていたが、月日が経つほどに、橋の崩落事故の話はされなくなっていった。

 それを寂しく思う。

 モテ期は終わったようで、昔に比べると男性に声を掛けられる頻度は減った。

 彼氏はいない。

 ラルムが時々、私の様子を見に来る。

 時々、誘ってくれる。

 そんな時は、ラルムと出掛けたりするが、特に変わったイベントがあるわけでもない。

 一緒にクリスの墓に参って、クリスが元気だった頃の話をする。

 あっという間に、21歳の誕生日が迫っていた。

 まだ子爵令嬢で居させてくれるのは、私が働きに出ていて、実家からお金をもらっていないからだと思う。

 20歳も終わる頃、ある噂を聞いた。


『イグレッシア王子が定期的にお茶会をしているらしい。相手は白い結婚詐欺事件で有名になったマリアの化粧品の店主らしい』

『王妃様が美の称号を与えた令嬢らしい』

『マリアの店主には、侍女がいないらしい。性格が悪いのかもしれないな』

『マリアの化粧品は、父親の領地に立派な工場があるんだってさ』

『工場の掲示板にエステティシャン募集って書いてあったのを見たよ』


 騎士団の皆さんはいろんな噂をしている。

 私は化粧品に興味はなかった。

 顔立ちはよかったから、それほど化粧をしなくても美しくいられた。

 それでも、若い子に比べると、肌の衰えを感じる。

 私はお店を長期で休んだ。

 一度、噂の研究所に行ってみたいと思ったのだ。

 イグレッシア王子がどんな娘に夢中になっているのか、見てみたい。

 本気かどうか確かめてみたい。

 花馬車が急停車した時に支えてくれた、優しい手を思い出した。

 クリスが亡くなってから、仕事に逃げていたので、蓄えはある程度あったので、生活の心配はしていなかった。

 馬車に乗り、夜に到着した。

 泊まる場所はなかった。

 その時、私の父より年上の男性が、声を掛けてきた。


「こんな時間に、こんな場所にどうされたのですか?」


 私は咄嗟に噂を思い出した。


「エステテシャン募集を知りまして」

「そうですか?こんな時間ですので、今夜は我が家に泊まってください。明日、案内します」


 男性はそう言うと、見ず知らずの私を家に招いてくれた。

 食事も用意してくださいました。


「どこで知りましたか?」

「王都で、働いていたら、騎士達が話しているのを聞いたのです」

「そうですか」


 ダンディーな男性は、「娘が経営しているんですよ」と微笑んだ。

 この男性は、イグレッシア王子がお茶会をしている女性の父親だと分かりました。


「侍女がいないと伺っています」

「侍女希望ですか?」

「ええ」


 私は人好きのする笑みを浮かべて、お辞儀をした。


「王都でのお仕事は何をなさっているのですか?」

「パンケーキのお店で店員をしておりました。夜は酒屋でお酒の提供をしておりました」


 全て過去形で答えた。

 今は無職だと分かるだろう。


「侍女の仕事はできるのですか?」

「貴族学校に通っていましたから、お手伝いもできると思います」


 どんな仕事だよと内心で思いながら、話を合わせる。


「お幾つですか?」

「20歳です」

「そうですか?」

「エステティシャンと侍女の仕事と、どちらを希望しますか?」

「そうですね。侍女でしょうか?」


 そうしたら、イグレッシア王子にも会えるかもしれない。

 会ったらすることは決まっている。


「お名前を伺っても宜しいですか?」

「名も名乗らず、失礼を致しました。私はクリマ・オペラシオン子爵令嬢です。学校卒業後に王都で働いておりました。婚約者がいましたが、事故で亡くなりました。なので、今は仕事を探しております」


 嘘は言っていない。

 クリスの事は時間がある程度解決してくれている。

 愛していた事実は変わらないけれど、もう亡くなってしまって、会うことすらできない。

 もう諦めるしかないと、さすがにこの歳になれば諦めもつく。

 クリスが死んで、もう4年も経ったのだから。


「お気の毒に、辛かったであろう」


 目を細めた当主様は、「私も妻を事故で亡くしましてね」と呟く。

 どうやら同じ痛みを持った者らしい。

 使用人がお茶を出してくださいます。

 温かな風味のいい紅茶です。

 パンケーキのお店の紅茶よりも美味しいような気がします。

 当主様の質問に答えていきます。

 簡単な質問が続きます。


「娘の手助けをしてくれる、侍女を探しているんですよ」

「私が適任だと思いますわ」


 どこにそんな根拠があるのか聞かれなかったので、取り敢えず、自分を売り込んでみます。


「こんな時間まで引き留めてすみません。お部屋に案内させますので。明日はエステの学校見学に行きましょう」


 当主様は、使用人に命じて、私を案内するように言いました。

 邸には、どうやら当主と使用人がいるだけのようです。

 娘は一人っ子かしら?

 そう思いながら、お部屋に案内されました。

 お風呂のあるお部屋でしたので、ゆっくりお風呂に入り、ベッドで休みます。


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