花姫だという私は青龍様と結婚します

綾月百花   

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5   転生転生

5   青龍様のお姿

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 禊ぎの後、緋袴に着替えて、みのりがドライヤーで髪を乾かしてくれる。


「ドライヤーがあるの?」


 みのりは微笑んだ。


「100年以上時が経っておりますので、ここも近代化が進んでおります。電化製品もございますし、唯様が望めば、お部屋にベッドも置けますよ」


 唯は微笑んだ。


「いいの?」

「遠慮はいりません。どうぞ望んでください」

「ベッドとテーブルと鏡台をください。テーブルには椅子も着けて欲しいです。台所でお料理が作れるようにしてほしい。ロウソクではなくて電気を点して」

「洋室がお望みですね」

「できれば」

「兄様、準備を」

「了解した」

 腰まである髪を乾かしてもらい。一つに結ぶ。白い布で結ばれて、唯は神社に参拝した。


『龍之介様、指輪のお陰で暖かかったです。ありがとうございます』


 唯はお礼を言うと、掃除に取りかかる。

 他の花姫たちは、立ち話をしている。

 花が咲いていない神社は、物足りなく寂しい。

 昔は花吹雪で掃除をしても綺麗にならなかったのに、掃除はすぐに終わった。


「唯様、お食事の時間ですよ」

「はい」


 掃除道具入れの位置が変わっている。


「唯様、こちらです」


 唯はみのりに連れられて、境内から離れた位置にあるプレバブル小屋に入った。

 箒の他に、木を剪定するいろんな機械が収納されていた。植木職人の休憩場所にもなっているのだろう。


「昔とは全然違う」

「いろんな場所が変わりましたよ」

「みのりは変わってないのね?」

「青龍様の霊力のお陰で、歳は取りません」


 みのりは短い髪を、耳にかける。

 目の前に花姫の集団が通り過ぎていった。

 彼女たちの髪型は自由だった。

 長い髪であることは変わっていない。神事の途中なので、髪は一つに結ばれているが、その結び目はお洒落なリボンだったり可愛らしいゴムで結われたりしていた。これからの自由時間はもっと自由になるのだろう。

 唯が見ているのに気付いたのか、みのりが声を潜めて唯に話しかけてきた。


「唯様、リボンや髪飾りも用意できますよ」

「規律が緩くなったの?」

「花姫も100年経つと、生活水準の下がった御嵩家を侮辱しますので。御嵩家も時代に合わせて変化しております」

「今はなんでもできる時代だから……。禊ぎも嫌がる花姫がいてもおかしくないね」

「その通りでございます。禊ぎに出ない花姫もおります」

「今、7人以上いるんですか?」

「全室、満室です」

「すごい」


 広い屋敷の部屋を数えたことはなかったが、四角く建てられた花姫の屋敷は、かなり広い。

 唯は素直に驚いていた。

 前世では確か五人だった。


「以前は、千鶴さん以外、みんな亡くなったんですね」


 自分も含めて、みんな死んでしまった。

 唯は思い出し、同時に悲しみも思い出した。


「私も花姫の生る木の肥やしになったんですね?」


 みのりは答えずに、頷いた。


「もう、木の肥やしにはなりたくないな」

『ならせるもんか』


 龍之介の声がした。


『唯のことは俺が守る』

『……龍之介様』


 唯は頷いて、みのりに連れられて、部屋に戻った。



 ……

 …………

 ………………



 部屋に戻ると部屋が変わっていた。

 和室だった部屋はフローリングで、部屋の中が改装されていた。


「こんな短時間に?」


 マンションでいうなら2LDKだ。

 お風呂やミニキッチンのあった部屋に、小さなテーブルが置かれ、椅子が二つ。キッチンはオール電化でオーブンもある。お風呂は水道からお湯が出る。真新しいキッチン道具を見て、唯は微笑んだ。お菓子も食事も作れる。

