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10   15歳でお召し上

3   我が子との対面

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「父上、母上を連れて勝手に外出されては困ります。母上の足の骨はまだついておりません。足を下ろしたりしてないでしょうね」

「すまない、龍星。両親と別れをさせてやりたくてね」


 龍星は唯の足に手を翳して、見ていく。

 いつも学生服を着ていた龍星は、青い着物を着ている。長い白銀の髪は後ろで一つに組紐で結んでいる。

 似合うが見慣れない。

 龍之介は蒼い着物を着ている。同じ青でも微妙に色が違う。龍之介は白銀の髪を下ろしている。

 二人は兄弟のようによく似ている。


(神様は歳を取らないの?)


「骨がずれている。歩かせましたね」

「すまない。唯がまだ理解できていなくてな」


 唯はベッドに横になったまま二人のやりとりを聞いていた。


「ねえ、母上って誰のこと?」


 唯は龍星に訊いた。


「あー、唯さん。起きてたのか?」

「うん、起きてたよ。ねえ、教えて」


 龍星は助けを求めるように、龍之介を見つめるが、龍之介はすっと目をそらした。

 助ける気はないらしい。


「唯さんは俺の母上なんです。前世で俺を産んで、俺が小さな時に亡くなった」

「前世?」


 唯は首を傾ける。


「私が龍星さんのお母さん?」

「ずっと会いたくて、母上を見ていました。耐えきれず声をかけました。お弁当を一緒に食べられ幸せでした。母上の手作りのお菓子を食べたのは初めてでした。とても美味しかった」


 唯はきょとんとしている。


「ごめんなさい。私、記憶がありません。母上って言われても実感も持てません」

「そうだよね……」


 龍星はショックを受けたような顔をした。


「でも、もし前世があったなら、また出会えた偶然は幸せなことですね」

「母上」


 龍星は唯に抱きついた。


「きゃっ」
 

 力強く抱きしめられて、その衝撃に足に痛みが走る。


「龍星。唯が足を痛がっているぞ。突然抱きつくな。安静が必要なんだろう」

「母上、ごめんなさい」
 

 龍星は唯から体を離すと、唯の足に手で触れる。


「ずれた骨を戻します。父上、麻酔を」

「唯、眠っているか?」


 唯は首を振る。


「それなら動かないようにしてなさい」

「うん」


 龍之介は足に魔力で麻酔をかけると、唯の体から痛みを取っていく。


「母上、動いていいと言うまで足をつけてはいけません」

「私が龍星さんのお母さん?」

「受け入れられないのなら、受け入れてくれなくてもいい。ここにいてくれるだけで、俺は嬉しい」


 唯は顔を上げて、龍星の顔をじっと見た。

 真剣な顔をして、足の治療をしている。

 龍之介と目が合った。


「私の旦那様なの?」

「唯はまだ15歳だ。召し上げの時期より早い。前世の唯は召し上げの直前に前世の夢を見たと言っていた。慌てなくていい。今は療養しなさい」

「ねえ、前世の私が前世の夢を見たの?私の転生は何度目?」

「二度目だ」

「二度も私を探してくれたの?」


 龍之介は微笑む。


「約束したからな」


 龍之介の長い髪を見て、自分の腕を見る。


「このブレスレットは、神様の髪ですか?」

「そうだよ」

「私を守ってくれていたの?」

「危険を知らせることしかできなかったが」


 唯は白銀の髪とブレスレットを見つめる。


「ありがとうございます。たくさん助けられました」


 唯が龍之介にお礼を言うと、龍星が「母上、頭を下ろしてください」と言った。


「はい」


 唯は枕に頭を預けた。

 足の位置を直された。

 龍之介が唯の顔の横に立った。

 手が肩に触れる。


「痛くはないか?」

「うん」

「ねえ、神様。私は二度もどうやって死んだの?」

「思い出したくはないね。悲しくなるから」

「ねえ、神様」

「唯、俺のことは龍之介と呼びなさい」

「龍之介」とオウム返しに呼んでみたが、相手は神様だ。呼び捨てはいくら何でも失礼すぎる。「龍之介様?」と呼び直した。


(うん、何だがしっくりくる)


「そう呼んでくれるか?」

「私は、そう呼んでいたのね?」

「そうだよ」


 龍之介は唯の髪を撫でる。

 懐かしい感じがして、眠くなってくる。


「父上、終わりました」

「ありがとう、龍星」

「足は付けてはいけません。俺がいいと言うまでベッドで横になっていてください」

「龍星さん、ありがとう」


 龍星は唯の顔に顔を近づけると、にっこり笑った。


「昔の母上は、龍星と呼んでいました」

「でも、年上でしょう?」

「母上は母上だ」


 龍星の手が唯の手を握る。

 昔は大きく感じていた手は、まるで子供ように小さい。


「龍星。強そうな名前ね」

「母上が名付けました。龍神の中で一番強そうな名前だからと」

「思い出せたらきっと幸せな家族になれるね。思い出せなくてごめんなさい」

「思い出さなくてもいい。また家族になろう」

「家族になるの?」

「そのつもりだよ」

「龍之介様、私は両親の子ではなかったんでしょ?本当の私の両親は誰ですか?」

「いずれ話そう」

「今、教えて」


 唯はふわりとあくびをした。

 体がほかほかして眠い。


「今は、眠りなさい」

「うん、なんだか眠い」


 唯が眠るまで、龍之介と龍星は唯に触れていた。

 優しく心地よい霊気に、唯はいつの間にか眠っていた。

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