執着もの短編集

円みやび

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悪魔に魂を売った日

悪魔に魂を売った日 前編

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サラサラの髪の毛に十五歳として相応の身長に健康的な体型の双子の弟である圭介(けいすけ)とは違い目元まで隠れた髪は癖が酷くクルクルで小学生と間違われるほど小さい身長にガリガリの身体の悠介。

小さい頃はそっくりだと言われたその顔も今や別人になってしまった。

よく笑う圭介とは違い愛想笑いも出来ない祐介は小さい頃から子供らしくなく大人びた発言をすることが多かった為、大人たちから疎ましがられた。

「圭介と違って悠介は可愛くないわねぇ」これが母の口癖であり大人たちの共通認識だった。
幼稚園の頃は圭介と同じ服にご飯を与えられていたように思う。

それが歳を重ねるごとに服は圭介のお下がりを着せられるようになりご飯は碌なものを与えられなくなった。
父は大企業の役員だった為どちらかと言えば金持ちの部類に入ったにも関わらず、両親は悠介にお金をかけることをものすごく嫌がった。

それでも小学生の頃は良かった。
給食があった為、一日一食はちゃんとしたものを食べられた。
中学生になりお弁当になってからは悠介の分は勿論なかったので母の財布からバレないように小銭を盗み八枚切りのパンを一日に一枚だけ食べるようにして空腹を紛らわせた。

それでもどうしても我慢出来ない時は夜中に冷蔵庫のものを漁って食べた。
それが母にバレるとハンガーで殴られるのでバレないものを少量だけ。

圭介と悠介の身体の差がこれだけあればおかしいことに周りも勿論気がつく。
それでも頭の回転が速く無愛想な悠介は教師たちからも面倒な存在であり、何とかしようと動いてくれる教師はいなかった。

けれど悠介はそれで良かった。
教師が相談に乗ってくれたとして家族の対応がいい方向に向かうとは思えなかったし児童相談所だってたいして役に立たない事を知っている。

それにこの十一年を超える苦痛を両親に味わいさせたかった。
お腹いっぱい食べられない苦しみ。
暖房もつけられず毛布もない部屋で冬を越す辛さ。

周りの嘲笑うような馬鹿にしたような視線の中で毎日を過ごす苦痛。
気にそぐわない事をすれば痛みを与えられる恐怖。

悠介だって圭介のように愛して欲しかった。
顔に出ないだけで母も父も大好きだったし双子の弟は可愛かった。
何故自分だけ。死んでしまおうか。
何度心の中でこの問いかけをしたかわからない。

それでも悠介がしぶとく生き続けたのは両親に後悔させたかった。
悠介を可愛がれば良かった。
あんな事するんじゃなかったって。
その為になら悪魔にだって魂を売る。

そんな悠介の願いが届いたのかある日家に帰ると両親は血だらけになりながら土下座していた。
その横には顔を真っ青にして震えながら立っている圭介。
悠介に怯えている訳ではないと分かっていても上がる口角は抑えられない。

そんな無様な両親を目に焼き付けようと見ていると玄関が開く音がしてそちらに目を移すとこの世の人間とは思えないほど美しい男がいて呆気にとられた。

圭介だって隣の中学校にもファンクラブがあるほどイケメンだが比べるのも失礼だと思えるほどの顔立ちだった。

容姿も晒し出すオーラも普通じゃない。
多分ヤクザだ。
この男の気に少しでも触れてしまえば殺されると本能が感じ取る。






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