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11   パーティー

4   アミーキティア

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 アミーキティアはデュークと血の交換をした。

 目覚めは早く二人とも半日で目を覚ました。

 デュークはアミーキティアの顔を見て、微笑んだ。


「どうかしたの?」


 デュークの結婚の刻印は首に出ている。

 アミーキティアもきっと首に出ていると思った。


「アミーキティア、素敵な場所に刻印が出てきたね」


 え?素敵な場所とはどこだろう?

 自分の胸を見てもそこにはない。首を撫でてみたが、撫でて分かる物でもない。


「デューク、鏡を見せてくださいな」

「ああ、いいとも」


 デュークはベッドから降りると、ドレッサーの前まで歩き、手鏡を持って戻って来た。


「さあ、どうぞ」


 デュークは紳士的で優しいご主人様だ。

 兄に拘らず、もっと早く結婚すれば良かったとデュークと付き合い始めて、初めて思った。

 鏡を受け取り、まず、首を写した。左右どちらもない。正面も写したが、やはりない。

 まさか、顔に?

 嫌な予感がして、鏡で自分の顔を見た。

 なんと、右の頬の真ん中に刻印が刻まれている。

 今まで傷も痣もなかった美しい顔の頬だ。

 アミーキティアは鏡をうつ伏せにしてベッドに置いた。


「こんなに美しいアミーキティアだから、他の男に取られないか心配だったんだ。顔に婚姻の印が出ていれば、声をかけてくる者も奪いに来る者もいないだろう」


 デュークは嬉しそうだ。

 その反面、アミーキティアは顔にできた婚姻の印を見てショックを受けた。

 デュークの痣は美しい薔薇のような痣ができているが、アミーキティアの痣は潰れた花のようにただの丸のようだった。頬に赤い丸ができてしまった。

 恥ずかしくて、外に出られないわ。

 きっと兄妹達も両親も祖父母も笑うだろう。

 間違いなくエスペランスお兄様は爆笑するだろう。アリアにまで笑われたら、屈辱でしかない。


「アミーキティア、自信を持て。顔にできた者は愛される。私も一生アミーキティアを愛そう」

「デューク」

「皆に見せてこよう。きっと心配しているだろう」

「はい」


 隠れていても、いずれ見られるなら、今でも後でも同じだ。

 デュークに急かされて、着替えるとリビングに降りていった。

 デュークの家族もアミーキティアの家族も揃って待っていた。

 愛して止まなかった兄までアリアを連れて来ていた。


「刻印が出ました」


 デュークが嬉しそうに、アミーキティアの手を引いて皆の前に出た。

 シーンと静まりかえった。

 その数秒後、皆が爆笑した。


(ああ、やっぱり)


 アリアまで笑っていたら、虐めてやるわ。

 エスペランスお兄様の隣を見ると、アリアは笑っていなかった。

 それどこか気の毒そうな顔をして、目をそらしていた。

 これは、これで腹が立つ。

 笑いたければ笑えばいいのに。同情されるのは気にくわない。

 目をそらしていたと思ったら、どうやら違う。

 エスペランスお兄様と話をしていた。

 見てもいない!