 寝室にはベッドと鏡台と箪笥が置かれ、リビングにはミニソファーとセンターテーブルが置かれている。


「魔術ですか?」

「家具は本物です」

「今までの生活とあまり変わらない」


 唯は嬉しくて、ソファーに座った。

 今まで住んでいた家は、もっと立派な家だったが、何もなかった部屋にキッチンもできた。お風呂も蛇口を捻れば温かいお湯が出てくるのだろう。

 昔より、ずっと進化していて嬉しくなる。


「唯様、お着替えが先ですよ」


 みのりの声も明るい。


「着物は洋服にならないの?」

「着物は花姫の正装ですので」


 緋袴から花姫の正装の白い絹の着物にピンクの羽織を纏った唯は、気に入ったソファーに座っている。


「みのり、床だと座るのが痛いよね?座布団使って」

「わたくしたちは慣れておりますので、お気遣いなく」


 食事が運ばれてきて、唯はミニテーブルの上に並べてもらった。

 食事は少し豪華になっていた。

 達樹が毒味をして、食事を食べる。

 食べ終わると、お膳を下げられて、青波がやってきた。

 唯はソファーに座ったまま、頭を下げる。


「あなたも他の姫たちと同じですね」


 テーブルに薬を置かれて、飲むように言われた。


「同じって、どういうこと?」

「今までの暮らしを忘れられずに、与えられた御嵩家の部屋では満足できず、贅沢な物を欲しがる」

「贅沢なの?この部屋が」


 今まで住んでいた家より、ずっと質素だ。

 格安のマンションでも、今ではこの部屋のようにこぢんまりしていない。


「用意された物では満足できないのだろう?昔の唯様は、質素で謙虚でございました」


 唯は唇を噛みしめる。


「私は116年前の唯ではありません」


 涙を浮かべた唯を見て、青波は鬱陶しそうに顔を歪めた。


「薬を飲みなさい」


 唯は湯飲みを握ると、一気に飲んだ。


「これでいい?」

「黙って従えばよろしい」


 唯は拳を握って、ソファーから立ち上がった。


「ソファーはいらない。この部屋だけ畳の部屋に戻して。何もいらない。リボンも髪飾りも何もいらない」

「唯様自棄になってはいけません」

「私は116年前の唯にならなければならないのでしょう?」


 唯は項垂れて、キッチンのある部屋に入っていった。

 テーブルに伏せて、唯は泣いていた。


「唯、泣くな」


 龍之介は瞬間移動をして唯の肩に触れる。


「私は昔の唯ではありません」


 指輪を外し、テーブルの上に置く。


「龍之介様が愛した唯ではありません」

「指輪は外すな。今の唯はどの花姫より霊力が低い。普通の人間と変わらぬ。何かあれば、すぐに死んでしまう」


 龍之介はテーブルに置かれた指輪を掴むと、唯の指にはめた。


「婚約の品をもってきた。着物を着てみるか?」


 ソファーがあった部屋は和室に戻っていた。そこに大量の贈り物が置かれている。


「私は何もいりません」

「薬を飲み終えたら、結婚しよう」

「そんな急に言われても。私、やっと16歳になったばかりの子供です」

「その指輪でも結婚はできる。今すぐにでも結婚しよう」

「考えさせてください」


 唯は畳に跪くと、龍之介に頭を下げた。


「唯は俺を好きではないのか?」

「わかりません。前世の私は龍之介様を愛していましたが、今の私にとっては、まだ出会ったばかりの異性です」


 心の中は、龍之介の姿を見ると嬉しくて、触れたくなる。その心の動きが、唯にはまだわからない。


「ゆっくり好きになってくれ。でも、唯は俺の花嫁だ。これは俺が決めている」

「龍之介様は、神様ですよね?」

「覚えておらぬのか?」

「傷を負った青龍様の姿しか覚えておりません」

「そうか」


 龍之介は寂しそうに、唯を腕に抱く。


「今夜は俺のところに泊まるか?」

「私、木の肥やしにはなりたくありません」

「何もせぬ。ただ一緒に眠るだけだ」

「私は昔の唯ではありません。何かを望まれても何もできません」


 唯は震えて涙を流す。


「俺が怖いのか?」

「はい」

「俺の姿を唯に見せたいだけだ」

「本当にそれだけですか?」

「神は嘘をつかぬ」

 龍之介は頷いた。

 着替えもさせずに、白い着物とピンクの羽織折りを着た唯は、龍之介に抱えられ青龍神社の奥の神殿に連れてこられた。


「寒いです」


