婚約者は俺にだけ冷たい

円みやび

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名前が同じだけで違う店だろう、と振り返りニュースの続きを確認したがやはり理事長のお店だった。

ニュースによると「都内の病院から同じような症状を訴える患者が複数人いる」と保健所に連絡があり調べたところ、鳥夜亭で食事をとっていたことがわかったらしい。

保健所の調査によると患者と従業員一名からノロウイルスが検出され、ノロウイルスが原因の食中毒だと判明した。

『その上、鳥夜亭の鳥は全て国産ということで知られていますが全て中国産だったことが分かりました』

「え?」
優一の手から箸が落ちて店の注目を集めてしまう。
「知り合い?」
優一の動揺が正樹に伝わってしまったのだろう。
正樹の問いかけに何と言えば良いのかわからなくて言葉に詰まって首を振った。

知り合い、という簡単な関係じゃなかった。
でも今は知り合いとさえ言うのは許されていない。

大丈夫なのだろうか。
国産というのが売りだったのが偽造していたと知られれば潰れてしまうのでは?
今回のことで学校やその他の経営にも打撃を受けるだろう。

奏多は大丈夫なのか?

テレビの中では理事長に群がるマスコミが映されている。
産地偽造で食中毒、どれほどの影響が出るのだろうか。

「死人が出た訳じゃないし大丈夫…だよな?」
「死人?」
気づかないうちに口から出てしまっていたらしい。

「いや、食中毒っていうからさ」
「ああ、テレビ。ホント、大変そうですね」
正樹のなんてことなさそうな平坦な口調に優一も我に返った。
そうだ。
関係のない人ならこんな反応をするはずだ。

自分が動揺しているのはおかしいとわかっているのに奏多を心配する気持ちは止まらない。

いつもは美味しくて止まらない箸が全然進まず、優一がやっと半分食べ終わった頃には正樹は完食していた。

ニュースを聞くまではあれほど減っていたお腹にももう入りそうにない。
「食べてくれない?」
「え!いいの?」
残すことは出来ないので正樹に頼むと喜んで食べてくれた。

いつものように頬に詰め込む正樹を見てホッと息を吐いてテレビに視線を戻した。

『食中毒はノロウイルスが原因だから産地は関係ないにしてもこれは問題ですね』
『そうですね。広告にも大きく国産だと出してしまっていますから』

ニュースキャスターが話しを進めていくが優一が気になっている学校のことや奏多のことは話しに出てこなかった。

どういう状況なのか不安はあるが話題になっていないとなると飲食店以外はそこまで巻き込まれていないのかもしれない。

「俺、ちょっと電話してくるよ」
頬張っている正樹は指を立ててグッとサインを出したので店を出ていつぶりかに携帯に電源を入れた。

着信履歴の一番上にあった電話番号にかけると相手も待っていたのかすぐに繋がった。

「和弘、大丈夫か?」
「久しぶり。今はまだ、な」
そうか。
今ニュースに出たところだから生徒たちが騒がしくなるのはこれからだろう。
和弘含む、教師たちはその対応に追われるはずだ。

「あのさ、」
全ての経緯を知っている和弘に奏多のことを聞くのは憚られて口篭っているとため息が電話口から聞こえた。

「はぁ、わかってる。藍沢だろ。今は何もないけど注意深く見とくよ」
「ごめん…ありがとう…」
「気にすんなよ」
その後は最近の優一の暮らしや和弘の話を軽く話して電話が切れた。

携帯の画面をスライドしてある番号で指が止まった。
登録もされてないけど一度だけかけたことがある。

相手は出たが何も言わずに切ってしまった。
きっと迷惑電話だと思われて拒否されているだろう。

「大丈夫なのか」

繋がってもいないのについ問いかけてしまう。
すぐに収集されて収まるはずだと分かっていても胸騒ぎが止まらない。
奏多には無理かもしれないけどずっと幸せで楽しくいて欲しい。

今回のことで学校で何か言われたりしないだろうか…。
どれほど優一が心配しても意味はない。

「優一さん!終わりました?」
正樹が“幸”から出てきて優一の肩を叩いた。
「ビックリした…」
「すみません。けど電話したなかったから終わったのかなと思って。暗くなったしそろそろ帰りましょう」

もう二十一時前になる。
真っ暗になった山の中を車で上がっていくのは危険すぎるしまだメールのチェックなどが出来ていない。

「どこかに泊まろう」
「ええっ!それはまずい!!」
「明日仕事休みだろ?」
他に何か用があるのか、と聞くとないと言うのに泊まりはなぁ、と一人でぶつぶつ喋っている。

「お金は勿論、俺が出すよ。幸の食事代も」
財布からお金を出そうとすると正樹に止められる。
「いいです。いつも食べさせてもらってるのでこれくらい。それよりも、泊まりが。うーん」
正樹は頭を抱えていいのか?いいよな?暗すぎて事故して優一さんが怪我する方がヤバいよな?と一人で会話を続けている。





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