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プロローグ

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 眩しいほどの稲光が光り、轟く雷鳴の中、ベルは祈っていた。全身ぐっしょり濡れて、毛先や顎から雨の雫が滴る。そのお腹はふっくらと膨らんで、まるで妊婦のようだ。

「どうかおやめください」

 豪雨の中で、剣(つるぎ)を振るう二人の男性がいる。

 一人は騎士の鎧を身につけ、一人は悠々と自在に動き回る身軽な美丈夫。人間離れしたその動きは、優雅にさえ見える。

 二人の男はベルを奪い合い戦い続けている。

 鎧を身につけた男が、膝をついた。

「……プラネータ様」

 踊るように剣戟していた男が、プラネータの喉元に剣を向けた。

「エスペランス様、どうぞお許しください。プラネータ様をお救いください」

 素早い動きでエスペランスが、ベルの目の前に移動してきた。

「私の妻になるか?」

「……はい。このままお連れください」

 ベルは深く跪き、雨が流れる地面に額が付くほど頭を下げた。

 エスペランスは深く頭を下げたベルの頭を撫でた。その仕草は優しげで、小さな顔を掬い上げ見つめ合う。

「そうはさせるか」

 プラネータは背後から跳躍し、剣を突き立てた。

 その剣はエスペランスの背中から腹を貫通し、美しいベルの目を貫いた。

「いやああっ!」

 ベルは突然の痛みに、背後に倒れ、顔を覆い、痛み苦しむ。

「ベルを傷つけたな?クソ貴族」

 エスペランスは腹に剣を貫通させたままプラネータの利き腕を切り落とし、腹を貫通している邪魔な剣を消し去った。

 圧倒的な力の差を見せつけられても、プラネータは引き下がらなかった。

「奪われるのならば、奪ってやる」

 エスペランスを引き寄せ、その身体を躱すと、プラネータは倒れているベルの胸に力任せに剣を突き刺した。

「あぁ!」

「何故、ベルを傷つける?そなたの赤子が宿っておるのだろう?」

 エスペランスは悲しげに、息の絶えそうなベルに命の息吹を吹き込んだ。

「……エスペランス様、どうぞ、お逃げください」

「聖女様を守れ!」

 大勢の騎士が押し寄せてきた。

「プラネータ殿、すぐに止血します」

「あの悪魔を殺せ」

 騎士が揃ってエスペランスに向かって弓を引き、その身体を貫通する。

 剣士が次々と斬りかかる。

 エスペランスの背後にはベルがいて、ベルを守っていたが、このままではベルを殺してしまう。

「聖女は返そう」

 そう言うと、エスペランスは姿を消した。

 エスペランスの背後に守られていたベルは目と胸に傷を負い倒れていた。

 傷ついている聖女の身体は、神聖な聖堂に運ばれた。

 エスペランスに命の息吹を吹き込まれたが、ベルはかろうじて生きている状態だった。手当をされた後、陣痛が来て赤子が生まれ息絶えた。

 聖女は清い体でなくてはならない。その体から赤子が生まれ、その赤子は父親の分からない不実の子として孤児院に預けられた。ベルの形見のネックレスと共に。

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