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綾月百花   

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Side愛梨

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 仲のいい幼なじみで親友ができた。
 楸の母にピアノを教わっていたとき、楸の母が楸と同じ曲を同時に弾くようにさせていた。
 その音色がとても綺麗で好きだった。
 楸の母親が忙しく遠征に出るようになってから、定期的な練習はなくなったが、帰ってくると成長を見てくれた。だから他のピアノ教室に通って練習はずっと続けていた。
 またあの音が聞きたくて、愛梨は楸に強請って、一緒に弾いてもらった。


 高校に上がった頃から愛梨はクラスメイトに虐められるようになった。
「楸が可哀想」
「恋人気分のつもり?」
「生意気なのよ」
「ちやほやされて喜んでいるんでしょ?」
 トイレに連れ込まれて、暴言とリンチ。
 初めてのことで、愛梨はどうしたらいいのかわからず、黙ったままされるままでいた。
 要は、私が楸と一緒にいるのが気に入らないのよね。
 でも、どんな事をされても、楸の側から離れないから。
 愛梨は心の中で何度も叫んでいた。
 愛梨は長い髪を引っ張られ、ハサミを入れられて、バサリと切られた。
 気が済んだのか、女子生徒の一団はトイレから出て行った。
 床に落ちた切られた髪を片付け、ボサボサの頭で、危険なトイレから出ていくと楸が愛梨を抱きしめる。
「声が聞こえたんだ。助けに入れずにごめん」
「仕方ないよ。女子トイレだもんね。男子は入れない決まりになっているもん」
 愛梨の髪は腰まである綺麗な長い髪だった。
 それがぐしゃぐしゃにされている。
 手櫛で髪を梳くと、長い髪が廊下に落ちる。
 クラスの女子の目が、じっとこちらを見ている。
「楸は教室に戻って。私は落ちた髪を片付けるから」
「そんなの僕がする」
 楸は教室に入ると、掃除道具入れから箒とちりとり持ってくる。
「櫛、持ってる?」
「うん」
 愛梨は髪を梳かし、切れた髪を床に落とした。
 その髪を楸が箒で掃いてくれる。
 大量な髪の量だ。
「ありがとう」
「僕はいいけど、大丈夫?」
「みんな楸が好きなんだよ。一緒にいると虐められるみたい」
「なんだよ、それ」
 楸は怒って教室の中に入って行く。
 掃除道具入れに箒とちりとりを片付けると、愛梨の手を掴んで、教壇の前に立った。
「僕と愛梨は幼なじみだ。僕の親が海外遠征に出ているから、食事を作ってくれている。家は隣同士で、昔からの付き合いだから」
「付き合いって恋人って意味?」
「キスとかエッチとかしてるんじゃないの?」
「幼なじみって言っただろう」
「なーんだ。給食のおばさん的な存在なんだ」
「ちがう」と言いかけた、愛梨が楸の腕を引いた。
「そうだよ」
 愛梨は教壇の上で、肯定した。
「給食のおばさんと同じだよ」
「愛梨」
「ね、楸。お弁当もお揃いだし、ご飯も私が作ってる。間違ってないよ」
 少し微笑んで、自分の席に戻っていく。
「愛梨に手を出すな。髪を切ったやつ。謝れ」
 しーんと静まった教室で、愛梨に謝罪する人はいなかった。
「大勢で弱い者虐めする人を軽蔑する」
 言い終えたところで、教師が入ってきた。
 楸は席に戻った。


 愛梨はショートカットにしてきた。
 できるだけ髪を残してもらえるように、カットしてもらった。
 昔から長い髪型だったのに、短い髪は他人のように見える。
「似合わない?」
「見慣れない。可愛いよ」
「ありがとう」
 そう見慣れないだけ。慣れれば、きっとなんてこともない。
 自分で何度も言い聞かせて、涙が出ないように気をつけている。
 愛梨は食事の後、久しぶりに楸に頼んでアンサンブルを弾いた。
 奏でるハーモニーに酔いしれる。
 いい音だ。
 落ち込んでいた気分が浮上してくる。
「ねえ、バンド作ろう。ギターとドラムが欲しい。みんな男の子で」
「愛梨はお姫様になりたいの?」
「私は観客になるわ。楸、歌が上手いのを知っているんだから」
「どうして観客になるんだ?愛梨はピアノも歌も上手いだろう?」
「男三人のバンドってかっこいいよ」
 楸は愛梨がいると、他の男子と話をしない。
 もっと世界を広げて欲しいと思った。


 髪は少しずつ伸びてくる。
 短かった髪が背中まで伸びた頃、ギター役が見つかった。
 楸が愛梨にキーボードを買ってくれた。
「路上ライブするときに、あった方がいいだろう」と言って。
 キーボードは曲調も替えられて、ピアノではできない遊びができる。
 キーボードは楸の家に置かせてもらった。
 バイオリンと合わせるときにすぐに使えるように。
 ギターの薫は、二人のアンサンブルを聴いて、感動してくれた。
 後は、ドラムだ。
 ドラムはドラムスティックを見つけたことから、持ち主を探し出した。
 亮はセンスが良かった。
 自分でドラムも持っていて、すでに上手かった。
 四人で合わせてみることになった。
「いい音ね」
「やっぱりキーボード入った方がいいよ」
「そうだよ、味が出る」
「間に入るバイオリンは珍しくて面白いな。キーボードの伴奏とよく合う」
 仲間に言われて、愛梨もだんだん仲間に入りたくなった。
 男子三人はみんな背が高くて、ハンサムだし見栄えもいい。
 愛梨は女子の平均的な身長だ。
 四人で毎日練習するのも楽しくて、歌も楸と一緒に歌うと、もっといい音になった。
 もっと練習をしていつかどこかのバンドコンテストに出てみたいなと漠然と思った。

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