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Side愛梨
しおりを挟む路上ライブを二年近く続けたとき、目の前に三人が並んだ。
「愛梨」
「愛梨頑張れ」
「負けるな、愛梨」
誰にも伝えなかったのに、懐かしい顔が、愛梨の歌を聴きに来てくれた。
嬉しくて、愛梨は微笑んだ。
愛梨はangelの歌を歌った。楸が声を揃えてくれた。
懐かしいハーモニーだ。
大好きだった二人のデュエット。
ギターもドラムもなくても、楸の声があれば愛梨の歌は、ずっと良くなる。
友達を得て、無くしたものもあるけれど、なくならない物もあった。
楸が声を添えてくれただけで、観客が増えた。
そのままangelの歌を歌い続けて、ミニコンサートを1時間ほど続けた。
定時の21時になり、愛梨は歌を終えて、観客に深く頭を下げる。
盛大な拍手が向けられた。
目の前に置かれたCDは次々と売れて、愛梨は鞄から新しいCDを取り出して、並べた。
握手を求められることもある。
「いつもありがとうございます」
常連客が毎日、CDを買ってくれる。
「今日の歌は、いつもと違って、またいい曲になったね」
「ありがとうございます」
「また来るよ」
「お待ちしています」
愛梨はとっておきの笑顔を浮かべて、お客を大切にしていた。
目の前から客が去って行くのに30分はかかる。
やっと話しかけてくるお客がいなくなり、愛梨はずっと会いたかった仲間の顔を見つめた。
「楸、みんな、来てくれてありがとう」
「毎日、歌っているんだって?」
「ツイッターで見たよ」
「誰かが載せてくれたんだね」
「動画の再生数すごい数になってるし」
「みんなとやっていたことをしただけよ」
キーボードを片付けていく。
二年近く前に三人から引き離したプロデューサーが名刺を差し出した。
「スカウトさせてくれないか?私は間違っていた。楸の声に君の声は、とても合っている。君の声を聞く前に引き離したことを後悔している」
「私は、今は学生です。両立したいので、このままでいいの」
「他に引き抜かれる前に、うちに席をおいて欲しい。愛梨として招きたい」
目の前に置かれたCDを大量に購入してくれた。
「考えさせてもらいます。たくさんのプロデューサーにスカウトされているんです」
愛梨はプロデューサーから名刺を受け取って、綺麗な微笑みを浮かべた。
「詳しい条件など聞かせてください」
「もちろん、そうして欲しい。日を改めて話をしたい」
「授業中は電源を切っていますが、それで良ければ」
名前と電話番号を書いて、渡した。
「愛梨、僕らとまた歌わないか?」
「俺も愛梨と歌いたい」
「戻ってきてくれたら、すごく嬉しい」
「ありがとう」
愛梨は三人纏めて抱きしめた。
あの時、指にハンカチを巻いてくれた彼らが大好きだ。
一番大好きなのは、楸だけど。
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