婚約者は俺にだけ冷たい

円みやび

文字の大きさ
3 / 34
1

3

しおりを挟む


家の近くにある居酒屋に和弘と座って乾杯する。
「おつかれー」
キンキンに冷えているビールを一気に半分ほど流し込む。

明日は土曜日で休みで相手は和弘なので今日はとことん飲んでやる。
「おいおい。今日は本当どうしたよ」
「うるさい…」
飲まなきゃやってられないぜ、と中年のおじさんみたいな事を呟きながらさらに酒を煽った。

こういう時、和弘は何も言ってこない。
優一が自分から話し始めるのを待ってくれているのだ。
さすが中学から一緒なだけはある。

友達などにΩだというと面白がられるか距離を置かれるかの反応が殆どだが和弘は困ったことがあれば言えよ、と一言言ってくれただけだった。

「なんで…お前いい奴なのに恋人できないんだ?」
「余計なお世話だ!それに、俺にはお前がいるしな」
何年もそばにいるが和弘が誰かと付き合った話を聞いたことがない。
βで顔もそこそこのイケメン、公務員で優しくて家事が好きとくれば引くて数多だろうに。


「あ、ビールおかわりで」
「聞いてねーし…」
いつも空いている店内は直ぐに次のビールが運ばれてくる。

校長の愚痴や生徒の将来の話しをしているとお酒が進んでしまうせいで普段言えないことから言わなくていいことまでポロポロと口からこぼれてくる。

「俺だって…俺だって奏多とイチャイチャしたい!なんで婚約者の俺が指一本触れれないのにアイツらはベタベタしてんだよ!!」
悔しい。
俺が普通のΩだったら高校卒業と同時に番っていたはずだ。

奏多に出会った時からずっと奏多だけが好きだ。
「おかげで俺は童貞な上にまだキスもしたことねーよ!!もう二十四歳なのに…」
「なら俺とするか?」
和弘が真剣な顔で聞いてきたので少しだけシラフに戻ってしまうがこれは流すべきだと頭の中で警報が鳴った。

「ばーか!冗談言うな!!」
「だよな。二十四で童貞なのは余りにも可哀想でよ」
「可哀想じゃねーもん」
いや、やっぱりそこそこ可哀想かもしれない。

「どーしたら俺の身体は発情してくれるんだろ」
発情誘発剤を飲んだ時でさえ、匂いがしないと言われてしまえばもう出来ることはない。

辛い。
Ωで番にもなることができて好きな人が婚約者で恵まれているはずなのに出来損ないなせいで全部台無しだ。

「ならもう別れちまえば?」
それが出来たらとっくにしてる。
もう解消しようと言いに行こうと思ったことは何度もある。

でも出来ずにズルズルとここまできてしまった。
「なんで、なんでなんだよ」
アルコールのせいで理性がなくなったせいか優一の目からは涙が溢れてくる。

いい大人の男が外で泣くなんてみっともないと分かっているのに止まらない。

「ごめ、」
「いいよ」
周りから見えないように突っ伏していると頭の上には暖かい手が乗って一定のリズムで撫でられる。

それが何故、奏多の手じゃないんだろうと思ってしまう自分の最低さと奏多はもう触れてくれない事実にさらに泣けてしまう。





しおりを挟む
感想 105

あなたにおすすめの小説

ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

【BL】声にできない恋

のらねことすていぬ
BL
<年上アルファ×オメガ> オメガの浅葱(あさぎ)は、アルファである樋沼(ひぬま)の番で共に暮らしている。だけどそれは決して彼に愛されているからではなくて、彼の前の恋人を忘れるために番ったのだ。だけど浅葱は樋沼を好きになってしまっていて……。不器用な両片想いのお話。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

【完結】初恋のアルファには番がいた—番までの距離—

水樹りと
BL
蛍は三度、運命を感じたことがある。 幼い日、高校、そして大学。 高校で再会した初恋の人は匂いのないアルファ――そのとき彼に番がいると知る。 運命に選ばれなかったオメガの俺は、それでも“自分で選ぶ恋”を始める。

処理中です...