婚約者は俺にだけ冷たい

円みやび

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家の近くにある居酒屋に和弘と座って乾杯する。
「おつかれー」
キンキンに冷えているビールを一気に半分ほど流し込む。

明日は土曜日で休みで相手は和弘なので今日はとことん飲んでやる。
「おいおい。今日は本当どうしたよ」
「うるさい…」
飲まなきゃやってられないぜ、と中年のおじさんみたいな事を呟きながらさらに酒を煽った。

こういう時、和弘は何も言ってこない。
優一が自分から話し始めるのを待ってくれているのだ。
さすが中学から一緒なだけはある。

友達などにΩだというと面白がられるか距離を置かれるかの反応が殆どだが和弘は困ったことがあれば言えよ、と一言言ってくれただけだった。

「なんで…お前いい奴なのに恋人できないんだ?」
「余計なお世話だ!それに、俺にはお前がいるしな」
何年もそばにいるが和弘が誰かと付き合った話を聞いたことがない。
βで顔もそこそこのイケメン、公務員で優しくて家事が好きとくれば引くて数多だろうに。


「あ、ビールおかわりで」
「聞いてねーし…」
いつも空いている店内は直ぐに次のビールが運ばれてくる。

校長の愚痴や生徒の将来の話しをしているとお酒が進んでしまうせいで普段言えないことから言わなくていいことまでポロポロと口からこぼれてくる。

「俺だって…俺だって奏多とイチャイチャしたい!なんで婚約者の俺が指一本触れれないのにアイツらはベタベタしてんだよ!!」
悔しい。
俺が普通のΩだったら高校卒業と同時に番っていたはずだ。

奏多に出会った時からずっと奏多だけが好きだ。
「おかげで俺は童貞な上にまだキスもしたことねーよ!!もう二十四歳なのに…」
「なら俺とするか?」
和弘が真剣な顔で聞いてきたので少しだけシラフに戻ってしまうがこれは流すべきだと頭の中で警報が鳴った。

「ばーか!冗談言うな!!」
「だよな。二十四で童貞なのは余りにも可哀想でよ」
「可哀想じゃねーもん」
いや、やっぱりそこそこ可哀想かもしれない。

「どーしたら俺の身体は発情してくれるんだろ」
発情誘発剤を飲んだ時でさえ、匂いがしないと言われてしまえばもう出来ることはない。

辛い。
Ωで番にもなることができて好きな人が婚約者で恵まれているはずなのに出来損ないなせいで全部台無しだ。

「ならもう別れちまえば?」
それが出来たらとっくにしてる。
もう解消しようと言いに行こうと思ったことは何度もある。

でも出来ずにズルズルとここまできてしまった。
「なんで、なんでなんだよ」
アルコールのせいで理性がなくなったせいか優一の目からは涙が溢れてくる。

いい大人の男が外で泣くなんてみっともないと分かっているのに止まらない。

「ごめ、」
「いいよ」
周りから見えないように突っ伏していると頭の上には暖かい手が乗って一定のリズムで撫でられる。

それが何故、奏多の手じゃないんだろうと思ってしまう自分の最低さと奏多はもう触れてくれない事実にさらに泣けてしまう。





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