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4 兄から離れる覚悟
3 抑えきれない思い
しおりを挟む亜里砂はすぐに退院してきた。火傷は通院で様子を診ていくと言われている。火傷よりも精神の方が酷く傷ついていた。
薬を飲んで、精神を安定させている。気分がいいときは、母と一緒にデッサンをしたり小物を作っているが、夜は眠らされても悪夢で魘されている。だんだん強い薬を出されて、亜里砂はほとんど眠っている。
亜里砂が望んだ、自立のための他校への受験は期限が切れて受けられなくなった。
そのことでも、亜里砂はショックを受けたが、今の自分の状態を把握して諦めたようだ。
亜里砂が目を覚まし、スマホを手に持つと、友麻もスマホを手にしてゲームにログインして待つ。同じ室内にいても二人は会話をしない。友麻はソファーに座っている。
亜里砂とは背を向けて座っている。
ダイニングテーブルで亜里砂がゲームを始めた。
久々のログインだ。
『ありさ、久しぶり、どうかしたの?』
『久しぶり。病気が悪化したの』
『大丈夫?』
『たぶん大丈夫』
亜里砂はキャラクターで着せ替えをしている。
部屋から売っている洋服を試着していく。
ゲーム内マネーもクエストをこなすうちに増えてきて、洋服や武器が買えるほど増えている。ゲーム内でも節約している亜里砂は、まだ何も買い物をしたことがない。
無課金で初期設定の者は、ありさのレベルでは珍しい。
順番に試着をしていく。
どれも可愛くて、頭の中でデザインとしてインプットされていく。
『元気だったら、狩りに行く?』
『ゆう、またレベル上がってるね。おめでとう』
『ありさが来ないから、やることなくて』
『上位者とフレンドになって、下層に潜ったら?』
亜里砂にはまだ戦えないエリアだ。
『僕はありさ以外とフレンドにならないよ』
『私が辞めたら、ゆうが一人になっちゃうよ』
『辞めるの?』
『悩んでる』
『どんな悩み?』
『キャラネーム、本名なの。自分の名前が嫌いになったの』
『かわいい名前だと思うけど』
『リアルの私は可愛くないよ。すごく醜くて、心も汚れてる』
『僕はありさのこと好きだけど』
一通り着せ替えをすると、溜まっているクエストをこなしていく。
拾っておいた石をたくさん持って、クエストカウンターに行く。
簡単な討伐クエストより報酬は少ないが、クエストが貯まりすぎている時は、この方が早く終わる。
『キャラ上手に作れたのかな?』
『ありさのキャラ可愛いよ』
『ありがとう』
『ありさ、遊ぼう』
『どこで遊ぶの?』
『海流に行かない。ボス退治なんてどう?』
『いいよ』
「亜里砂、お母さん、迷っちゃって。ここのデッサン、どちらがいいと思う?」
仕事場に続く扉が開いて、母親が出てきた。
手にはスケッチブックを広げて持っている。
亜里砂は、スマホを置くと母の近くに寄っていく。
「私が着るなら、右のデザインの方が好きだな。胸元のシャーリングが細かくて可愛い」
「やっぱりそうよね」
友麻はスマホを持ったまま目を閉じた。スマホの画面は裏返しに向けている。
亜里砂がすぐ後ろにいる。
それだけでドキドキする。
「あら、友麻ったら、こんなところで眠って、風邪を引いちゃうわ」
「お母さん、これ」
亜里砂がブランケットを持ってきた。
「幾つになっても子供ね」
母がスケッチブックを持っていたので、亜里砂は友麻に毛布をかけた。
「ごめんね、亜里砂」
亜里砂は首を振る。
「私もデッサンしてこようかな」
「描き上がったら見せてね」
「うん」
亜里砂はダイニングテーブルの上に置かれているスマホを持つとリビングを出て行った。
『用事ができたの。ごめんなさい。また今度ね』
『ありさ、待って』
亜里砂はゲームの中からも部屋からも消えた。
近くにいたくて、気配を消すようにソファーに座っていたのに、邪魔をされた。
亜里砂がかけてくれた毛布を頭まで被る。
リアルでもゲームでもうまくいかない。
ゲームを落として、メールを打つ。
『早く婚約破棄してくれよ。迷惑なんだよ』
返事は来ない。
その夜、置きっぱなしになっていた亜里砂のスマホを持って部屋に閉じこもった。
亜里砂は、もう寝ている。
スマホに細工をしたかった。
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