幼馴染みの彼と彼

綾月百花   

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 俺は菜都美の泣き声で目を覚ました。


「菜都美」

「んぱんぱふえん」

「真」

「ここは?」

「救急車の中だ」

「大袈裟だよ」


 俺は動こうとしたが、担架に縛られていた。


「動かないでください」と救急隊の人に注意をされた。

 なんだか顔と痺れるように痛む頭にガーゼが貼られているような感じがする。

「親父がすまない」

「叔父さんは?」

「警察に捕まった。馬鹿な父親だ」

「俺が悪いって思わないと、辛かったのかも」


 俺は、菜都美の足に触れることができた。


「泣かなくてもパパは元気だよ」

「んぱんぱふえん」


 病院に着いて、診察をして、検査もされた。

 頭を鉄パイプで叩かれていたようで、検査入院になった。

 菜都美は泣き疲れて眠ってしまった。

 菜都美を俺のベッドの中に寝かせて、落ちないように柵を上げておく。


「あっちゃん、菜都美が夜中に目を覚まして、お腹を空かせないようにパンでいいから買っておいて。甘くないパンね。オレンジジュースも。ストローついているのだよ。果汁100%ね。鞄は持ってきた?」

「忘れた」

「そうしたら、おしめも買ってきて女の子のMサイズね。お尻ふきも忘れないで。まだ売店空いていると思う」

「真をひとりにしたくない。母親が来たら、殺されてしまうかもしれない」

「ナースコールあるから、誰か来たら看護師さん呼ぶから、菜都美の事お願い」

「分かった」


 篤志は俺にキスしてから、部屋から出て行った。

 俺は菜都美を抱きしめた。

 怖いところを見せてしまった。

 心に傷を付けたくないのに、どうして叔父さんは大切なこの時期に暴力など起こしたのだろう。

 完全に刑事事件になってしまった。

 頭と殴られた頬の痛みと同じくらい胸も痛い。

 篤志が可哀想だ。

 成人した子供の将来に口出すことはあっても、最後に決めるのは本人だ。

 篤志は29才だ。

 もう立派な大人なのに、いちいち口出しされるのは、俺でも嫌だ。

 篤志の心中が心配だ。

 今回は篤志は叔父さんを蹴って、窒息しかけていた俺を助けた。

 篤志に自分の両親に手を上げさせては駄目だ。

 怪我をさせても、無傷でも篤志の心が傷つく。

 篤志は走って買い物をしてきたのか、珍しく息を乱している。

 俺が言った物は確実に買ってきてくれたが、コップや歯ブラシや櫛、箸などの入院に必要な物は、何一つ買ってきていない。


「あっちゃん」


 俺は篤志を呼んだ。


「キスして」

「いいのか?」

「早く」


 篤志は俺にキスして、俺を抱きしめてきた。

 篤志はやはり震えていた。

 混乱しているんだ。


「真、死なないでくれ。俺をひとりにしないでくれ」

「俺は死なない。俺には菜都美を大人になるまで育てる義務があるからね。俺と結婚したあっちゃんも、俺と同じ義務があるんだよ。一緒に菜都美を育てよう。8ヶ月の赤ちゃんだから、目を離したら危ないんだよ。俺は小さな頃からあっちゃんが好きで、結婚できたことが嬉しい。だから、俺と一緒に菜都美を今は一番にしてあげよう」

 俺は篤志の手を握った。


「分かった」

「あっちゃん、ありがとう」

「真の願いは、必ず叶える」

「俺もあっちゃんの願いを叶えるからね」


 篤志はやっと少し落ち着いてきた。


「忘れ物、多いな」

「割り箸とコップと歯ブラシと歯磨き粉が欲しいな」

「買ってくる」

「あと、あっちゃんの夕ご飯ね」


 篤志は照れくさそうに笑った。


「菜都美の歯ブラシも買ってくる」

「お願いね」

「任せろ」


 やっと篤志がいつもの笑顔を見せた。


「あっちゃん、好きだよ」

「俺は真しか見えていなかった。菜都美は真の子だ。真の子は俺の子だ。これから、ひとりにしたりしない」

「あっちゃん、ありがとう」


 篤志は俺にキスをすると、部屋から出て行った。

 その日の夜に、弁護士の円城寺先生が来てくれた。

 篤志の父親は、再逮捕になり、裁判の日まで投獄されるそうだ。

 大塚電気の社長は、社長職を剥奪されたらしい。

 何故、篤志に拘ったかと話し出したようだ。

 篤志のプロのプログラミングの腕を自分の物にしたかったらしい。娘と結婚させたら、会社を任せられると思ったと言った。

 全て自供をして、全て無くした元社長は、示談の話し合いを望んでいると言われた。

 俺は承諾した。

 お嬢様も「父親の言いなりに動いていました」と話した。

 恋愛感情はありましたと告げていたようだ。


「付き纏ってすみません。もう近づきません」と謝罪をしたそうだ。


 俺が示談を受け入れたので、後は弁護士の先生同士が話し合いをするようだ。

 助けたい篤志の父親は、今日、俺に暴力を働いて、怪我をさせてしまったので、傷害事件になってしまった。

 示談の話し合いで終わる内容ではなくなってしまった。

 篤志の心が心配になった。

 けれど、落ち着いた篤志は、俺と約束したとおりに、菜都美のことを一番に見てくれるようになった。

 一泊入院して、俺は東京の病院に転院することになった。

 篤志は菜都美と俺の実家に戻って、車で戻ることになり、俺はドクターヘリで運ばれた。

 きっと菜都美が泣いていると思うと、気がかりだが、「責任を持って菜都美を真のところに連れて行く」と篤志が言った。


「菜都美は俺と真の子だから」と言ってくれた。


 篤志の心の中で、何かが変化したような気がする。

 俺は先に東京の病院に運ばれて、精密検査を受けている。

 金属パイプは、俺の工場の物だと思う。

 それをこっそり盗んで、俺が工場に入っていったのを見ていたのだろう。

 軽い急性硬膜外血腫があるが、今は安静にしていればいいと言われた。

 叩かれてできた外傷は、髪で隠せそうだ。

 10針ほど縫われた。

 短く切ったら、それこそ傷跡が目立ってしまいそうだ。

 俺は髪が長くて、良かったと思った。

 腕や腹や背中を叩かれたが、打撲と言われた。

 指と手首が折れてなくてよかった。

 プログラムを書ける術が残っていれば、多少の傷は我慢できる。

 俺は弁護士の円城寺先生に「減刑で」とお願いしてある。

 篤志の父親なので、厳罰は望んでいない。

 その代わり、今後、俺と俺の娘に近づかないようにして欲しいと頼んだ。

 篤志は実の父親なので、何かあれば手を貸さなければならない事もあるかもしれないので、篤志のことはお願いしていない。

 篤志が円城寺先生に「自分も」と言えば、接近禁止命令は出されるだろうけれど、今はしていない。

 検査は終わり、俺は暫く入院になってしまった。

 篤志ひとりで、菜都美の世話ができるだろうか?

 心配だ。
 
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