 龍之介は霊気で、神殿内を春の陽気にまで暖かくした。


「龍之介様のお力なのですね。とても暖かい」


 急速暖房より早く、神殿内が暖かくなっていく。

 震えはいつの間にかなくなっていた。

 暗かった神殿内は、真昼の明るさだ。


「この神殿の奥に洞窟がある。前世では、その洞窟に住んでいた。あの頃と、なにも変わってはおらぬ」


 唯は周りを見渡す。

 大きな洞窟は神殿のようだ。そこには湖が入り組んでいた。洞窟の奥には分かれ道ができていてまるで小さな小部屋に繋がっているようだ。


「二人の寝室もそのままだ」

「龍之介様は、ここで暮らしているのですか?」

「今でもここで暮らしておる。新しい新居はできたが、引っ越す気にもならぬのでな」

「思い出がここにあるから?」

「そうだ」

「唯は愛されていたのですね」


 唯は目を閉じて胸に手を当てる。

 鼓動に合わせて、前世を思い出す。


(私は、ここで暮らしていた。龍之介様と愛し合い、達樹とみのりも一緒にいた。お腹に赤ちゃんもいて幸せだった)


 優しい思い出が脳裏に浮かび上がる。


「俺はこの青龍神社の生き神の龍之介だ。名前は婚礼する者しか教えぬ」

「特別に教えてくださったのですか?」

「そうだ」

 龍之介は光沢のある蒼い着物を着ていた。同色の羽織を着ている。

 長い白銀の髪が、霊力でふわりと膨らんでいる。目は透き通るような青色だ。

 美しい。

 唯はその姿に見とれていた。

 神の力を見るのは初めてだ。


「見ておれ。俺の真の姿だ」


 龍之介は唯の目の前で、青龍の姿になってみせた。

 唯は驚いて、目を瞬く。

 大きく美しい龍神の姿だ。
 
 鱗は緑にも青にも見える。

 光沢のある綺麗な鱗が、記憶を更に呼び覚ます。


(私、この龍神様の上で、何度も眠ったことがある)


 唯が近づくと、青龍様の指が唯の体を引き上げ腕に上げる。

 よじ登って青龍様の背中まで上がった。

 綺麗に並んだ鱗が一枚剥がれ落ちたように傷ついている。


「龍之介様、怪我をなさっています」


 唯はその部分に触れる。


「唯を花嫁にするために、一枚剥いだ」

「私のために?」


 赤い血の痕が残っている。


「痛かったでしょう?」


(昔の私には治癒の力があったけど、今はないかな?花姫の力もないもの)


 唯は試しに、手を翳して、「治れ、治れと」と念じる。


「唯、何をしておる?」

「綺麗な鱗を見ています」


 掌が温かくなり、体も温かくなる。


(この感覚知っている。治せるかもしれない)


 赤い傷が治って、新しい鱗が生えだした。


「唯、治癒の力を使っておるのか?使ってはならぬ」


 青龍が体を起こして、唯の体は地面に落ちていく。

 霊力で受け止めて、そっと地面に寝かせた。

 唯は意識を失っていた。


「どこまで記憶があるんだ?」


 龍之介は人の形に姿を変えると、唯を抱き上げ、慎重に霊気を注ぎ込んでいく。

 神の力は強すぎる。龍之介の霊気に慣れるための薬も飲み始めたばかりだ。

 口づけもまだできない。掌で撫でて少しずつ霊気を注いでいく。

 瞬間移動で、唯の部屋に連れてくると、達樹とみのりがすぐに跪く。


「唯は治癒の力を覚えておる。今、力を使って意識を失った。これからも、いきなり使うかもしれぬ。よく見張ってくれ。明日の禊ぎは休ませるように。体が消耗しきっておる」


 昼食が置かれていた。

 青波がちょうど、薬を持ってきた。


「これは龍之介様。唯の霊気が底をついているではないか」

「薬をくれ」


 意識を失った唯に、龍之介は薬を慎重に飲ませる。


「少しは花姫の力を解放してやってはどうだ?」


「龍磨が唯を襲うかもしれぬ」


 唯を抱き、少しずつ霊気を注いでいく。


「一日3回の薬を4回にできぬか?俺を受け入れられる体に早くしたい」

「強すぎる薬は副作用を起こします。唯は寝たきりになるぞ」


 龍之介はもどかしそうに、唯に少しずつ霊気を注ぐ。


「寝たきりにはさせるな。唯の心が壊れてしまう」

「禊ぎはできなくても、散歩くらいはできるように調整してくれ」


 唯は三日寝込んで、やっと禊ぎに出られるくらいに回復した。

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