 そもそも興味がないのだろう。


「ではおめでとう」


 エスペランスお兄様はアリアを連れて消えた。


「もう片方にチークを塗れば、可愛くなるわ」

「そうね。少し濃く塗った方が可愛らしいわ」


 母と姉がアミーキティアの顔を見て、微笑んでいる。


「浮気もできないいい場所ではないか?」


 デュークの家族は喜んでいる。


「愛嬌ができて、良かったではないか」

「そうさの、愛される場所ではあるな」


 父と祖父は笑いながら、褒めている。

 刻印の場所は運任せだから、仕方が無い。


「アミーキティア、一生。愛し合おう」


 デュークは嬉しそうに、刻印の場所の頬にキスをした。





「本当に顔に痣が出るのね」

「こればかりは運任せだからな」


 温室のカウチに横になりながら、二人はキスを交わし合う。


「わたしは見てはいけないと思ったの。笑うなんて酷いわ。女の子の顔に痣ができるのはショックな事よ」

「でもな。頬に丸い痣だ。これは愛嬌が出て可愛く見えるだろう」

「ランス様、わたしの頬に出ても笑えますか?」

「いや、アリアは顔に出なくてホッとした」

「アミーキティア様もきっとショックを受けたと思いますわ」

「しかし、デューク殿もデューク殿の家族も喜んでおった。あれはあれで可愛がられるだろう」


 エスペランスはアミーキティアの痣を笑ったが、可愛くて笑ったのだ。

 悪意は微塵もない。

 すぐにアリアに窘められて、その場から消えたが、いつも美しく着飾っていたアミーキティアだ。きっとショックを受けただろう。


「祝いに、何か贈ってやろう」

「ショックを受けないものにしてあげてくださいね。間違っても、ピンクのチークなんて贈らないでくださいね」

「それも可愛いだろうな」


 可愛いいを連発するエスペランスに、アリアは嫉妬してきた。


「わたしも頬にできればよかったわ。頬の方が可愛いのでしょう?」

「アリア、違う。誤解だ」


 アリアはカウチから降りて、温室の中を歩いて行ってしまった。

 アリアは感情を表に出すようになった。

 成長したのだろう。

 いいことだが、喧嘩は困る。


「アリア、贈り物を一緒に考えてくれるか?」


 アリアは振り向くと、コクンと頷いた。


「気分を替える物がいいと思うわ。素敵な帽子とかどうかしら?お顔の痣も見えづらくなるわ」

「では帽子にするか?」


 二人は職人を呼んで帽子をデザインしてもらった。つばの大きめな可愛いデザインで、アミーキティアが好きなリボンを付けて・・・・・・。


「ランス様がお届けになってくださいな。きっとわたしの顔は見たくないと思うの」

「そこまで気を遣わなくても、アリアは私の妻だ」


 エスペランスはアリアを抱きしめて、デュークの家の前に立った。

 呼び鈴を押すと、執事が出てきた。


「魔王様!」

「アミーキティアに会いに来た」

「どうぞ、お入り下さい」


 応接室に招かれて、椅子に座ったと同時に、扉が開いた。


「贈り物ならいらないわ。みんな私にチークを贈ってきたのよ。片頬に塗れば、可愛らしいだろうって」

「アミーキティア様、わたし達からは、これを」


 エスペランスから箱を受け取り、アリアはアミーキティアに大きな箱を渡した。


「これは何?」

「私とアリアとで選んだ。喜んでもらえると嬉しいが」


 アミーキティアは箱を開けて、箱の中を見て、微笑んだ。


「なんて可愛らしいのでしょう」

「その帽子を被れば、痣もそんなに見えないだろう?」

「お兄様、ありがとうございます」

「選んだのはアリアだ。笑ったことを叱られた。デザイン画を何度も手直しさせてアリアがアミーキティアに似合いそうな帽子を選んだのだ」

「・・・・・・アリア、ありがとう」

「・・・・・・お顔に痣ができるのは辛いわ。わたしなら泣いてしまったかもしれないわ」

「そうね、わたくしも悲しくて、家から出られなくなりましたの」

「帽子を被ってお散歩に出かけて下さい」


 アリアは深く頭を下げた。


「酷いことをたくさんしたのに、心配してくれてありがとう」


 アミーキティアは涙を浮かべて、帽子を被った。

 アミーキティアが好んで着る洋服に似合う色合いでよく似合う。

 アリアは微笑んだだけだ。


「では、私達は帰るが、泣いてばかりいるな。婚姻の証は愛し愛される者しかでない物だ。デューク殿に愛されている証だ」

「そうですわね」


 アミーキティアは最後には笑顔を見せた。


「ではな」


 瞬間移動で屋敷に戻ると、ミーネが尻尾をゆらゆらさせてモップをかけていた。


「ただいま、ミーネ」

「お帰りなさいませだ。お届け物が届いていますだ」


 テーブルの上には箱が置かれていた。


「アリアにもプレゼントを準備したのだ」

「何でしょうか?」

「開けてみなさい」


 ミーネはモップを片付け、手を洗うと、お茶の準備を始めた。

 アリアは綺麗な包装を丁寧に外していくと、ミーネが包装紙を器用に箱から外し、綺麗に巻いている。アリアはエスペランスを見てから、箱を開けた。

 綺麗な白い帽子が入っていた。


「私もデザイナーに手伝ってもらいながら、作ってみた。どうだ?」

「可愛いですわ。わたしの好きな白色で可愛いリボンまでついています」

「どのワンピースにも合うだろう。たまには可愛い帽子も被ってみたらどうだ?」

「わたしのためにありがとうございます。大切にします」

「とても似合うだ」 


 ミーネも帽子姿のアリアを見て、拍手をしている。


「後で散歩に行こう」

「はい」


 ミーネの淹れた紅茶を飲んだ後、二人で広い庭園を散歩した。

 風に揺れるリボンが、心を躍らせる。


「今頃、アミーキティア様も喜んでいると嬉しいわ」


 この庭園は年中薔薇の花が咲いているそうだ。いい香りがする。

 アリアは、この庭園が好きだ。

 長い毛先とリボンが風で揺れる。

 純粋で心の優しいアリアを見て、エスペランスは一生大切にしようと改めて誓った。

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