婚約者は俺にだけ冷たい

円みやび

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観光地でもない場所にお洒落なホテルは無くビジネスホテルに駆け込んだ。
部屋を分けた方がいいかな、と思ったが二人で来てわざわざ違う部屋にいるのも寂しい気がしてツインにした。

「ツイン…」
チェックインして部屋のカードを正樹に渡すと何か言いたそうに優一を見てくる。
「なんだよ…そんなに嫌?」
同じ部屋になるのをそんなに嫌がられると悲しくなってくる。

「嫌、とかじゃないですよ!!ほんとに!!!」
「本当かよ…」
必死に弁解する正樹をほったらかしにして部屋の中に入った。

「俺、仕事するからお風呂とか先入ってて」
「お、お風呂…殺される…」
「は?」
「いやいやなんでも!じゃあお風呂先入ります!!!」

正樹の言動がいちいちおかしい。
優一と同じ部屋で一晩一緒にいるのは嫌だったのかもしれない。
悪いことしたかな…と考えながらパソコンを立ち上げた。

「お、やっぱり売り切れてる!」
メロンの他にもいくつか出していたが全て売れており嬉しい気持ちが込み上げてくる。

明日帰ったらまた収穫と梱包を手伝おうとワクワクしながらメールをチェックする。

理事長のお店のニュースは世間ではどれくらい取り上げられているのだろう。
調べようとサイトを開いたら一番上に大きく、“鳥夜亭は国産じゃなくて中国産だった!”という見出しが出てきた。

恐る恐るクリックして下にスライドさせ記事についているコメントを読んで驚いた。

当たり前かもしれないがそこは容赦ないバッシングの嵐だった。
「裏切られた」「国産にしては不味いと思っていた」「信用できないから系列の製品も買わない」などなど多くの厳しいコメントが並んでいる。

優一の考えが甘かった。
産地偽造といっても食中毒の原因じゃないんだし…という軽いものではなかったのだ。

コメントには理事長がやっていた企業の製品や学校についても寄せられていて優一は生徒たちが巻き込まれないことを祈ることしか出来ない。

「奏多…」

理事長はこれからどうするのだろう。
しっかりした対応をとって上手く対処してもらいたい。

「上がりましたー」
聞こえてきた声にハッとして振り返ると髪の毛から水を滴らせて正樹が立っている。
「ちゃんと拭かないと風邪ひくよ。こっちにこい」
優一が手招きして正樹を側に呼んでベッドに座らせた。

染めているのか茶色の髪の毛を雑にガシガシと拭いてやる。
「イテッ、優しくして」
「何が優しくして、だ」
クスクス笑い合いながら正樹と戯れ合っていると優一の気持ちが楽になる。

「食中毒やつ、気になってるの?」
「あ…」
記事を開いたままだった。
わざわざ見たというより正樹の目に止まってしまったのだろう。

なんて言おうか…
知り合いじゃないと言った手前どうして気になるのか聞かれたらどう答えるのが知らない人として正解なのだろう。

「まぁな」
「ふーん」
優一の焦りとは別に正樹はそれ以上なにも聞いてこなかった。

「俺、もう眠いから先に寝てるね」
「え!もう寝るのか?」
まだ二十二時にもなっていない。
正樹と何かをしたかった訳ではなかったがすぐに寝ると言われると物足りなさがある。

「うん。明日は何時に出る?」
「九時でいいんじゃないか」
「りょーかい!!おやすみ」
あっさりとベッドに潜ってしまった正樹に手持ち無沙汰になり少しの間丸まっている布団を見ていたが動かないので諦めてもう一度パソコンの前に座った。

優一もお風呂に入って寝よう。
起きていればずっと奏多のことが心配で考えてしまう。

やっておいた方がいいことを片付けて優一はシャワーを浴びに行った。










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