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Side愛梨、楸、薫、亮
しおりを挟む愛梨は楸と薫と亮を連れて、自宅に戻った。
「今日は本当にありがとう」
「なんで知らせてくれなかったんだ?」
「突然知らせた方が楽しいかなと思って」
愛梨は荷物を使っていない部屋に置くと、キッチンで手を洗い、四人のご飯を作り始めた。
「パスタでいい?」
「なんでもいい」
「俺も」
「愛梨のパスタ美味しいから好きだ」
愛梨のバジルのスパゲティーは亮の好物だ。
お湯を沸かしている間に、サラダを作って、作ったサラダを楸が運んでくれる。
急いでベーコンを刻んで、トマトとシメジ、キャベツも小さく切るとフライパンで炒めて、バジルソースとオリーブオイル、塩こしょうと粉末のニンニクを振りかける。
沸騰したお湯に塩とオリーブオイルを入れてスパゲッティを茹でる。
作っている間に、楸が皆の前にグラスを出して、冷蔵庫から作り置きしているお茶を入れてくれる。フォークを並べて、準備をしてくれる。
茹で上がったパスタにできあがった炒め野菜を絡めてできあがり。
お皿に盛って、四人分を作り終えた。
楸が運んでくれた。
部屋の中にバジルのいい香りがする。
「何も用意してなかったから、あり合わせでごめんね」
「何もないところから、パスタは生まれないよ」
楸が微笑んでいる。
いつも無愛想で、楽しくない顔をしている楸の本物の笑顔が戻っている。
「ご馳走だよ」
「いただきます」
四人は一緒に愛梨手作りのパスタを食べていく。
「高校時代を思い出すな」
「あの頃は楽しかった」
「あの頃の方が、ずっと楽しかった」
「今は楽しくないの?」
多めに作ったパスタだが、彼らは一気に食べてしまう。愛梨はゆっくり食べながら、三人をしっかり見ていく。
「僕は毎日、苦痛だ」
「楸」
「俺も内心では楽しくない」
「俺も、ドラムを叩いて楽しんでいるだけだ」
「不満だらけなのね」
愛梨も食べ終えて、お皿を集めて、キッチンに持っていき、お皿に水をかけておく。
「僕はずっと不満だ」
「楸は毎日、マネージャーと喧嘩しているよな」
「薫も亮も不満があるの?」
「「ある」」
「あら息がぴったりね」
愛梨は席を立つと、バックが置かれた場所に行くと、ケースを持って帰ってきた。
「私がスカウトされたプロデューサーの名刺よ」
机に一枚ずつ並べていく。
「これが今日もらった一枚」
順番に並べた最後に置いた。
10枚以上ある名刺を見て、三人はほうと驚く。
「プロダクションを変わるなら、交渉しようか?」
「できるのか?」
「年契約はしてないでしょ?」
「してないな」
「俺たち、子供だったから言いなりだったし」
「今も子供だと思われているな」
「楸はどうしたい?」
「愛梨と歌いたい」
「私も楸と歌いたい」
楸の手が愛梨に触れる。
「どの辺りまでスケジュール入っているの?」
スケジュール帳をスマホで表示させたのは、薫だった。
「全国公演が終わったばかりだから、今は練習ばかりだな。ライブの空きができたら、出るかもしれないけど」
「変わるなら今がチャンスかもしれない」
愛梨はテーブルの上の名刺を動かし始めた。
「さっきの並びは、もらった順ね。今並べているのは会社の規模かな?規模が大きくなるほどスカウトマンのスカウトの仕方が親切よ。要望も聞いてくれると言うし、嫌なことは断ってくれてもいいと言ってくれたわ。今日みたいにCDを全部買ってやるから言うこと聞けみたいなリアクションもない。買うのは1枚よ。他のお客のための商品がなくなってしまうもの」
「愛梨は昔から冷静だな」
楸に視線を向けて、微笑む。
以前よりも大人っぽく微笑む愛梨は、高校時代より大人びて見えた。
「今、仕事がないなら、一緒に回ってみる?」
「学校はいいのか?」
「今日は試験休みで、明日から学校見学会で1週間はお休みよ」
また愛梨はにっこり微笑む。
「楸、大学に行きたかったら兼業でもいいと思うの。受験してみたらどうかしら」
「今の僕が試験に受かるとは思えない」
「チャレンジしなくて後悔しない?」
「愛梨と歌えるなら後悔はしない」
「薫と亮はどう?」
「俺は4人でangelだと思っている。高校のオーディションで三人でと言われたとき、選ばれた嬉しさだけで突っ走ってしまった。今考えると、大学に通い次のチャンスを待てば良かったと思っているんだ」
「俺も薫と同じだ。後悔している」
「じゃ、明日から回ろう」
三人はマネージャーに一週間休むとメールを打った。
愛梨はテーブルの上の名刺を更に動かし、並べ直した。
「私が気に入った順よ」
愛梨はメールを打ち始めた。すぐに電話が鳴った。
「夜分、失礼します。明日、お目にかかれますか?詳しいお話もしたいと思います」
『大丈夫ですよ。学校はお休みですか?』
「はい、お休みです」
『それでしたら、時間は9時半くらいでどうでしょう』
「構いません。会社にお伺いしてもよろしいでしょうか」
『来ていただけるのですか?』
「はい。是非伺いたいと思っています」
『それではお待ちしております』
「お願いします」
『こちらこそお願いします』
愛梨は魅力的な笑みを浮かべた。
「第一段階終了」
楽しそうな瞳は、少し悪戯っぽくて、わくわくしている目だ。
愛梨のそんな顔を見ていたら、高校時代に戻ったような気分になった。
負けず嫌いで策士の愛梨は、こんな顔をしているときは、必ずいい道を選択している。
「楸、音合わせ、してくれる?」
「もちろん」
楸は楽しそうに、バイオリンを持って、愛梨の後を追う。
愛梨はピアノの前に座ると、懐かしいangelの曲を奏でて、歌を歌い出した。
薫もギターを取り出し、音を合わせていく。
亮は叩く物がなくて、ソファーに座ってエアードラムをする。
選曲もしていく。
未練が残った、最後の舞台で弾けなかった曲は一番に入れた。
「あと私の歌をスカウトしてくれたから、私の歌にも合わせてくれる?」
愛梨は楽譜をコピーして、3人に渡した。
即興で演奏できる彼らはさすが、愛梨が集めた仲間だ。
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